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3品目は『サヴァラン モカジャバ』【ダイナースクラブ フランスパティスリーウィーク2024】

【ダイナースクラブ フランスパティスリーウィーク】とは、2021年から始まった〈フランス菓子〉をテーマとしたグルメイベントの事。
そのイベント内容は、各回毎に主催者から共通のテーマ〈お題のお菓子〉が発表され、参加する各店舗が〈そのお題のお菓子〉にオリジナリティーを加えたアレンジ作品(商品)を発表し、それを決められた期間(約1か月間)店頭販売するというもの。今年は7月1日~31日まで。

シェフの進藤です。

本日ご紹介するのは〈サヴァラン  モカジャバ〉。

【ダイナースクラブ フランスパティスリーウィーク】今年のお題が〈サヴァラン〉という事で、考えに考えた新作3種類の最後の1つ。これのみ〈ノンアルコール〉のサヴァランになります

今回、数種類のサヴァランを〈ヴェリーヌ仕立て〉で制作するにあたり、当初は全てに〈洋酒〉を使うつもりでいました。
裏を返せば、最初から〈ノンアルコール〉が頭にあった訳ではなく…。
それまでの私は、他のパティシエと同様に〈サヴァランは、お酒を使ってこそサヴァラン〉と考えていたのですが、今回の試作に取りかかる事前準備として製菓系の書籍をあれこれ見返していた時のこと。
とある本の中で、以前西八王子にあった名パティスリー〈ア・ポワン〉の岡田シェフが、サヴァランに関して話している中に

「サヴァランはシロップを食べさせるお菓子です」

とおっしゃっていて。
それを読んでハッとしました。

〈そっか、そうだよね。ノンアルコールでもOKなんだ…〉

たしかに、パティスリーウィークの宣伝もあってお客様に〈サヴァラン〉の話をすると、大部分の方からは「実はサヴァラン好きなんです!」「必ず買いにきます!」とポジティブなお声を頂くのですが、やはり1部の方からは「お酒が苦手だから…」「アルコール入ってるんですよね…」とネガティブな反応もあって。
少し悩みましたが、妻に相談するとあっさり
「1つくらいノンアルコールでもいいんじゃない?」
との事。
「じゃ、それで」という事に(笑)。

そして、それから試作に取りかかり、試行錯誤を繰り返してついに完成したノンアルコールの〈サヴァラン  モカジャバ〉。

今回はその説明と、そのケーキにまつわるオリジナルストーリーを。

のっけから話が逸れますが、皆さんには、これまでの人生で出会った人達の中で、〈尊敬に値する人物〉はどのくらいいますか?
たくさんいる?
あまりいない?

私の人生では(指折数えてみる…)、両親以外だと十数人程でしょうか。これが多いのか少ないのかは分かりませんが、その人達が私の人生において〈よい指針〉を与えてくれたのは事実で。
家族を大切にする、ちゃんと子供と向き合う、上の立場でも威張らない、仕事をがんばる、友人を大切にする、人が嫌がる物事を進んで引き受ける、余暇を充実させる、将来の事を真剣に考える、視野を広げる、叱る事の意味や本当の優しさについて理解する…etc。

少し話がズレるかもしれませんが、今回はその中の1人との思い出話を絡めながら、話を進めたいと思います。ご容赦を。

私が初めて就職した〈心斎橋パットオブライエン〉という店舗は、心斎橋の通称〈アメリカ村〉の外れにあり、ビルとビルの間の細い路地に入らなければ辿り着けない〈隠れ家〉的な立地にあるお店で、店内に入ると左手にケーキのショーケースがあり、奥には2つの空間があって、そこに喫茶の席が合わせて約40席程。その界隈では〈美味しいコーヒーと美味しいケーキが食べられる〉と評判のお店でした。
頻繁に雑誌(時にはテレビも!)の取材が入る、そんな有名なお店で働いている事が、当時はとても嬉しかったのを覚えています。

その店には、熟練の製菓チーフとその他に専属のパティシエが常時2人程在籍しており、店舗に併設された小さな厨房内で全ての商品を製造していました。
当店も同様ですが、製造→直販は〈美味しい〉の基本かと。

