見出し画像

2品目は『サヴァラン フランコジャポネ』【ダイナースクラブ フランスパティスリーウィーク2024】

【ダイナースクラブ フランスパティスリーウィーク】とは、2021年から始まった〈フランス菓子〉をテーマとしたグルメイベントの事。
そのイベント内容は、各回毎に主催者から共通のテーマ〈お題のお菓子〉が発表され、参加する各店舗が〈そのお題のお菓子〉にオリジナリティーを加えたアレンジ作品(商品)を発表し、それを決められた期間(約1か月間)店頭販売するというもの。今年は7月1日~31日まで。

シェフの進藤です。

普段シェフパティシエとしてオリジナルケーキをクリエイトする身としては、常に色々な方向にアンテナを張り、様々な物から刺激を受け、それを創作に生かす様にしています。
食はもちろん重要ですが、ケーキにはデザインセンスも要求されるので、絵や造形等、吸収する物が多ければ多い程良いと考えます。

なので若い頃は、時間を見つけては様々な美術館に〈絵〉を見に行きました。
一番のお気に入りはフランスの印象派。
中でもベタ?ですが、オーギュスト ルノワールの〈ムーラン  ドゥ  ラ  ギャレット〉やクロード  モネの描いた数点の〈日傘をさす女性〉等が大好きです。もちろん、ピカソやセザンヌ、ゴッホ、ゴーギャン。少し毛色の異なる所ではミュシャやジョアン ミロ等も、私の心に強烈な印象を残しました。

そして、食の勉強。
私はお料理に関しては〈作る〉方ではなく〈食べる〉専門ですが、食感や素材の合わせ方等、お料理からインスピレーションを受ける事も多々あります。
なので、日本では和洋中問わず様々なレストランに足を運びますし、フランスでは安価なビストロから高級レストランまで、結構色々試しました。

もちろん、ケーキ屋巡りは当然の如くです。日本各地のケーキショップに始まり、フランスではリヨン・パリ、ベルギーではブリュッセル、スイスでは…等、多くの場所で有名パティスリーを訪れ、そこのスペシャリテや受賞ケーキ、または雑誌に掲載されていた新作等を食べては、〈記憶の引き出し〉にインプットしてきました。

これらは全て〈経験〉として私の中に蓄積された財産です。形が無いので、決して他人に盗まれる事のない財産(笑)。
自慢できる宝物です。

では、次はその宝物を使って、オンリーワンなクリエイトへ。たくさん貯めても、それを上手く使わなければ意味がありません(笑)。

インプットからアウトプット。

長年かけて貯め込んだ〈記憶の引き出し〉を開け、これまでも、パリの〈ル  ストゥブリ〉の〈フォレノワール〉から〈ラ  フォレ〉を。エルメ氏の〈プレジールシュクレ〉とベルティエ氏の〈サンミシェル〉から〈オマージュ〉を。まだまだあります。〈パリセヴェイユ〉の〈ガトーバニーユ〉から〈バニーユ〉を。教員時代に同僚だったM氏のコンクール決勝に向けたオリジナルケーキから〈メルヴェイユ〉等をクリエイトしました。
当店をご存知の方なら、よく知ったケーキ達だと思います。

私が実際に食べて感動したケーキを、一旦〈記憶の引き出し〉にインプットし、時を経て〈自分のフィルター〉を通してアウトプットする。

古語では「学ぶ」を「まねぶ」と読むそうです。そして「まねぶ」とは「まねる」(模倣する)という意味。 やはり〈物事を「まなぶ」ためには、まずは模倣から〉という事。良いもの、素晴らしい物を知る事が、〈学び〉に繋がるんです。
最近よく耳にする〈守破離〉で言えば、〈破〉の段階ですね。

因みにマイルールとして、アウトプットする際はリスペクトを込めて〈完コピ〉は絶対にNGに。その構成やフレーバー、マリアージュを、先程も書きましたが必ず〈自分のフィルター〉を通し、自分色に染めてから商品にします。なので、中には原形がほとんど分からなくなる物もあったりして…(笑)。そろそろ販売終了となるケーキ〈フレズィエール〉がその類いかな。

この話の流れから、もうピンと来る方もおられるかと。そうなんです。
今回ご紹介する〈サヴァラン  フランコジャポネ〉は、以前、とあるケーキショップで食べて感動した〈和洋折衷な素材の組合せ〉から着想を得て作った物。

では、ここからは〈フランス パティスリーウィーク〉に販売する3種類の新作の1つ、〈サヴァラン  フランコジャポネ〉の詳しい説明と、そのオリジナルストーリーを。

10年前、当店のオープンに際し、色々な仕入れ業者さん達と打ち合わせをしていた時の事。
当時のタカナシ乳業(当店の生クリームはタカナシさんオンリー!)の営業担当者との会話の中で、
「この辺りにあるケーキショップで、どこか推しのお店はある?」
と私が訪ねると、
「比較的新しいケーキ屋さんなんですが〈洋菓子舗  茂右衛門(モエモン)〉さんはご存知ですか?、一風変わったお店ですが今の私のイチオシなんです!」
との返答が。
私は一応ケーキオタクでもあるので、東京のケーキショップには詳しい方なのですが、失礼ながら聞いた事の無い店名で。
《隣町にそんな変わった名前のケーキ屋さんがあるのか~。それにしても、最近ケーキ屋さんのニューオープンに疎くなったな~》なんて思いながら、その時の会話はそれ以上膨らむ事もなく、一旦その名前は記憶の片隅へ…。

