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【コメディ】墓場のユ~ウツ

今回は、寝苦しい夏の夜にぴったりの(?)怪談をお届けします。

墓地で鉢合わせする「異形のもの」たち……
人間を恐怖のどん底に突き落とそうとする異形たちの前に、第三の存在が出現します。
恐ろしいほどの妖気を放ちながら、何故かしくしくと泣き続ける“それ”は、
異形の仲間なのか、それとも……?

……とシリアス風に書いてみましたが、こちらの怪談、怖い度0%の仕立てとなっております。
というか、それってもはや怪談なのでしょうか…??
真相は、あなたの耳でご確認ください。

*byプロデューサー 田中見希子

*************
▶ジャンル:コメディ

▶出演

  • メリーさん:塚口百合子

  • ろくろ首:田中園子(東北新社)

  • ユミカ:水原絵理(東北新社)

▶スタッフ

  • 作・演出:山本憲司(東北新社/OND°)

  • プロデュース:田中見希子(東北新社)

  • 収録協力:映像テクノアカデミア

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『墓場のユ~ウツ』シナリオ

登場人物
 メリー(?)現代的洋風妖怪
 ろくろ(35)伝統的和風妖怪
 ユミカ(18)高校三年

   人と人がぶつかる音。
メリー「痛っ! ちょっとあなたどこ見てんのよ!」
ろくろ「あらごめんなさい。見えてなくて」
メリー「エッ、頭どこ?」
ろくろ「こっちこっち。今戻しますから」
メリー「うわ、首ながっ! もしかしてあなた、あのろくろ首?」
ろくろ「失礼ね。わたしを呼び捨てするなんて。あら、あなた見ない顔ね。きれいな金髪……喋るお人形さん?」
メリー「あなたこそ失礼ね。あたしにはメリーっていう名前がちゃーんとあるので!」
ろくろ「あーはいはい。今風の妖怪ね」
メリー「モダンな・・・・って言ってほしいわ。大体妖怪でもないし」
ろくろ「あのね、メリーちゃん、あなたみたいなタイプがそうやってどんどんどんどん出てくるからわたしたち伝統的な妖怪は日本に住みにくくなってきたのよ」
メリー「あたしがどこでどう生きようと勝手でしょ。人間がいる限り、怖がらせるのがあたしの生きがいなので!」
ろくろ「ふん、生意気な」
メリー「生意気。それじゃ聞くけどろくろさん、最近あなた、人間を怖がらせた?」
ろくろ「は?」
メリー「古い人は知らないかもしれないけど『メリーさんの電話』って聞けば、子供からお年寄りまでみーんな震え上がるんだから。あなたが人間を最後に怖がらせたのはいつなのかな?」
ろくろ「な、夏になるといっぱい怖がらせてるわよ」
メリー「うそよ。コンクリートジャングルで暮らす21世紀の子供はそんなやり方じゃもう怖がらないわ。通用しないわよ」
ろくろ「なんですって? お人形だと思って言わせておけば!」
メリー「黙って!」
ろくろ「何よ! 言いたいことだけ言って」
メリー「違うの。なんかすすり泣く声が」
ろくろ「あ、あそこ。お墓の前だわ。制服着てる? 夜中にすすり泣く女子高生型の妖怪かしら。まったく次から次に新種が出てきて覚えきれないわ」
メリー「妖怪……」
ろくろ「ふふ、大きな口たたいて、あなただって新型の妖怪を脅威に感じてるんでしょ」
メリー「ううん、違うの。あれって……妖怪なの?」
ろくろ「妖怪でしょ。え、まさか人間?」
メリー「わかんないけど……」
ろくろ「でもあの背中から漂う妖気はなかなかのものよ」
メリー「そうだ。怖がらせてみればいいんじゃない?」
ろくろ「え?」
メリー「人間、いっぱい怖がらせてるってさっき言ったよね、あなた」
ろくろ「い、言いましたけど」
メリー「じゃあ、怖がるなら人間ってことじゃない。ねえ」
ろくろ「ふん、わかったわよ。見ていなさい」
   ひゅ~ドロドロ~
ろくろ「いひひひひひひひひ」
ユミカ「(すすり泣きつづける)」
ろくろ「ひひひひひひひひひひひひひ」
ユミカ「(すすり泣きつづける)」
ろくろ「ひひひ……だめだこりゃ」
メリー「なーんだ。そんなもんか」
ろくろ「妖怪なのよ。人間じゃないわよ」
メリー「いいわ。待ってて。あたしがお手本見せてあげる」
   黒電話が鳴る。
ユミカ「(泣き止んで)え? こんなとこに電話が。(電話を取って)……もしもし」
メリー「あたし、メリーさん」
ユミカ「だ、誰っすか」
メリー「だから、あたし、メリーさん!」
ユミカ「メリー?(思い出そうと)メリー、メリー……」
メリー「(怖い口調になり)今、あなたの後ろにいるの~」
ユミカ「なにこの人形」
メリー「エーン、怖がってくんないー!」
ユミカ「あ、人形が喋ってる!」
メリー「怖くないの? あたしのこと怖くないの?」
ユミカ「よく出来てんなー。最新のAIロボット?」
メリー「違うから。そういうんじゃないから!」
ユミカ「じゃあ何?」
メリー「どっちかというとそっちのろくろ首さんと同じ系だから!」
