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短編小説

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2019年7月の記事一覧

プロポーズ

プロポーズ

「ねぇ、」
 なかなか暮れない夕方独特の空気は冷房の効いた部屋にいてもなんとなくわかる。それはきっといやったいほどに熱く重たい空気に違いないと。
 こんなヘンテコな時間なのにあたしと彼はお布団で横になっている。冷房の温度が20度でありあたしてきには寒い。けれど暑がりの彼はそれでもまだ暑いのか素っ裸でパンツすら履いてない。
「ん?」
 彼は天井を見上げた仰臥の体勢だけれどあたしは彼の腕に絡まるようま

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たいふうの日

たいふうの日

 台風が来るとなると幼い頃からとてもワクワクした。学生の頃は台風のおかげ? で学校がお休みになろうものなら手をあげて台風さんありがとうと賞賛をした。まあ単純に学校が休みになるという学生あるある的なことで台風が好きだったのだろう。しかし大人になった今では全く別の種類のワクワクがある。台風が来るとなればうちから出ない方がいいのだろうし、うちにいてもおもてに出かけないとならない使命感も自動的になくなる。

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ハンバーグ

ハンバーグ

 最近太陽見てないーな。テレビを観ていたら全くテレビの内容と関係ないことをつぶやく。なおちゃんはいつも唐突だ。たとえば、朝起きてすぐ、あ、今日出張だった、と普通にいい、ワイシャツにアイロンをかけたり。おいおい。前日にいえばあたしがやったのに。と思うけれどいつもあまりにも唐突なのでもうあまり驚いたりしない。テレビ番組は(だれがしの好物をあてろ!的なことがやっている)なんとなくいつもともしある。なおち

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いもうとさん

いもうとさん

『げんき』
 朝の9時。いもうとさんは決まってこの時間に電話を寄越す。頼んでもないのに。半ば義務のように。あるいは生存確認のように。
『ええ』
 毎日代わり映えのない中年女性の一人暮らしの生活の中で『げんき』とはいったい具体的にどのようなくらいの『げんき』でなければいないのか考える。
『そう。ならよかった』
 いもうとさんは何かを食べている。電話越しにガサガサと音がするしならよかったが、なあよらっ

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ことばなど

ことばなど

『19時は大丈夫?』
 彼からメールが来ていた。大丈夫もなにもあたしから誘ったのだ。『今夜はどうですか』と。どうですか。のあとにクエッションマークはあえてつけない。どうですか? と、どうですか。たった語尾に『?』がついてない後者は優しいように感じる。あるいは謙遜しているような。
『はい。19時に』
 短めなメールを打つことによってしつこさやあいたさやおもたさを感じさせない。会いたくて会いたくてと西

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ち

 この2ヶ月ほどずっと血が流れている。女にしかない『あれ』だ。通常なら通常の女あるいはネットでググってみると『だいたいは24~28日周期に来ます。5日~8日間くらいあります。個人差はありますがその間に不正出血などがあるような場合は婦人科に行きましょう』
 ですよね〜。と、ひとりごちるも、いやいやまてよ。2ヶ月もまるで2日目くらいの量の血が出ているんだけれど、これっていつのタイミングで婦人科に行けば

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