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大山目指す-皆野アルプスを行く破風山ハイキング⑭

大好きなはずの尾根道なのに決して楽しいと言えない急斜面続きんの現実。確かにコース断面図を見てもまっすぐ進む道などほとんどなかったよな。認識が甘かった。のんのよくあるパターン、“来てみたら思っていたよりも険しい道続き”。

下りが終わればすぐに登り。そして目の前に現れた大きな岩。高さは3mほどと言ったところか、鎖が垂れ下がっている。看板には“鎖は一人で使い順番を守ること。”

出てきたな。

この岩に関しては写真コース案内でちゃんと目にしていた、でも実物を前にすると気が引けてしまう。こここそ手袋が必要と感じた場所だ。

「出てきたよ、たぁ。」

「これ登るの?」

「うん。」

しかし岩の脇には先に行けそうなスペースがある。

「もしかしたらこっちから行けるかも。」

「渡らなくていいなら、そっちの道を行こう。」

たぁに言われて先へと見に行くも残念ながら行き止まりだった。

「この道続きがなかった。だめだ、渡らないと。」

目の前の不安から現実逃避希望ののんは豚の鼻のような幹を写真撮影してみる。


 昨年二人は伊豆ヶ岳へ行った。名所である男坂の岩壁登り。Youtubeで事前確認し行ける判断したものの、実際その大きさとツルツル滑りそうな壁に垂れ下がる数本の鎖を目にし、怯えたのん。

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前の人はどんどん進み、彼女の番がやってきた。

「どうやって進めばいいのかわからない。」

岩を登り始めてすぐに叫ぶ。

「止めていいよ。」

たぁか発せられたその言葉で不安が不安を呼び、登るのを止め、後ろの人に道を譲った。

「たぁが「頑張って行け」って言ってくれたら行けたのに。」

恐怖で不安定なのんはたぁに八つ当たり。

「無理に行かなくていいよ。僕は安全なハイキングがしたいだけ。」

たぁが一人なら多分、渡れたであろう。しかし彼はのんを考えて動いている。それをのんも知っているからこそ、山での隊長はたぁと決めているのだ。

「うん。私も。」

明確なたぁの言葉で冷静さを取り戻し、挑むことより安全の大切さに気付き、岩壁を断念し、登らずとも険しい女坂へと移動した苦い経験。


岩を目の前に蘇る思い出。しかし以前とは高さが異なり、岩はゴツゴツ鎖は一本。

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「スリリングな道って書いてあったけど本当だね。」

「そんなことが書いてあったのにこのコース選んだの?」

「だって写真では大丈夫そうだったんだもん。」

たぁには包み込む優しさがある。もしこの道をたぁが選んでいたら、のんは不安からたぁを責めていただろう。しかし彼は今できる最善を考え、登ることに頭を切り替えた。

「どっちから先に行く?」

のんは岩を見つめるも足の踏み出し方がわからない、お手本が必要だ。

「たぁからお願いします。」

たぁはハイキングスティックをのんに渡し、彼は岩へと足をかける。ゆっくり着実に。

「たぁ、気を付けてね。」

「うん。大丈夫。」

のんは彼の足の動きをしっかりと確認。“そこに足を置いて、次は・・うんそこね。”たぁの動きに注目していると気づけば既に登り終わっていた。

「たぁ、すごいっ!」

「うわぁー。」

「どうしたの、大丈夫?」

「うん、先もあるかちょっと見てくる。」

上に何があるのかな?先にもっと辛い岩場があるってことならどうしよう?ネガティブ空想は膨らむ。しばらくするとたぁの声が再び聞こえた。

「うん、大丈夫だよ。」

何が大丈夫なのかよくわからないがとにかく、ほっとする。多分、道は合っているのだろう。次はのんの番だ。足運びは学び済み。同じ場所の足を置こうとすると・・・

あれっ?足が届かない。

足の長さはともかくたぁのほうが身長が高く体の使い方がうまい。思っていた通りにいかない。足場を頼りに進もうと思ったけど、こうなったら仕方がない、上半身が頼りだ。鎖を持つ手に力が入る。ちょっとずつ上に近づくもたぁの姿も見えなければ声も聞こえない。

大丈夫だと思って先に進んじゃったかな?

取り残された感がのんに孤独を与える。しかし、ここでネガティブに浸る余裕なんてない、のんは心配を力へと変える。たとえたぁの姿が見えても助けてもらえるわけじゃない。自分を信じる他ないんだ。足場の間隔が広くとも鎖を使ってうまく移動できるようになっている。

「がんばって。」

やっと聞こえたたぁの声。たぁは先に行かずにちゃんと上で待っていてくれていた。それだけで嬉しい、不安を力に変えるよりもたった一声でもっとたくさんの力が湧き出る。

単純なのんにはたぁが必要、たぁの応援が必要。

そしてようやく登り切ると目の前には山が連なり麓に町と田んぼが広がっている。

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岩場の上で足元は決して良くない、しかし足がすくみながらもがんばったご褒美はちゃんといただく。午前中より雲が増えたかな。でもまだまだ太陽が勝っている。これながら午後の雷雨も来ることがないだろう。テレビ天気予報よりお天気アプリの勝利。信じてハイキングに来てよかった。

飴とムチが激しいコース。これが道か?と疑う細道の先には顔の取れた石造様が祀られている。太陽降り注ぐ木の根道を行けば12時23分、標高653m大前山到着。


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