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【コメディ】リバーサイドで愛が弾ける

ある日、幼馴染の来人から河原に呼び出された万理奈。
こんなところであらたまって一体何の話…?
高校の思い出を語り始める来人の要領を得ない話にイライラしながら付き合っていた万里奈は、来人が思い切った一言を言うたびに川に投げる石が、すごいミラクルを起こしていることに気がつきます。
ミラクルが気になって話が全然頭に入ってこない万里奈。
そして、彼女に告白しようと頭がいっぱいの来人。
二人のすれ違いは、どんな結末を迎えるのでしょうか?

*************
▶ジャンル:コメディ

▶出演

  • 万里奈:村木芳(オムニバス・ジャパン)

  • 来人:二瓶無我(東北新社/OND°)

  • レポーター:船越智子(東北新社)

▶スタッフ

  • 原案:里村仁志

  • 作/演出:山本憲司(東北新社/OND°)

  • プロジェクトマネージャー:大屋光子(東北新社)

  • プロデュース:田中見希子(東北新社)

  • 収録協力:オムニバス・ジャパン

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『リバーサイドで愛が弾ける』シナリオ

登場人物
 万里奈(38)
 来人らいと(38)
 娘
 レポーター

   石の河原をぎこちなく歩く。
万里奈「あ、痛ったーっ! グギッてなったグギッて。クロックスで来ればよかったー。なんで河原なんだよもう。日焼けしちゃうじゃん……」
来人「おう、万里奈」
万里奈「来人! おどかさないでよ! 何してんの!」
来人「何って、待ち合わせしただろ?」
万里奈「なにその格好。どっかお出かけ?」
来人「別に普通だよ」
万里奈「普通? まあいいけど」
来人「(話題を変えて明るく)いやーしかしー、久々だねー」
万里奈「先週会ったじゃん」
来人「先週?」
万里奈「ヤオコーで。夕飯かなんか買い物してたじゃん」
来人「ああ。いやいや、万里奈と二人っきりで喋るのが久々だって言ってんの」
万里奈「二人っきりで?」
来人「そうそう」
万里奈「そうだっけ?」
来人「つれないなぁ……」
万里奈「つれないって、幼稚園から高校までずーっと一緒でしょ」
来人「うん」
万里奈「高校出てからはそんなでもないけど」
来人「まあ」
万里奈「空気みたいなもんじゃない」
来人「空気? 俺が?」
万里奈「お互いにだよ」
来人「まあ……そうかもな」
万里奈「今さら二人っきりで、なんて言われてもさ」
来人「まあ、うん……」
万里奈「で? なに。どしたの」
来人「(口ごもって)うん……」
   ジャラジャラ(石を探している)
来人「いや、ね……そのぉ……」
万里奈「なになに、もったいぶっちゃって。なんか話があるから呼んだんでしょ?」
来人「まあ……ね」
万里奈「え、なんか悪いニュース?」
来人「いやぁ……」
万里奈「エッ? 誰か死んだ?」
来人「死んでないよ」
万里奈「なーんだ」
来人「勝手に人殺すなよ」
万里奈「じゃなに!」
来人「ったく相変わらずだなあ。まあ、思い出話でもしようかと思って、さ!」
   シュッと石を投げると水面を切っていく。
   ピチャッ×10回、チャポン。
万里奈「思い出話……」
来人「高校の頃はさ、よく一緒に遊んでたじゃん」
万里奈「なんで今思い出話」
来人「ゲーセンにもよく行ったよ、な!」
   シュッ、ピチャ×15回、チャポン。
万里奈「まあ、行ったかな。うん」
来人「覚えてない? UFOキャッチャーで3千円も使って」
万里奈「それは覚えてるけど」
来人「ビミョーなウサギのヌイグルミ取ったじゃ、ん!」
   シュッ、
万里奈「ああ、あれ。まだうちにあるよ」
来人「まだあんの?」
万里奈「今は私のもんじゃないけど……(水を切る石に気を取られ)」
   ピチャ×30回程度、チャポン。
来人「じゃ誰のもんだよ。……万里奈?」
万里奈「(我に返り)……ん? うん」
来人「なに」
万里奈「え? あ、いやいや、別に」
来人「懐かしいよな」
万里奈「ああ、うん」
来人「いろいろあったよな」
万里奈「あ、うん。あったかな」
来人「でさ、あの頃俺、なんて言ってたか覚えてる?」
万里奈「何の話?」
来人「覚えてないかー……」
万里奈「20年前言ったことなんか覚えてないよ」
来人「まぁ、そうだよな」
万里奈「全然話、見えないんだけど」
来人「いや、だからー、俺、言ったろ? ビッグに……ビッグになる、って!」
   シュッ、ピチャ×25回……
万里奈「(数えて)……3、4、5、6、7、8、9、10……25!」
来人「ん?」
万里奈「すごい! 来人!」
来人「俺? すごい?」
万里奈「すごいよさっきから!」
来人「いや、まだビッグにはなってないんだけど」
万里奈「ビッグって?」
来人「今俺のことすごいって」
万里奈「……?」
来人「……ま、いいけどさ。でさ、俺よーく考えたわけ」
万里奈「はあ」
来人「俺、東京に行こうと思うん、だ!」
   シュッ、ピチャ×20回程度……
万里奈「……5、6、7、8、9……18、19、20……」
来人「(途中で)……でね、」
万里奈「ちょっ待って!」
来人「え?」
万里奈「もぉ~、何回か分かんなくなっちゃったじゃん」
来人「何が!」
万里奈「(イラつき)いいから」
来人「え?」
万里奈「もう一回!」
来人「もう一回?」
万里奈「早く!」
来人「いや、だからぁ、俺、東京に行こうと思ってー」
万里奈「……」
来人「で……!」
万里奈「……って、投げないのかいー」
来人「え?」
万里奈「いや、もういいいいいい。もういい」
来人「何が」
万里奈「もういい」
来人「俺の話聞いてる?」
万里奈「何。何の話だっけ」