ユミカ「ろくろ首? あ、首ながー!」
ろくろ「ちょ、ちょ、ちょっと触らない!」
ユミカ「(きゃっきゃと笑って)首ながー!」
ろくろ「やめなさい! やめなさいって!」
メリー「あなたまさか人間?」
ユミカ「人間だけど。逆にあなたたちは?」
メリー「だからあたしたちは!」
ろくろ「もういいもういい」
メリー「だって……」
ろくろ「人間だったら紛らわしいことしないでくださる? こんな真夜中に墓地なんかで泣いて。家帰んなさいよ」
ユミカ「あ、そうだった……(またしくしく泣き出す)」
ろくろ「え?」
メリー「どうしたのよ。大丈夫?」
ユミカ「あたし……あたしひどいこと言っちゃって」
ろくろ「ひどいこと?」
メリー「いいから話してみなさいよ」
ユミカ「……今日、学校で三者面談があったのね……進路の話で……あたし、卒業したら家の美容院を継ぐことになってたんだけど、ほんとはあたしデザイナーになりたくって……内緒で進学先を美大で提出したもんだから、ママ、三者面談で初めて見てびっくりしちゃって。先生も、どういうこと?ってなっちゃって……」
メリー「なるほどー……」
ユミカ「家に帰ったら大げんか。で、言っちゃったの。あんたにあたしの気持ちなんかわかんないわよ! あたしのことなんていないほうがいいと思ってるんでしょっ!……ってママに……」
メリー「どうしてそんなこと……」
ユミカ「今のママ、あたしが幼稚園の時に再婚したママで。生んでくれたママはあたしが生まれた時に死んじゃって」
メリー「複雑な家庭だったのね……」
ユミカ「でもほんとは全然そんなこと思ってないの。ほんとのママ以上に世界一大好きなママなの。なのになんであんなこと……」
メリー「そう……」
ユミカ「どうしよう。あたしママから嫌われたかも」
メリー「つらいわね……あなたの気持ちとってもわかるわ」
ユミカ「あなた、人形なのに人間の気持ちがわかるの?」
メリー「当たり前でしょ。人間の気持ちがわかんなきゃ人間を怖がらせられないもの」
ユミカ「怖くはなかったけど……」
メリー「……そう。なるほど……ていうかろくろさん、聞いてんの? ろくろさん?」
ユミカ「首すんごい伸びてて頭見えないけど」
メリー「ろくろさん? ろくろさん! なによもうこんな時に。でもさ、帰ったほうがいいんじゃないかな。こんな時間だし」
ユミカ「……帰りたいけど……でもママに会わす顔が……」
メリー「そうよね……」
ろくろ「(突然)そんなことないわよ!」
メリー「どこ行ってたのよ、ろくろさん」
ろくろ「ママも泣いてたわよ」
ユミカ「エッ?」
ろくろ「あなた、ユミカっていう子でしょ」
ユミカ「そう」
ろくろ「わたしね、ちょいと首を伸ばしてこの辺りぐるっと見てみたのよ。そしたら一階が美容院になってるお家で女の人が泣いてたわ」
ユミカ「泣いてた?」
ろくろ「男の人が、パパかしら、ユミカは絶対帰ってくるからって慰めてたわ」
ユミカ「え……」
ろくろ「ママ、泣きながら言ってたわよ。わたしユミカにひどい言い方をしてしまったって」
ユミカ「ママが? あたしのほうが悪いのに……」
ろくろ「ユミカに謝りたい。きちんと向き合って話したいって」
ユミカ「ママ……」
ろくろ「とりあえず電話でもしてみたら?」
ユミカ「……うん、そうだね。そうする」
ろくろ「よかった」
ユミカ「あ、スマホ家に置いてきちゃった」
メリー「あたしの電話でよければ」
ユミカ「ありがと、メリーさん。これ……どうやって?」
メリー「ダイヤル知らないの? 今の子」
ろくろ「回すのよ。こうやって指で」
   ダイヤルを回す。
ユミカ「もしもし?……ママ? ううん、こっちこそごめんなさい。うん……うん……わかった。帰る。今すぐ帰るから」
   電話を切る。
ユミカ「ありがと。ほんとにママ泣いてた……」
メリー「もうママに心配かけちゃダメだよ」
ろくろ「早く帰んなさい」
ユミカ「ありがとう。メリーさん、ろくろ首さん」
   駆けていく足音。
ろくろ「(ため息ついて)人間恐がらせるんじゃなくて助けてどうするのよ」
メリー「ねえ……それにしてもすごいなあ。ろくろさんの首」
ろくろ「うふふ、今ごろお気づき?」
メリー「こんなふうに役に立ったことないんじゃない?」
ろくろ「あなただって大したものよ。さすが話術を鍛えてきただけのことはあるわね」
メリー「まあね」
ろくろ「人助けも悪いものじゃないわね。ボランティア活動でも始めようかしら」
メリー「やめてよ、妖怪の身分で」
ろくろ「(ため息)」
メリー「あーあそれにしても、もう夏ね」
ろくろ「夏ね」
メリー「人間が怖がってくれない夏が来るのね」
ろくろ「ユ~ウツだわ」
メリー「そうね……」
                              〈終〉

シナリオの著作権は、山本憲司に帰属します。
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【脚本:山本憲司】
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