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文章の書き方をゼロから教える理由|総合型選抜入試を突破する力を養うには

2023年、学園創立120周年をきっかけに男女共学校となり、普通科リベラルアーツ(進学)コースを新設した品川学藝高等学校。

リベラルアーツコースでは、大学入試制度の総合型選抜に対応するため「セルフアナリシス」講座で小論文の指導を行っています。
自らの考えを文章に落とし込み、小論文形式にまとめる力を養うこの授業では、何を目指し、どのような指導が行われているのでしょうか。

今回は、品川学藝高等学校を運営する学校法人三浦学園の三浦裕明常務理事と、授業を担当する長島康二先生による対談でお伝えします。

大学入試制度と総合型選抜について

総合型選抜とは、一般選抜・学校推薦型選抜と並ぶ入試方法です。
以前はAO入試(アドミッションズ・オフィス入試)と呼ばれていましたが、2021年度の入試から名称と試験内容が変更されました。

総合型選抜は、受験生の学ぶ力を総合的に評価・判断する選抜方式です。
ペーパーテストの点数だけで評価するのではなく、知識・技能、思考力・判断力・表現力、そして学びへの意欲や人間性などを多面的に見ていくのが特徴です。

総合型選抜では、志望理由書・調査書などの書類選考と、面接・小論文によって選考が行われるのが基本となっています。
2022年度は、大学入試で総合型選抜・学校推薦型選抜を利用する受験生は57.5%で、一般選抜の41.1%よりも多いという結果になっています。※1

文章の書き方をゼロから教える理由

三浦:生徒たちは品川学藝高校に入学して、少しずつ希望の大学や学問を探し始めます。しかし総合型選抜で受験することを考えると、夢や目標を見つけるのと同時に、自分自身の考えや想いを言語化する力が必要となります。

文章を書く力は簡単に身につくものではありません。テクニックや慣れも大きく影響する分野であり、高校3年間を通してトレーニングする場が必要だと考えました。

そこで授業の一部として「文章を書くこと」を教えるため、リベラルアーツ(進学)コースを立ち上げた際に小論文の授業を新設することになりました。
長島先生は生徒が文章を学ぶ機会について、そして総合型選抜の小論文についてどのようにお考えですか。

長島:確かに、普通の高校生活では小論文形式の文章を書く経験はなかなかできないものです。

しかし、総合型選抜・学校推薦型選抜を利用する場合は、600字から800字程度、場合によってはそれ以上の文章を書けなければなりません。入試を有利に進めるためにも、学校で訓練を積むのは非常に有意義だと思います。

小論文において慣れとテクニックは非常に大切ですが、ポイントさえ抑えれば誰でも論理的な文章が書けるようになります。
私がいつも生徒に指導しているのは「四部構成で文章を書きましょう」ということです。

四部構成で文章を作る

①論点を示す

論点は、イエス・ノーで答えられるテーマのことです。
例えば「地域社会のつながりが薄れてきていることついて、どう思いますか?」というテーマであれば、「つながりが薄れるのは仕方のないことである=イエス」「つながりが薄れるのを止めなければいけない=ノー」という答えになります。
小論文の「論」は論点の論ですから、生徒にもまずは論点を示すよう指導しています。

②譲歩

論点を示した際に生まれたイエスの立場とノーの立場について、譲歩のパートでは「自分と反対の立場の人はどう思っているか」を述べます。

③論破

自分と反対の立場の意見に譲歩したうえで、「その考え方よりも、こう考えた方が良いのではないか」と述べるのが論破です。ここで自分の意見をしっかりと記述します。

④まとめ

最後に結論として全体のまとめを記述します。

この①~④の四部構成で文章を書くことを生徒に伝えています。
もちろんこの四部構成はあくまで基本です。慣れてきたら譲歩を省略して、自分の意見をより深掘りしていくのもいいでしょう。
しかし、まずは基礎として論理的な文章の構成を学んでもらっています。

三浦:なるほど、最初に基本の型を身につけることを重視しているのですね。

長島:論理的で説得力のある小論文を書くためには、様々な立場の考え方があることを知り、自分の意見の根拠を突き詰めなければなりません。
そのためには、どのような問題が出ても対応できる「普遍的な小論文の書き方」を学ぶことが重要です。
また、文章は書く練習をすることで上達するものなので、基本の型をしっかり活用できるように繰り返し訓練を積んで小論文を書く力を育みます。