来人「聞いてない~(がっくり)」
万里奈「聞けないでしょ。聞く方に注意が行くわけないっしょ!」
来人「なんで」
万里奈「もしかして、無意識で投げてんの?」
来人「無意識?」
万里奈「ああ、なるほど。あー、じゃあ、はい。続けてください。話」
来人「お、おう。だからさ。えー、どこまで言ったっけ」
万里奈「どこまでか知らないけど早く」
来人「あ、そうそう。えー、東京に行こうと!」
万里奈「はいはい。(初めて気づき)エッ? 東京行くの?」
来人「そう」
万里奈「なんで」
来人「それを! 今から言おうとしてんじゃん」
万里奈「じゃ早く!」
来人「お、おう」
万里奈「早く話す!」
来人「だからさぁ(石を選ぶ)」
万里奈「うん」
来人「えーと、だからー(石を選ぶ)」
万里奈「うん!」
来人「だから……」
万里奈「早くしろ!」
来人「え?」
万里奈「早くぅ!」
来人「だから、ミュージシャンになろうと思っ、て!」
   シュッ、ピチャ×20回程度……
万里奈「来たーっ! ……8、9、10、11、12、13……」
来人「ねえねえねえねえ、聞いてる?」
万里奈「14、15、16……」
   ポチャッ。
万里奈「ああ……(無念)」
   再びピチャ×30回程度……
万里奈「再浮上したぁ! 22、23、24……」
来人「ちょっと。ねえ!」
万里奈「31、32、33 ……」
来人「おいって」
万里奈「うっさいな!」
来人「何だよもう!」
万里奈「また分かんなくなっちゃったじゃん」
来人「聞けよ!」
万里奈「何を!」
来人「俺はね!」
万里奈「(うるさそう)はい」
来人「お前のことが!」
万里奈「(うるさそうに)うん!」
来人「お前のことがずっと!」
万里奈「ずっと!」
来人「好きだったんだ、よ!」
   シュッ、ピチャ×82回……
万里奈「え?」
万里奈「7、8、9、10……」
来人「だからお前のことが」
万里奈「21、22、23、24……」
来人「好き……」
万里奈「32、33、34……」
来人「好きだったんだよ!」
万里奈「ちょ、ちょ、あとで!」
来人「え?」
万里奈「56、57、58……」
来人「おい、ちょっと!」
万里奈「70、71、72、73、74 ……」
   チャポン。
万里奈「うそ……!」
来人「万里奈……!」
万里奈「来人!」
来人「わかってくれた?」
万里奈「82回!」
来人「80……え?」
万里奈「あんた、天才!」
来人「天才?」
万里奈「すごい、天才だよ!」
来人「俺の才能、認めてくれんの?」
万里奈「てーんーさいっ! てーんーさいっ!」
来人「お、俺、天才?」
万里奈「すごい才能だよ、来人!」
来人「ミュージシャンになれる?」
万里奈「もう一回! もう一回!」
来人「(急に冷静になり)な、何を」
万里奈「水切りだよ!」
来人「水切り?」
万里奈「早くぅ!」
来人「水切りって何?」
万里奈「っておいっ!」
来人「なんだよもう! 話聞いてくれると思ったのに!」
万里奈「話入ってくるわけないでしょ。水切りが気になって」
来人「え? 石のこと?」
万里奈「ほんとに無意識でやってたんだ」
来人「そんなことより真面目に聞いてくれよ!」
万里奈「え?」
来人「告白してんだよ!」
万里奈「……告白?」
来人「そうだよ」
万里奈「何を」
来人「いや、(呆れて)だからぁ、また最初から?」
万里奈「あ、ミュージシャンになる、とかってやつ?」
来人「それはその前!」
万里奈「はあ」
来人「東京に出てミュージシャンになる。だから、俺と(直角に頭下げて)付き合ってくれぇ!」
万里奈「え?」
来人「ふぅ~、言えた……」
万里奈「……今……何つった?」
来人「もう一回言う?」
万里奈「ミュージシャンになるって?」
来人「そう」
万里奈「で、付き合ってくれ?」
来人「そう!」
万里奈「なんで」
来人「それは……そういうもんじゃん!」
万里奈「……」
来人「なんかセットみたいなもんじゃん」
万里奈「セット」
来人「そう。セットセット」
万里奈「……」
来人「……」
万里奈「いやいやいやいやいやいやいやいや、ないっ!」
来人「え?」
万里奈「私が水切りに集中してたすきに何言ってんの!」
来人「へ?」
万里奈「あのさあ、なんか若者の告白みたいな感じで河原に呼んだのかも知れないけどさ。いい? 私たち、もう38だよ、ねえ。もうこの時間のこの河原、勘弁してよ。紫外線が気になるお年頃なんだよ! それはいいとしても! 東京に行くって言ってるけどさ、ここ埼玉だよ。通い・・でよくない? 副都心線直通で30分じゃん。大体ミュージシャンになるって言うけどさあ、始めたの最近でしょ? 駅前のスクール通いだしてさ。20年ずーっとコンビニでバイトしてただけじゃん。ま、そういうのぜーんぶ譲ったとして、こういう場合、普通ギター担いでんじゃないの? あんた担いでんのドラムだよね。ドラム持って行くやつ見たことないよ。そんでもってついでに言っとくと私 、もう結婚しちゃってんだよ。20年待ってたんだよ。今頃告白なんて遅いわ! もう娘がいるわ! 娘がビミョーなウサギのぬいぐるみの持ち主二代目だわ! はぁ……はぁ……」
来人「万里奈……」
万里奈「はぁ……言い過ぎたかな」
来人「うううう、うううう、うわぁぁぁぁ!」
万里奈「え?」
来人「好きだったのに……好きだったのにいいいいい!(号泣)」
万里奈「来人!」
来人「絶対、絶対、絶対俺はビッグになる! ビッグになってお前を見返してやるぅぅぅぅぅぅぅ!」
   走り去る。
万里奈「来人……!」
   ×     ×     ×
万里奈M「その後、来人は町から消えた。うわさでは、ほんとにミュージシャンを目指して東京に行ったらしい。……そんなことも忘れかけてた一年後のある日──」
娘「ママー」
万里奈「どうしたの?」
娘「面白い動画見つけちゃったー」

