Shin/獣医病理学者

獣医病理学者/獣医病理診断医。 すべての動物のからだと病気に興味があります。無脊椎動物…

Shin/獣医病理学者

獣医病理学者/獣医病理診断医。 すべての動物のからだと病気に興味があります。無脊椎動物からアフリカゾウまで。 動物の「死」から「生」を考える。

最近の記事

「悲しい」だけで終わらせたくない

『死んだ動物の体の中で起こっていたこと』 がブックマン社から先日発売されました。 たぶん、書名をみたら読むのに躊躇される方もいらっしゃるかもしれません。 みなさんは「死」と聞くとどのようなことを連想しますか? 怖い、苦しい、悲しい、痛い‥‥ 死にはそういったネガティブな側面があるのは確かですが、死に対するそんなイメージをいったん胸の奥にしまって、この本を読んでいただけたらと思っています。 できるだけ考えたくないことですが、死は人にも動物にも誰にでも平等に訪れます。 でも

    • イシツブテの代謝性石疾患

      イシツブテを育成しているポケモントレーナーから、最近「いわおとし」や「たいあたり」といった技の威力が落ちて困っているという相談を受けました。 イシツブテの体はただの石だと思っていませんでしたか?実はイシツブテは外骨格生物であり、貝殻や骨や歯などと同様、バイオミネラリゼーションによって作り出した骨格だったのです。 生物が形成する無機化合物を、生体鉱物を言います。骨や歯はリン酸カルシウム(ヒドロキシ アパタイト)、貝殻や卵殻、耳石などは炭酸カルシウムから構成されている生体鉱物

      • バイキンマンの菌種同定の試み――バイキンマンはグラム陽性桿菌説――

        細菌感染症の治療や予防のために、抗生物質が使用されます。 感染症を引き起こす細菌にはたくさんの種類があるので、それに応じて適切な抗生物質を選択しなければなりません。抗生物質を効果的に使用するためには、病気を起こしている細菌をきっちり見極める必要があるのです。 グラム染色という、色素で細菌に色をつける染色があります。グラム染色の染め上がりによって、細菌はグラム陽性菌とグラム陰性菌に大別されます。グラム染色で青く染色されるのがグラム陽性菌、赤く染色されるのがグラム陰性菌です。こ

        • HE染色で見えるもの

          病理検査では顕微鏡を使って、病気になった動物の患部や亡くなった動物の臓器の異常を観察して、病気の診断をしています。 個々の細胞や、たくさんの細胞たちが集まってつくる組織構築は、そのままでは色がついていなくて顕微鏡をのぞいても詳しい構造は見えません。 顕微鏡で観察するためには無色の世界に色をつける必要があり、そのための工程を染色といいます。 病理診断の基本はヘマトキシリン・エオジン染色という染色。ヘマトキシリンとエオジンという2種類の染色液を用いる二重染色で、それぞれの頭

        「悲しい」だけで終わらせたくない

          獣医病理医も生きている動物が好き

          病理、イコール解剖というイメージがあるせいか、病理をやっていると動物の解剖が好きと思われることがあります。 私の場合は確かに嫌いではないけど、解剖が好きというより必要があるからやっています。 動物の病理解剖は、死因を調べたり病気を見つけたり、その子のためにやっているのはもちろんですが、残された動物たちのためでもあるし、飼い主や獣医師のためでもあります。 私も生きている動物が好きだから病理解剖をやっているし、公衆衛生の視点でみたら人や社会のためでもあるのです。 病理解剖

          獣医病理医も生きている動物が好き

          てんどんまんの、天つゆ天丼関門(Tentsuyu-Tendon-Barrier:TTB)

          脳には必要な物質は血液から積極的に取り入れ、不要なものや有害なものは血液から脳の中に入れないようなシステムがあります。それだけ脳は大切な働きをしている臓器なのでしょう。 脳に出入りする物質を厳密にコントロールしているこのシステムは、血液脳関門またはBBB(ビービービー)と呼ばれています。 BBBは、血液Blood、脳Brain、関門BarrierのBBBです。 その他にも血液から有害なものが入ってこないように大切な臓器を守っている関門として、血液精巣関門BTB、血液胎盤関

          てんどんまんの、天つゆ天丼関門(Tentsuyu-Tendon-Barrier:TTB)