「セルフアナリシス」の授業で取り組む内容

三浦:「セルフアナリシス」の授業で使用する教材やテーマはどのようなものですか。

長島:使用するテキストは、学研の「ステップ基礎小論文」です。
小論文のテーマは様々で、「動物園の存在に賛成ですか、反対ですか」だとか「遺伝子組み替え作物の研究は今後も続けていくべきですか」といったものもあります。

使用教材(ステップ基礎小論文)

三浦:どちらも考察しがいのあるテーマですね。「セルフアナリシス」は毎週1回1時間の授業ですが、どのような流れで授業を進めていますか。

長島:授業ではいきなり文章を書き始めることはせず、最初の1時間目はグループワークを行います。
テキストで出たテーマに沿って、1グループ4人ほどで「動物園にはどんなメリットがあるんだろう、一方で動物園に反対の声が出ているのはなぜだろう」と意見を出し合います。
そして2時間目で生徒たちの意見を吸い上げながら「私ならこういう形で文章を書く」という例を示します。論点としては、動物園の存在には賛成である。反対の意見にはこんなものがあるが、一方でこんなメリットがあるので、動物園は続けるべきだ、といった形ですね。
そして、いよいよ3時間目の授業で生徒に答案を書いてもらいます。

三浦:少しずつ段階を踏んでテーマへの理解を深めつつ、最後は文章に落とし込んでいくのですね。

長島:はい。ただ、型がわかってテーマへの意見が固まっただけでは、なかなか文章を書けるようにはなりません。ですので、授業では定期的に私自身が作った答案を生徒に配り、書き写す作業を行います。「こういう言い回しが自然なんだ」とか「こうやって書けばいいんだ」という感覚は、授業の説明を聞くだけで習得するのは難しいからです。

自分の手で文章を書き写すことで力がつき、そこから自然と応用力も育まれると思います。こういう構成で書けばいいんだという理論を教え、具体的な答案を見せ、書き写す。それによって慣れとテクニックを身につけられる授業を展開しています。

本当に文章が書けるようになるのか

三浦:他教科ではどうしてもインプット型のみの学習が多くなるのに対して、小論文は世の中の意見と自分の意見の両方を見つめる力を養いつつ、アウトプット型の学習にもなります。これは社会に出てからもきっと役立つスキルだと思います。
ところで素朴な疑問なのですが、「セルフアナリシス」の授業のトレーニングを通して、生徒は本当に上手な文章を書けるようになりますか。

長島:生徒たちは文章を書くこと自体に徐々に慣れていっている印象です。
中にはとても意欲高く取り組み、他の生徒よりも早いペースでテーマをこなし、追加の課題に取り組んでいる生徒もいます。

実際の生徒の答案と添削例

生徒の表現力を磨く手段として、クラスの中で特に上手に書けていた答案を3名ほどピックアップして紹介する取り組みも行っています。みんなで答案を読みながら「この意見は鋭いね」とか「この言い回しはとても良いね」と共有することで、クラス内に「知恵」の蓄積ができます。そういった経験を通して、小論文に対して前向きに取り組む生徒が一人でも増えると嬉しいですね。

三浦:「セルフアナリシス」の授業について、今後の期待や改善ポイントがあれば教えてください。

長島:現在はテーマに沿って600字程度で文章を書く練習をしていますが、大学によっては1000字以上を求められる場合もあります。
もっと長い文章にはこれから徐々に慣れていく必要があると思います。

また、1年生のテキストで扱う小論文は基本的に「テーマ型」です。
しかし実際の入試問題では、2000字程度の文章を読んで「あなたはこの意見に賛成ですか」「筆者の主張についてどう思いますか」と問う「課題文読み取り型」の小論文も出題されています。

「課題文読み取り型」は文章を書く力だけでなく、文章を読み解く読解力も求められます。生徒たちの学年が高2・高3と上がるにつれて、より複雑な小論文にも対応できるような訓練を積む必要があると考えています。

「自分のやりたいこと」「自分に合った大学」を見つける

三浦:総合型選抜で入試を受ける場合、希望の大学や学びたい学問が見つかっている状態が前提になりますよね。
高校生にとって自分で進路を決めるのは難しい場合もあると思いますが、長島先生から見て「自分のやりたいこと・行きたい大学」はどうやって見つけるのがいいと思いますか。