更にその店の〈美味しい〉には2つの理由が。
もちろん、〈良いレシピ〉で製造していた事がケーキ・焼き菓子が〈美味しかった〉理由の1つ目。
もう1つは、2人入れば身動きが取れなくなる小さな厨房と、あまり大きくない冷凍庫冷蔵庫(ストック場所)の問題から、たくさん作り置く事が不可能だった為、少量生産を頻繁に繰り返す日々で。売れれば売れる程製造の回転数が上がるのでとてもきつい日常でしたが、その少量生産が〈フレッシュな商品が常に店頭に並ぶ〉という好循環を生み、陳列される商品が〈美味しい〉という2つ目の理由に。
この2つ→①〈良いレシピ〉②〈少量生産〉は〈3つ子の魂100まで〉ではないですが、今でも私の心のベースにあり、進藤洋菓子店でもしっかりと受け継いでいる物になります。

一方、そのお店のコーヒー等、ドリンクが美味しい理由はとてもシンプルで。
なぜなら、そのお店の前身は〈心斎橋喫茶専門学院〉という喫茶の専門学校だったから。喫茶に関わる〈ドリンクのノウハウ全般を伝授していた学校〉が開いた喫茶店。
こだわりのコーヒー豆、サイフォン、こだわりの茶葉、徹底した在庫管理。
美味しくないハズがありません。

あと、店作り、ひいては味にも影響を与え得るのは、その店を仕切る人物。
その点、その店舗のオーナーである〈佐古さん〉、通称〈マスター〉はとても尊敬できる人物で。当時50才前後。楽をしたければ全て他人任せにし、何もしないオーナーも多い中、〈マスター〉は毎日夕方2時間程は必ず出勤してカウンターに入り、お客様にコーヒーやその他ドリンクを提供し、終わったその足で少し離れた場所で経営する〈別店舗のイタリアン〉に直行。そこでは夜遅くまでサービスを担当するといった、慌ただしい日々を送っておられました。
ダンディーなのにダジャレ好きで、大阪人特有のシリアスとユーモアを使い分けられる人物。
私が就職して間もない頃、製造チーフから雑用ばかりを命じられ、パティシエとしての仕事を余り貰えていないのを見かねて「アルバイトばかりに仕事を振るんじゃなく、社員の進藤にももっとお菓子作りを教えてやってくれ!」とチーフに物申してくれた時はとっても嬉しかった。大げさですが〈このご恩は一生忘れません〉って思いました(笑)。

もちろんドリンク作りの腕は一流で、講師として三重県にある伊勢調理師専門学校に赴き、〈喫茶〉について特別授業をおこなった事も。その時は助手として私も同行しました。
授業に入ると淀みなく喫茶の歴史を話し始め、実演も交えながら授業をそつなくこなし、素晴らしい〈先生〉としての1面を見せたかと思えば、その授業の後は、伊勢神宮に直行してそこの美味しい〈地ビール〉を2人でたらふく飲み、大阪に戻るとその足で高級串揚げ屋さんに向かって更に飲み食いし、最後は喫茶の常連客の経営する高級スナック(座っただけで1万円!)でまた飲む。もちろん全てマスターの奢りで。午前中とはうって変わり、そんな〈太っ腹で酒豪〉な1面も見ると〈こんな人になりたい!〉と、若き日の私は思うのでありました(笑)。

実は、当時のマスターと今丁度同い年になりましたが、残念ながら当時のマスター程魅力的な人物にはまだなれていないな…と思う今日この頃。

そろそろ話を本筋に(笑)。

その〈パットオブライエン〉で〈マスター〉に教わったドリンクの中で、私の1番のお気に入りが〈モカジャバ〉。

〈モカジャバ〉とは、抽出したコーヒーにチョコレートシロップを加えたアレンジコーヒーや、コーヒーにココアを加えたドリンク等を指します。
最近、そういった構成のドリンクを、全国各地に展開するスターバックスさんが〈カフェモカ〉と呼んでいる為、〈カフェモカ〉の方が耳慣れているのかも。

当時の作り方は、まず大きめのカップに自家製のチョコソースをたっぷりと注ぎ、そこに深煎りのイタリアンローストで淹れた苦めコーヒーを入れて混ぜ、仕上げに甘いクレムシャンティー(生クリーム)をこれまた〈たっぷり〉と浮かべてから、削ったチョコレートをパラパラと飾る。記憶を辿るとそんな感じでした(笑)。
出来上がったものは、コーヒーとチョコレートが絶妙に混ざりあい、そこにホイップされた甘~い生クリームの乳風味がプラスされた至福の一杯。
初めて飲んだ時、

これは美味しい!!!

