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倒産はある日突然やってくる。

サラリーマン人生の中で、勤めている会社が倒産したり、崩壊する事なんてあまり経験する事はない。
が!
私は何度か経験している。
サラリーマンとして何と運のない人生だろうか。
それとも、私と務めた会社との相性の問題なのだろうか。

バブル崩壊後、体力のない企業は不景気の波に飲み込まれ業種、業態に関わらずどこも苦しんでいたが、人員削減、経費削減、コスト圧縮をいくらしても、追いつかなくて、いつかバンザイせざるを得ない決定的な日がやってくる。

あの手この手で危機脱出を模索

社内では、「ぼちぼちウチもあぶないんじゃないか。」
そんな声が聞こえ始め、この不景気のなか、形勢を逆転させる為に、色々な方策がとられ始めた。
社内組織の改編
部門ごとの分社化
給与体系の変更
役員人事の変更

社内報では、「この不景気の中でも一致団結してこの苦境を乗り切ろう!」と社長の檄が飛ぶ。
末端社員の私は、そうは言っても何を頑張るの?俺らやる事やってるし…って感じだった。
「ウチの会社は、決して人員整理は行いません!」って言っていた矢先に、希望退職者を募り始めた。

第一回目の募集は、55歳以上の者。
業界では老舗の企業であったが、会社に最後のご奉公とばかり当時中卒で入社して草創期を支えたベテラン技術者達が会社を去っていった。

暫くして、第二回の募集があった。50歳以上の者。
営業現場の最前線で戦ってきた一部の部課長クラスが去っていった。

また、更に暫くすると、年齢問わず募集がかけられた。
そすると、若手のデザイナーや、バリバリの営業職、事務職、技術職の人達が躊躇なく会社を去っていった。

給与体系も見直しがされる。
給料の手当にあった固定残業代が撤廃になる。
会社の残業も一律禁止。
年俸制へ移行。

各部門の分社も行われた。
各基幹支店を中心に、本社のある地域を除き、全国の支店、営業所は地域ごとに新会社を設立して分社化された。
製造部門や、デザイン部門、業態の異なる部門も同様に分社化される。

私も所属していた部門も分社され、数ある子会社の一社となった。
一つ社屋に各子会社がフロアをを分けて入居する状態になったが、会社が分社かされようが、下っ端の私の仕事は、何ら変わりはなかった。

つにその日がやって来た!

とある週末、親会社に打合せから帰ってきた上司(子会社社長)が、突然、近所に手頃な物件を既に契約したので、事務所を引越しすると言い出した。
土日返上で引越しをすませた翌月曜日。
ついにその日はやって来た。

月曜の朝の朝礼で、親会社が倒産した。と、親会社のある建物には絶対に近づくな!との命令が下った。
親会社では、各社員への通達は夕方行うとの事で、我々は数時間前に教えてもらう事ができた。

上司である子会社社長は、何をどう手続きしたのかはわからないが、結果的に連鎖倒産は免れた状態だった。
散々手を尽くして経営改善を図っていたのだろうけど、最終的には、取引銀行が手を引いた事が決定打だったようだ。

無事引越しを済ませたけど、取引先への移転案内はまだ出していないにも関わらず、どかで知ったかわからないが、下請け業者が何社か押しかけて来た。彼らは、支払いを心配してやって来た。まだ発表もしていないのに何故情報が洩れてしまったのか。今考えると、一部の幹部社員のリークがあったのかもしれない。

垣間見た阿鼻驚嘆

夕方には、倒産の発表をされる予定の親会社社屋に忘れ物を取りに行く事になってしまった。どうしても必要な書類を入れたファイルが持ってきたはずなのにどこにも見当たらないので、探しに行かなければならず、運悪く私が指名されてしまった。

社屋に入ると、夕方に発表にはずなのに既に皆、倒産する事を知っているようだった。
情報がダダ洩れすぎる。
慌てて顧客のところに向かう営業担当達、泣きながら身の回りの私物を整理する事務員さん、淡々と残務処理を進める経理、上司に食って掛かるデザイナー達、妙にテンションの高い人や、ガックリと肩を落として帰り支度している人…
ファイルを探しに先週末まで過ごしていた場所に来ると、数人の親会社の社員達が、立ち尽くしていた。

私を見るなり駆け寄ってきて、両肩を掴まれて怒鳴り散らされた。
「お前ら、先週までここに居たよな!なんで、キレイさっぱり居ないんだ!知ってたのか!自分達だけ逃げやがったのか!チクショー!」
彼の目は血走りながらも涙を溜め、真っ赤な顔で私に迫ってきた。
「いや、俺はあの…」身体をゆすられながら、(来なけりゃ良かった~)と思うだけだった。
少しして、彼は冷静さを取り戻したのか、うつむきながら、「悪かった。」そう言うと、肩を落とし背中を丸めながら去って行った。

全員不幸

倒産が沢山の人達の人生を変えてしまった。

いつか業績も回復してまた元の通りになると信じて、希望退職の誘いにも乗らず、給料を減らされても耐えて、手当も出ないのに会社に内緒でサービス残業して、家族に不安な思いをさせて、でも、結果はこうなのである。
最後まで会社を信じて残っていた人達への仕打ちがこれである。

これって、誰のせい?

人生で初めて倒産した会社の様を目の当たりにした時、この様の原因はどこにあるのか考えた。

日本の経済のせい?
経済は悪いのは政治家のせい?
経営者が無能だったのか?
従業員の能力が足りなかったのか?

この話はかなり前の話だが、その時は自分達の事しか考える余裕はなかったが、その倒産で、仕入れ業者や顧客にも相当迷惑をかけているはずである。私の見えないところでも沢山の修羅場があったはずだ。

今現在もサラリーマンとして働く私は、時々、フラッシュバックのようにあの時の事が蘇る事がある。

難しい経営論なんてわからないし、経営者でもないから答えはでない。
ただ、自分の担当するプロジェクトは絶対に赤字にしない。それだけは命懸けで取り組んでる。

二度とあの様だけは、見ないように。と誓って。

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