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【コメディ】誘拐クッキング

愛する娘を誘拐された真由美のもとに、身代金を要求する電話がかかってきます。

娘の元気な声を聞いて無事を確かめたい真由美でしたが、昨日食べたものの話を娘から聞いた途端、違うスイッチが入ってしまいました。

彼女は大切な娘を取り戻せるのか?
いや、そんなことよりもっと大切な関心事があるのか?
誘拐犯との終わりの見えないバトルは、一体どこに向かうのでしょうか?

*************
▶ジャンル:コメディ

▶出演

  • 真由美:原田有紀(東北新社)

  • 玲奈:關明美(東北新社/OND°)

  • 誘拐犯:稲村忠憲(オムニバス・ジャパン)

▶スタッフ

  • 作/演出:山本憲司(東北新社/OND°)

  • プロジェクトマネージャー:大屋光子(東北新社)

  • プロデュース:田中見希子(東北新社)

  • 収録協力:オムニバス・ジャパン

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『誘拐クッキング』シナリオ

登場人物
 真由美(40)
 玲菜(9)
 誘拐犯(?)

   電話呼び出し音。ガチャッ。
真由美「もしもし? もしもし!」
誘拐犯「こんばんは。三輪真由美さん」
真由美「玲奈は! 娘は大丈夫なんですか!」
誘拐犯「警察に通報してないだろうな」
真由美「してません! 玲奈は元気なんですか!」
誘拐犯「ああ元気だよ」
真由美「玲奈の声を聞かせてください!」
誘拐犯「いいか。娘があんたのもとに帰れるかどうかはあんた次第だ」
真由美「わかってます。何でも聞きます! 要求は何ですか!」
誘拐犯「五千万だ」
真由美「五千万!」
誘拐犯「明後日までだ。現金五千万。用意できるな」
真由美「明後日まで……」
誘拐犯「あんたいっぱいテレビ出てんだろ? 番組とかやってんだろ。五千万なんてはした金・・・・だろ」
真由美「いま私の手元にはそんなお金はありません。すぐに集められるかどうか」
誘拐犯「時間稼ぎしようったって無駄だぜ。娘さんを生かすも殺すもあんたにかかってんだ」
真由美「わかってます。なんとかします! とにかく、玲奈は元気なんですよね?」
誘拐犯「元気だって言ってんだろ」
真由美「せめて一言。一言声を聞かせてください!」
誘拐犯「……一言だぞ」
玲奈「ママー」
真由美「玲奈ちゃん! 大丈夫? 怖い思いしてない?」
玲奈「うん平気ー」
真由美「痛いことされてない? ちゃんと食べてる?」
玲奈「食べてるよー」
誘拐犯「もういいだろ!」
真由美「もうちょっと。もうちょっとだけ!」
誘拐犯「チッ」
真由美「ご飯はしっかり食べさせてもらったのね!」
玲奈「食べてるよー。おいしかったよー」
真由美「何食べたの?」
玲奈「昨日は、カツ丼」
真由美「カツ丼?」
玲奈「うん。どんぶりの上にね、あふれそうなぐらい大きなトンカツが乗っててね、濃いめで甘めのタレが染み込んでてね、ひとくち口の中に入れると濃いタレがまずジュワーっと口の中に広がるの。それで、タレが染み込んでる部分と、タレがかかってなくてサクサクが残ってる部分がちょうどいいバランスの衣の食感を楽しんでると、そこに分厚くて、でも硬くなくてふっくらやわらかな豚肉の旨味がお口の中に広がってきたよ」
真由美「そぉ~!」
誘拐犯「もういいだろ。身代金の受け渡し場所だが──」
真由美「もう少し聞かせて!」
誘拐犯「ちょ、おい!」
真由美「玲奈ちゃん、ごはんはどうだったの?」
玲奈「ごはんにもしっかり濃いタレが染み込んでたよ。でもごはんはやわらかすぎなくて、プリプリッとしてちょうどいい噛み心地のごはんなの」
真由美「そぉ~」
玲奈「だから、お米の優しい甘みがお口の中にふわーって広がって、濃いタレに負けてなかったよ」
真由美「あらそぉ~」
誘拐犯「一体何の話してんだよ! いいか。身代金の受け渡しだが──」
真由美「一体どちらのお蕎麦屋さんなんですか!」
誘拐犯「は? いや、身代──」
真由美「それともトンカツ屋さんですか?」
誘拐犯「蕎麦屋でもトンカツ屋でもねえ!」
真由美「じゃあもしかして……カツ丼専門店?」
誘拐犯「違う! あのなあ──」
真由美「ええ? そんなおいしいカツ丼を出すお店、一体どこに」
誘拐犯「どこでもいいだろ!」
玲奈「ママー」
誘拐犯「お前は黙ってろ!」
玲奈「きゃー」
真由美「玲奈ちゃん! 大丈夫!」