となりました。
それだけ単独で味わえば「ちょっとキツイ」と感じる程〈苦いコーヒー〉でも、チョコレートと混ざりあえば見事に中和され、更に両者の良いところを引き出せるのか…。
これもいつかケーキに生かせる素材・理論だと、〈記憶の引き出し〉に仕舞った事は言うまでもありません(笑)。

そして時を経て今、その〈引き出し〉を開け、【モカジャバ】を形成する〈コーヒー×チョコレート+生クリーム〉のマリアージュに、似通った構成で今でも大人気な〈ティラミス〉のイメージもミックスし、何とか形にすべく試作に取りかかりました。

いざ取りかかるとすぐに、この商品も別記事の〈サヴァラン  フランコジャポネ〉と同様に、早い段階から作りたいケーキのヴィジョンがしっかりと見えてきて。そうなるとバラバラだった菓子のピースが次々にはまりだし、試作たった数回、これまた珍しくあっさりと〈素晴らしい商品〉が完成しました。

そのヴェリーヌの構成は下から、ビターコーヒーシロップをたっぷりと含ませたサヴァラン、コーヒーゼリー(水分移行をブロック)、フランス産高級ブランドのチョコを使用した柔らかいチョコレートムース、パールクラッカン(サクサクのチョコボール)数粒、進藤特製バニラのババロワ、たっぷりのクレムシャンティー (純生クリーム)となります。

〈サヴァラン  モカジャバ〉

主役のサヴァラン生地は、〈滑らかな口溶け〉を目標に何度も何度も試作を繰り返し、遂に辿り着いた物。
昔、パリの名店〈ストレール〉で食べた〈ババ〉が私的No.1なので、その記憶と重なる物ができた!と自負しております。
別タイトルにて〈サヴァラン生地〉を、レシピも含めて作り方を公開予定ですので、気になる方はそちらをご覧下さい。今しばらくお待ちを。

そして、そのサヴァラン生地に、苦味をきかせたビターコーヒーシロップをたっぷりと含ませ、そこにその水分を他のパーツに移行させないようにする目的でビターコーヒーゼリーを。
その上に、ビターコーヒーにベストマッチな濃厚チョコレートムースを重ねる事に。もちろんチョコレートはフランスの高級ブランドの物を使用。単独で食べると苦味と酸味を強く感じるビターコーヒーサヴァランも、そのチョコムースと合わさると「あら不思議!」〈素晴らしく美味しいマリアージュ〉に。
その〈ビターコーヒーとチョコレート〉のハーモニーが、このケーキの味わいの大きな柱になっています。
そして、その〈ヴェリーヌ〉を至高のレベルに引き上げる為に、名脇役を投入。
→カリカリとクリスピーな食感を与えてくれる〈パールクラッカン  (サクサクなチョコボール)〉を数粒忍ばせました。単調な食感に変化を与え、〈美味しい〉の中に〈楽しい〉を加えてくれる!
更にその上に、こちらも脇役としてコクと奥行きを付与してくれる進藤特製〈バニラのババロワ〉を。そのレシピは、当店の人気ケーキ〈バニーユ〉にも使用している、滑らかでバニラ風味濃厚な物。
最後に、最上部のクレムシャンティー (純生クリーム乳脂肪分42%)が、素晴らしい乳風味で全体を包みこみ…。

長々と説明しましたが、文章ではこの〈サヴァラン  モカジャバ〉の美味しさは到底伝わりません。やはり

百聞は一食に如かず

この素晴らしいマリアージュ。
アルコールの苦手な方にもお召し上がり頂けるノンアルコールの〈サヴァラン〉
多くの方に味わって頂きたい。
ですがこちらも、いつも通り〈違いの分かる大人向き〉なケーキですので、ご注意を。
是非ともこの機会を逃す事なく、ご賞味下さい。
冒頭に書きましたが、販売は7月1日~7月31日まで(当店の営業スケジュールに準ずる。詳しくは当店インスタグラムをご参照下さい)。数件お問い合わせがあったように、少しフライング販売をする店舗もあるようですが、当店の販売は事務局推奨の通り7/1からとなりますので。

どうしても欲しい!というお客様は、必ず前日までに〈お電話orご来店〉にて、ご予約をおすすめ致します。
当日販売分は数に限りがありますので。
※〈おひとつ〉からでもご予約可能です。

では、いつも通り繰り返しになりますが〈当店の菓子は違いの分かる大人向き〉〈論より証拠〉。
ご来店をお待ちしております。


今年、2024年イベント概要の説明はこちら↓


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