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短編小説

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2022年5月の記事一覧

数独

数独

 雨が降っている。バケツをひっくり返したような雨が。車、きれいになるかなぁ。バケツをひっくり返したような雨が降るといつもおもうし、ほんとうにきれいになっている。
 土曜日に修一さんにあった分だったけれど、雨だから無性に会いたくなりメールを打つ。雨だからという理由で。おもての仕事だしなという理由で。
 いや、理由なんていうのは嘘でほんとうは毎日会いたいのが本音だ。
『おふくろの通院で市民病院にいる』

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まってもまっても

まってもまっても

 ここのところずっとGmailの画面だけを開きっぱなししていたのは、彼からのメールを待っていたからだ。だからYahoo!ニュースも観なくなったし、YouTubeも観なくなった。けれどamebaでライブ配信されている相撲だけは観ていたけれど、やはりGmailが気になって気になって心ここにあらずな状況だった。
 おもえば、いつもいつも待っている。待つのは嫌いではない。むしろ好きなくらいだ。特に好きな男

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犬のひと

犬のひと

 夕方の4時くらいになると、おくさんは雲隠れをするかのようにいなくなる。
「奥にいるからなにかあったら声かけてね」
 そういう日もあるけれど、たいていはなにもいわずにいなくなる。そしておおむね夕方の5時半前くらいに、パチパチと小さな子どもをあやすような拍手が聞こえてきて、ああそういうことかと納得をする。
 奥の部屋というのはわたしたちがお昼ご飯とかを食べる小さな部屋のことでそこにはテレビがあり、お

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指

「なにをしてほしい?」
 彼がバックからしているときに、どうしてほしいかいえと息を切らしながら耳もとでささやいた。
「……、」
 交わっているときってわたしはわたしではなくなり彼は彼ではなくなりじゃなかったらじゃあだれなの? ってことになるけれどやっぱりわたしでもなく彼でもないわたしと彼が白くまの交尾のような格好をして会話をしている。会話といっても彼だけがなにかぶつぶつとささやいて興奮を煽っている

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5月5日

 祝日あるいは日曜日は嫌いだ。彼にあえないからだ。
けれど、メールを打つ。
『あいたいよ』
 もちろん、返事はこない。めんどくせーな。そんな顔をし、舌打ちでも鳴らしているだろう、彼のことがみなくてもわかる。
『仕事で、うちでたからどう?』
 電車に乗っていた。けれど、まだ発車前で寸前で飛び降りた。
 ヘルスのバイトに行くところだった。
 ホームに立ち上がり、階段を猛ダッシュであがり、改札口にある案

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