そして何年か経ち、仕事終わりに家でボーッとテレビを見ていた時、テレビ東京さんの『出没!アド街ック天国』が、たまたま隣町の国分寺特集で。
用事を片付けながら流し見ていると、そのテレビの中から以前に聞いた〈洋菓子舗  茂右衛門〉さんの名前が聞こえてきてビックリ。

〈そういえば進藤洋菓子店オープン前に、「是非行ってみて下さい!」って言われたっけ…〉

思い立ったが吉日。
早速、次のお休みの日。私は店がお休みでも基本厨房で何かしら作業している為、妻にお願いして〈洋菓子舗  茂右衛門〉さんのケーキ・焼き菓子を数点買ってきて貰いました。
私のケーキもそうなのですが、どのケーキも比較的シンプルな造りで。
いざ食べてみると、全てのケーキにしっかりと、そして惜しみ無く洋酒が使われている事にまずビックリ!
そんなにお酒の効いたケーキは〈本物を追求する辻製菓専門学校の授業〉と〈ヨーロッパのケーキショップ〉で食べて以来な物で。
当時、当店はお客様の好みに合わせてお酒を控え始めた頃だった事も重なり、「うちのケーキはこうなんです!」と〈作る・売る〉ケーキの方向性をはっきりと打ち出されている事に驚きました。その潔さがちょっと羨ましくもあり…。

そして、妻曰く1番人気だと勧められて購入した、『あんことくろみつ』というケーキを食べた瞬間、衝撃が走りました。

これは、めちゃくちゃ美味しい……

上部にぎっしりと敷き詰められた十勝小豆の〈鹿の子〉、その上にホワイトチョコのジュレがかかり、黒蜜のシャンティーショコラブラン、自家製練りあんのムース、一番底にココナッツのダコワーズという構成、全体にダークラム使用との事。

甘味の調整、各層のバランス、そしてその纏まりも然ることながら、それにしても、小豆とダークラムのマリアージュが素晴らしすぎて…。

すぐに記憶の引き出しに、大切に収められた事は言うまでもありません。

そして、それからまた時を経て、今回【ダイナースクラブ フランスパティスリーウィーク2024】の共通のテーマ〈お題のお菓子〉が〈サヴァラン〉に決まったと聞いた瞬間に、あの茂右衛門さんの『あんことくろみつ』が〈記憶の引き出し〉から飛び出してきて。

そこからはいつもの流れで、あの素晴らしいケーキを〈今の自分のフィルター〉を通してアウトプットしてみる事に。
〈ラム酒と小豆のマリアージュ〉を味覚の柱にして、そこに茂右衛門さんはホワイトチョコレートを合わせていましたが、私はケーキには〈卵黄のコク〉を持つパーツが必要不可欠だと思っているので、そこはあえて進藤特製〈バニラのババロワ〉を。そしてその中に味の繋ぎ役として少しこし餡を加えて…、あとはそこにあれとあれを…etc。

最初からヴェリーヌに仕立てる事に決めていたので、いざ試作を始めると、早い段階から作りたいケーキのヴィジョンがしっかりと見えてきて。そうなるとバラバラだった菓子のピースが次々にはまりだし、試作はたった数回、珍しくあっさりと〈素晴らしい商品〉が完成しました。
味の決め手となるラム酒は〈マイヤーズ〉を使うパティシエが多い中、私はフランスで圧倒的支持を受けるフランス系ラム酒の代表〈ネグリタラム〉がお気に入りなので、そちらをチョイス。

そのヴェリーヌの構成は下から、
ネグリタラムシロップをたっぷりと含ませたサヴァラン、ラム酒のゼリー(水分移行をブロック)、柔らかい粒餡ペースト、鹿の子、パールクラッカン オパリス(サクサクのホワイトチョコボール)数粒、餡とバニラのババロワ、シャンティー オ ロム(ラム酒で香り付けた生クリーム)になります。

〈サヴァラン  フランコジャポネ〉

最下部にある主役のサヴァラン生地は、〈滑らかな口溶け〉を目標に何度も何度も試作を繰り返し、遂に辿り着いた物。昔、パリの名店〈ストレール〉で食べた〈ババ〉が私的No.1なので、その記憶と重なる物ができた!と自負しております。
別タイトルにて〈サヴァラン生地〉を、レシピも含めて作り方を公開予定ですので、気になる方は今しばらくお待ちを。