学校法人三浦学園・三浦裕明常務理事

長島:高校生が日常生活で大学と同じ学びを体感するのはとても難しいことです。大学で何をやるのかわからない状態で学部を選ぶ側面もある中で、私がおすすめしているのは「たまたま縁があったところから面白さを見出す」ということです。

例えば、偏差値的に届きそうな学部を見つけたときに「この学部ではこんな勉強をするのか、面白そうだ」と思える力もこれに当てはまります。
また、推薦入試で志望理由書を作る際に学部について調べたときに「この勉強を私もやってみたい」と思える力も大事です。

自分から楽しいことを見出せる力があれば、どんな学部でも自分を高めていけます。一つのきっかけから面白そうなことを見つける力を磨けば、結果として進路は広がると思います。

三浦:「セルフアナリシス」の授業を通して、文章を書く力以外に身につけられる力にはどのようなものがありますか。

長島:単純に論理的な文章を書くだけではなく、小論文を通して「構造的に考える力」が身につくと考えています。「構造的に考える力」とは、ある出来事と別の出来事の共通点に着目してアイデアを生み出す力のことです。

セルフアナリシス講座担当・長島康二先生

例えば、私は昔、漢字の採点が苦手でよくミスをしていました。
そんなときに先輩講師から「まずはバツだけ付けて、残ったものがマルかどうかをじっくり判定しなさい」とアドバイスをもらったのです。そうして作業を細分化すると、ミスが格段に減りました。

そして月日が流れ、自分で参考書を出版するようになった頃、校正作業のミスにより読者の方に不便な思いをさせてしまう出来事がありました。
校正は別の人に任せていましたが、単純に「間違いの箇所があったら指摘してください」としか指示していなかったのがミスの原因でした。

そこで漢字の採点の例を思い出し、指示の出し方を変えて「まずは傍線がついているかを確認してください」「次は記述問題の解答が指定の字数に収まっているかを確認してください」という形で、作業を細分化しました。
これにより校正作業もミスなくスムーズに進むようになりました。
このように、「作業の細分化」という構造が頭に入っていれば、別の出来事にも応用できますよね。

小論文も同じで、まずは型に沿って書いてみる、構造化してみると上手くいきます。
これは他のことにも応用でき、他教科の勉強でもまずは型を覚えないと何も始まらないことや、結局やり方は同じなんだと気づけると思います。
「構造的に考える力」はきっと将来の仕事にもつながっていくので、今はわからなくても少しずつ生徒自身が気づくといいなと思いながら日々教えています。

三浦:小論文は総合型選抜に役立つというだけでなく、テーマに対して多角的に見る力や、普段から様々なニュースに関心を持つアンテナなども養うことができる教科ですね。それに加えて、「セルフアナリシス」の授業では「構造的に考える力」などの人生すべてに通じる力を身につけられることを考えると、高校生に欠かせない授業だと思いました。

※1大学入試の基礎知識:学校推薦型選抜・総合型選抜記事より



◆ 長島康二(日本学習企画、国語専門塾・読解ラボ東京代表)
大学在学時から、大学受験予備校の教壇に立ち、現代文・小論文の授業を担当。
確実に点数につながる「解き方」にフォーカスを当てることで、生徒の「点数を取る力」を養成している。
現在は授業だけでなく、参考書の執筆やプロデュース、塾の運営など、多方面で活躍。高校生の学力向上をあらゆる側面から支援している。

品川学藝高等学校
学園創立120周年を迎える2023年を機に、日本最古の私立音楽学校をルーツとする日本音楽高等学校が生まれ変わりました。校名は品川学藝高等学校、男女共学校として新たに出発します。
建学の精神に「愛と和と誠実」を掲げ、知性と感性の融合を通した「人間力」向上を重要目標とする教育を実践。設置コースは普通科(リベラルアーツコース、eスポーツエデュケーションコース)と、音楽科(ミュージックコース、パフォーミングアーツコース:バレエ専攻、ミュージカル専攻)の2科4コース。大学受験対策を校内で完結できるよう、外部教育機関の校内予備校を設置するほか、学費無料制度など支援体制が充実しています。
またリニューアルした新制服はファッション誌「FUDGE(ファッジ)」とのコラボレーションです。