レポーター「いま全米で話題沸騰中のインターナショナルな芸人、マーベラス・ライトさんです」
来人「ハーイ! 皆さん」
万里奈「来人?」
レポーター「ライトさんは先日ギネスの世界記録を獲られましたけど、今日はそのパフォーマンスを見せていただけるんですよね?」
ライト「はい。世界記録を獲ったぼくのこの水切りの才能に気づかせてくれた恩人がいまして、その恩人の名前をつけた技をご披露したいと思います。その名も、『マリナ・スプラッシュ』!」
万里奈「来人?」
レポーター「はい。それではよろしくお願いします」
来人「万里奈ー! 見てるかー!」
レポーター「では、どうぞ!」
来人「見てろよ万里奈ー!、これがマリナー、スプラーッ、シュ!」
   シュッ、ピチョン×永遠に続いていく……
万里奈「(深々と感心して)ああ……ビッグには、なってるな……」
                              〈終〉

シナリオの著作権は、山本憲司に帰属します。
無許可での転載・複製・改変等の行為は固く禁じます。
このシナリオを使用しての音声・映像作品の制作はご自由にどうぞ。
ただし、以下のクレジットを表記してください。(作品内、もしくは詳細欄など)
【脚本:山本憲司】
また、オリジナルシナリオへのリンクもお願いします。
告知にご協力できればと思いますので、作品リンク等をぜひお問い合わせフォームよりお知らせください。

*番組紹介*
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