そして、そのサヴァランにネグリタラムシロップをたっぷりと含ませ、そこに〈粒餡と鹿の子〉を。粒餡は、味・香り共に絶品な北海道十勝の小豆を使用。
その〈ラムとあずきのマリアージュ〉が、このケーキの味わいを占める大きな柱に。
更に、そこにコクと奥行きを与える〈餡とバニラのババロワ〉を。そのベースとなるレシピは、当店人気のケーキ〈バニーユ〉にも使用している、滑らかでバニラ風味濃厚な〈バニラのババロワ〉。主役を更に引き立てる名脇役!
このサヴァランを至高のレベルに引き上げる為に、更に名脇役を投入。→カリカリとクリスピーな食感を与えてくれるホワイトチョコの〈パールクラッカン  オパリス〉を数粒忍ばせました。単調な食感に変化を与え、〈美味しい〉の中に〈楽しい〉を加えてくれる!
そして、最上部のシャンティー オ ロム(ラム酒風味の生クリーム)が、素晴らしい乳風味と洋酒の持つ高級感を、最初の1口目から感じさせてくれます。

と、長々と説明しましたが、文章ではこの〈サヴァラン  フランコジャポネ〉の美味しさは到底伝わりません。やはり

百聞は一食に如かず

騙されたと思って食べてみて下さい。
この〈和洋折衷〉な素晴らしいマリアージュ。
やはり、食べてみない事には…(笑)。

名前の仏語〈フランコジャポネ〉は、直訳すれば〈フランス系日本人〉。それを少し意訳して〈フランス×日本のフュージョンケーキ〉とお考え頂ければ。

私の〈記憶の引き出し〉から取り出した、自画自賛のマリアージュ。
多くの方に味わって頂きたい。
是非ともこの機会を逃す事なく、ご賞味下さい。
冒頭に書きましたが、販売は7月1日~7月31日まで(当店の営業スケジュールに準ずる。詳しくは当店インスタグラムをご参照下さい)。数件お問い合わせがあったように、少しフライング販売をする店舗もあるようですが、当店の販売は事務局推奨の通り7/1からとなりますので。

あ、文中の〈洋菓子舗  茂右衛門〉さん。
以前店舗のあった国分寺市から、現在は立川市に移転されております。
ご訪問の際はホームページ等で、営業日、及び営業時間を必ずご確認の上、お出かけ下さい。宜しくお願い致します。

あ、最後にすみません。
前回投稿の〈サヴァラン  ヴォージュ2〉で記載した事の繰り返しとなりますが、ご購入に際しご注意頂きたい事があります。

今回のイベントに向けた新商品〈サヴァラン ヴォージュ2〉〈サヴァラン フランコジャポネ〉の2種類については前述の通り〈洋酒〉を使用します。なので、どちらも〈洋酒使用〉と表示して販売します。
ですが、海外のケーキの様にドボドボと洋酒を加え、そのアルコール臭が他の食材の香りを完全にマスキングしたり、アルコール特有の苦味が感じられたり、そんなケーキは私の好みではありません。そうならない様に調整して洋酒を配合します。
なので、

洋酒は〈入れ過ぎず、入れなさ過ぎず〉で。

お酒がお好きな方は〈とにもかくにもたくさん入れて欲しい〉とおっしゃりがちですが(笑)、私は他の食材とのマリアージュを大切にしたいんです。なので、「もっとアルコールをきかせてくれ」と言われても「そうですね」とはなりませんし、逆に「アルコールがキツイのではないか?」と心配される方がおられるかも?と思いますが、その心配は杞憂に終わると思います。
余談ですが、お好みで洋酒を追加できる様に〈洋酒を含んだスポイト〉をケーキに刺して提供する店舗もあります。勿論そういった事も検討しましたが、必要の無い方は購入の度にそのスポイトを使わずに廃棄すると考えると、“もったいない・地球に優しくない”との声が出て否決となりました。
確かに、それを付ける事によって更に売値が上がるとすれば、少しでも安く購入したい方にとっては愚策と言わざるを得ません。

また、よくある質問として「アルコール度数はどのくらいですか?」と聞かれる事もあります。大変申し訳ありません。仕上げに直接洋酒を振りかけている様な場合は、しっかりとお答えできるのかも?ですが、上記のヴェリーヌの場合、ケーキを構成する複数のパーツにお酒を入れ、パーツによっては作る工程で熱を入れるので、含まれるアルコールは一部揮発します。そういった事が複合して1つのケーキが出来上がっているので、トータルでアルコール度数が何度であるかは「分かりません」とお答えせざるを得ないんです。調べる方法があるなら教えて欲しいくらいで。
それと、「食べた後、車の運転はできますか?」との質問にも正確にお答えする事が出来ません。どのくらいのアルコールが検出されれば〈酒気帯び運転〉になるのかも、私は“いちパティシエ”なのでよく分かりません。なので、そういった質問があれば一様に「食べた後に車を運転する事が無い様、外出する用事を全て済ませた後でお召し上がり下さい」とお答えさせて頂きますので。
あ、3種類のサヴァランの内『サヴァラン モカジャバ』のみ“ノンアルコール”のサヴァランなので、それをお勧めするのが正解ですね。

では、いつも通り〈当店の菓子は違いの分かる大人向き〉〈論より証拠〉。
ご来店をお待ちしております。


PS.後の2品は別タイトルにて。


今年、2024年イベント概要の説明はこちら↓


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?