          久しぶりの試験勉強

          この夏は、とある専門としての認定を受けるための試験勉強をしていました。 学生の方にとって試験は定期的に訪れるものなので勉強のリズムは作りやすいかと思いますが、社会人の方は試験勉強なんて大学以来という方も少なくないのではないでしょうか。 私は日常的に勉強を続けているので、久しぶりの試験勉強だからといって特別に何かしたわけではありません。趣味の読書の時間を減らして勉強に充てたくらいで、後はいつも通り仕事をして家に帰って、子どもを寝かせてから勉強をしていつも通り睡眠をとっていまし

          久しぶりの試験勉強

          クローン病の私が『食べることと出すこと』を読んで

          人間にとって毎日当たり前のように繰り返している食べることと出すこと。 それがある日突然思うようにできなくなったらどうなるか。 想像することはできるけど、実際に経験してみないと分からないことは多くあります。 この本は、潰瘍性大腸炎の著書が病気になって経験したことや考えたことをまとめた病気の記録。 潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に炎症が起こる病気です。 同じように消化管の粘膜に炎症が起こるクローン病とならんで、明確な原因が不明で根治できる治療法がないため、難病に指定されています

          クローン病の私が『食べることと出すこと』を読んで

          ジャムおじさんの血液がジャムでできているのには訳がある

          アンパンマンはあんぱん、しょくぱんまんは食パン、カレーパンマンはカレーパンなのだとしたら、 ジャムおじさんの体はジャムでできているのだと想像します。 ジャムおじさんの身体中に張り巡らされた血管の中には、血液の代わりにジャムが流れているのでしょう。 通常、血液の細胞は骨の中心部分にある骨髄という場所で作られます。 血液ではなくジャムなら、イチゴなどの果実と砂糖、少しのレモン果汁を摂取して、ジャムおじさんの胃の中で煮詰めることができれば簡単にジャムが作れそうです。 胃内で

          ジャムおじさんの血液がジャムでできているのには訳がある

          胃がない魚

          普段様々な動物を病理解剖していると、特に同じように多種多様な動物を解剖されている動物園や水族館の獣医師から、臓器の正常と異常の区別さえ難しいと言われることがよくあります。 各種動物の正常な解剖学を知っておくことはその動物の病気を理解するために重要なことではありますが、犬、猫、牛、豚、馬、鶏、マウス、ラットといった主要な伴侶動物や産業動物、実験動物を除いては参考となる成書や文献が非常に乏しいというのが現実です。 解剖学や病理学に関する情報が乏しい現状においても、それぞれの動

          本の読み方

          今日は私の本の読み方(専門書を除く)を紹介します。 ただ、自分自身もうちょっと上手く読めるようになりたいと思っているので、あまり参考にはならないということはあらかじめ言っておきます。 何冊くらいの本を読んでいるかあまり意識することはありませんが、1ヶ月の間に読んだ本を振り返ってみると、だいたい月に10から15冊くらいは読んでいます。 どんな本を読むか。 最近は読書に割く時間が少なくなってジャンルは限られてしまっていますが、基本的に何でも読みます。 本屋で見かけて気にな

          苦手なことを仕事にする

          専門は獣医病理学っていうと、学生の頃から病理学が好きで顕微鏡をみるのが好きなんだとよく思われます。 実は私、学生の頃から病理が苦手です。今でもそう思っています。 人から物事を教わることが昔から下手でした。苦手というより、せっかく教えてもらっても全然頭に入ってこないのです。 病理もそうでした。全然分からないのに教わるのが下手だから、無駄に自分で考えたり、図書館にこもって調べたり、これまで随分遠回りをしてきたように思います。 私は元々、外科を極めたいと思っていました。手や

          苦手なことを仕事にする

          はじめての投稿

          獣医師のShinと申します。 獣医師というと、動物病院や動物園で働く姿を想像されることが多いかもしれません。 実際には獣医師が活動している分野は色々あって、私は獣医学の中でも病理学を専門としている獣医師です。 ヒトを対象とした医療や医学の中で、「病理医」という存在は広く認知されるようになってきました。同じように、動物を対象とした獣医学の中にも獣医病理医、あるいは獣医病理学者という存在があって、病気の原因や成り立ちを調べています。 ヒトの病理医と異なるのは、様々な動物を対

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