てんどんまんの、天つゆ天丼関門(Tentsuyu-Tendon-Barrier:TTB)

脳には必要な物質は血液から積極的に取り入れ、不要なものや有害なものは血液から脳の中に入れないようなシステムがあります。それだけ脳は大切な働きをしている臓器なのでしょう。

脳に出入りする物質を厳密にコントロールしているこのシステムは、血液脳関門またはBBB(ビービービー)と呼ばれています。
BBBは、血液Blood、脳Brain、関門BarrierのBBBです。

その他にも血液から有害なものが入ってこないように大切な臓器を守っている関門として、血液精巣関門BTB、血液胎盤関門BPB、血液網膜関門BRBなどがあります。

口から食道、胃、腸、肛門までつながる消化管の通り道、鼻から気管や肺まで至る呼吸器の通路とは違って、上にあげた臓器は外界と接しておらず、血管の中を通る血液と物質のやりとりをしています。

しかしながら、アンパンマンに登場する、脳に相当するところに天丼が詰まっている「てんどんまん」は、頭部のどんぶりの蓋から海老天がはみ出してしまっています。

これは私たちに例えると、頭蓋骨が蓋のように開閉できて、脳の一部が外部に出てしまっているようなもの。脳が常に外界と接していたとしたら、そこから微生物が容易に侵入するでしょう。

外界と接している消化管や呼吸器は、体外と体内との境界部にはタイルのように上皮細胞が敷き詰められていて、表面は粘液で覆われ、さらに常在菌が病原体の侵入を防いでくれています。

てんどんまんには、微生物から頭部の天丼を守るシステムがあるのでしょうか。

病原体から食べ物を守る三原則というものがあります。食中毒予防のための大切な考えで、
菌を①つけない、②増やさない、③やっつける
というものです。
手洗いをしてよく洗浄した器具を使って病原体を食べ物に「つけない」、食べ物の放置をせず温度管理をしっかりして病原体を「増やさない」、そして器具の消毒や、食べ物を加熱して病原体を「やっつける」
どれも簡単なことですが、病原体の汚染から食べ物を守る大切なことです。

てんどんまんの場合、熱々のご飯に油であげたサクサクの海老天をのっけているので、きちんと加熱はしていて「やっつける」は問題ないでしょう。いつも作りたての天丼を入れているようなので、「増やさない」対策もきちんとしています。手洗いやきれいな器具を使う「つけない」は最も基本なので日頃から気をつけていればこれも大丈夫だと思います。

ところで、てんどんまんは天丼に天つゆをかけている姿を見たことがあるのでしょうか。
天丼にはご飯に天ぷらをのせてから天つゆを回しかけるパターンと、天ぷらを天つゆにくぐらせてからご飯にのせるパターンがあると思いますが、いずれにしても私が知る限り、てんどんまんが天つゆを使っているシーンを見たことがありません。

てんどんまんにとって、天丼のホメオスタシス(恒常性)を乱す最大の要因は天つゆにあるのかもしれません。
確かにいくら手洗いをしっかりして、衛生的に天丼を作ったとしても、仕上げの天つゆが病原体に汚染されていてはどうしようもありません。

かといって、つゆがない天丼なんて味気がないですよね。どうにかして天丼に天つゆを供給する方法を考えないといけません。

てんどんまんは外から天つゆをかけている様子はみられないので、おそらく体内から天つゆを送っているのだと思います。
生物が進化によって新たな機能を獲得する場合、新しい器官を作り出すよりも、既存の器官を使い回す方が合理的です。

そこで、てんどんまんも、天つゆを天丼に供給する手段として、循環器系を利用することにしました。てんどんまんは血液の代わりに天つゆを、心臓から動脈を介して天丼まで届けていたのです。

天つゆと天丼との間には、天つゆ天丼関門を作って、有害なものは天丼に入りこまないようにしているのでしょう。

とはいえ私たちの体も病原体が血液脳関門を突破して脳に侵入し、脳炎を引き起こすこともあります。
てんどんまんの天丼がときどきバイキンマンに食べられているのは、まさに脳炎を模したものだと思います。

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