誘拐犯「何でもない。いいか、とにかく──」
真由美「いま殴りませんでした?」
誘拐犯「なんもしてねえよ!」
真由美「何もしてないんだった声聞かせてください!」
誘拐犯「今聞かしただろ。身代金──」
真由美「信じられません!」
誘拐犯「チッ。……おいっ」
玲奈「ママー」
真由美「玲奈ちゃん!」
玲奈「卵が半熟なの~」
真由美「なんですって!!」
玲奈「普通に卵でとじてあるんじゃなくて、半熟の目玉焼きみたいなのが乗っててね、それがトロリととろけて口の中で濃いタレと絡んで、絶妙なまろやかさを醸し出すの」
真由美「いやーん、ステキ~!」
誘拐犯「だから何の話だよ!」
真由美「もうたまらない! 犯人さん、ありがとう」
誘拐犯「は?」
真由美「玲奈にこんな美味しいカツ丼を食べさせてくれてありがとう!」
誘拐犯「ど、どういたしまして」
真由美「ソースカツ丼とかデミグラスカツ丼とかいろいろ種類はあるけれど、やっぱりカツ丼は卵とじに限る! わね」
誘拐犯「だよな。じゃねえ! いいか、おい──」
真由美「豚はどこのかしら?」
誘拐犯「は? 知らねえよ。で、──」
真由美「あなたがお作りになったんでしょ?」
誘拐犯「違う! だから、明日──」
真由美「だって半熟玉子の状態なんて、作りたてじゃなきゃ食べられないもの」
誘拐犯「だから身代金を──」
真由美「お肉にもこだわってるんじゃない?」
誘拐犯「別にこだわってねえ! スーパーで売ってるやつだ」
真由美「え? じゃあどうやって柔らかさを?」
誘拐犯「明日の同じ時間に電話するからな。そこで──」
真由美「ひと手間かけてるのね!」
誘拐犯「普通のことをしてるだけだ! 筋切りに丁寧に時間をかける。コツはそれだけなんだよ!」
真由美「なーんてこと!」
誘拐犯「明日電話するからな! 明日の同じ時間に──」
真由美「卵はどうされたの?」
誘拐犯「いいか、おい、ちゃんと用意しとけよ!」
真由美「どうやって『サクッと感』を出されたの?」
誘拐犯「いやあの、特に難しいことはしてねえ!」
真由美「でも衣に馴染ませようとすると卵は固くなるでしょ。固くならないようにしようとすると馴染まないでしょ」
誘拐犯「だから二回に分けんだよ!」
真由美「二回に? 分けるの!」
誘拐犯「鍋にな、卵の半量を加えて、鍋の柄を持ってゆっくりと回しながら1分ほど煮て、出汁と卵をなじませんだ。そこに残りの卵を十秒ほど加熱して蓋をするんだ」
真由美「じゃあ半熟は?」
誘拐犯「半熟は別の鍋に作るんだ。時間逆算してな」
真由美「なんて手間をかけてるの!!」
誘拐犯「あのなあ。カツ丼のことなんかいいから、いいか? おい、──」
真由美「きっとタレにもこだわってるのね」
誘拐犯「五千万だぞ! 五千万!」
真由美「出汁は鰹かしら」
誘拐犯「出汁は悪いけど『和風だしの素』で済ましてるんだよーっ!」
真由美「そんな!」
誘拐犯「しょうがないだろ時間に余裕がないんだから! でもその代わり、かえしは醤油とみりんだけじゃないぞ。砂糖をちょっと入れるんだ。砂糖小さじ2入れることでトンカツにしっかり馴染むタレになるんだ。そこにはこだわってるんだ。わかったか!」
真由美「素晴らしいわ! よく考えられてるわね!」
誘拐犯「あー畜生! 何やってんだー!」
真由美「どうしたんです、犯人さん!」
誘拐犯「俺のカツ丼作りのコツ洗いざらい披露してしまったじゃねえかよ!」
真由美「とっても勉強になったわ! 今度私の料理番組で紹介させていただけたら──」
誘拐犯「もういい! 話は終わりだ!」
真由美「待ってください! 玲奈ちゃん!」
玲奈「ママー!」
誘拐犯「お前は引っ込んでろ!」
真由美「玲奈ちゃん!」
玲奈「茹だりすぎちゃうー」
真由美「何が?」
誘拐犯「だから、アルデンテじゃなくなっちゃうんだよ!」
真由美「まあ、今日はパスタなのね!」
玲奈「唐辛子とねー、にんにくとねー」
誘拐犯「ペペロンチーノだと思うだろ。ただのペペロンチーノじゃねえぞ! ひと味ちがうペペロンチーノなんだからな! いいか、覚悟しとけ!」
   ブツッ! 電話切れる。プー……
真由美「ペペロンチーノ、ボナペティ~ト!」
                              〈終〉

シナリオの著作権は、山本憲司に帰属します。
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【脚本:山本憲司】
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