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何で新聞記者を辞めたのか 共働きの子育て世帯で転勤族は厳しい

 私は3年程前に新聞社を退職した。理由は共働きの子育て世帯が、転勤族であり続けることは難しいと判断したためだ。

 「家庭の事情で会社を退職します。会社や職場環境には特に不満はありません」
202X年1月、新聞社内の会議室で私は上司に退職する旨を切り出した。その後、上司や編集局の幹部の方から、私にとって好都合な条件を提示していただいたが、決意が揺らぐことはなかった。転勤という制度がある限り、共働きで子育てをする私には、根本的な解決につながらないからだ。

充実した記者生活


 新聞社に入社後、東京での研修を終え、配属された地方都市で始まった記者生活。「激務」「プライベートはない」「昭和な雰囲気」など、想定していた新聞記者のイメージとギャップはなかった。

 初任地では、県警、司法担当の後、市政、県政担当と、支局でのお決まりコースを歩んだ。事件や、災害、選挙があれば、休日とか関係なく働いた。他社の紙面に先行して特ダネが掲載されれば上司から容赦なくプレッシャーをかけられ、緊張感のある仕事だったが、充実していた。
 朝刊の原稿をチェック後は毎日のように飲み歩いた。取材先のほか、支局や他社の先輩後輩と飲み屋街に繰り出す。飲んだ後はスナックか雀荘が定番だ。
 理不尽なこともあったが、全国紙記者として働いていた父の姿を見ていたので、「まあこんなもんだろ」という感じで大きな不満を抱くこともなかった。ビジネスマナーとか細かいことは指摘されない社風であり、いい加減な性格の自分には合っていたと思う。

 初任地で仕事を通じて出会った妻と結婚したものの、すぐに県外への異動の内示が出た。妻は仕事を続けたいと希望したため、単身赴任となった。
 単身赴任後は、経済記者となった。大手企業の動きや、社長人事等の特ダネ合戦により、引き続き激務だった。妻とは週末に列車で行き来して会う程度だったが、互いに充実した生活を送っていた。

第一子誕生を契機に人生を考える


 異動から数年後、妻が妊娠したのをきっかけに生活が一変する。当時はコロナが猛威を振るっており、妊婦は、県外に住む家族と接触するのは非常にハードルが高かった。その時初めて、妻と将来について真剣に話し合った。

おしん「娘と一緒に暮らしたい」
妻「正社員として働き続けたい」

 これが互いの思いだった。当たり前のことを言っているようだが、大きな問題が立ちはだかる。転勤だ。新聞社は転勤が多く、定年までに少なくとも10回は引っ越しを伴う転勤がある。私が単身赴任を選べば、娘と暮らせない。妻が転勤に帯同すれば、正社員として働くのは難しい。
転勤という制度があるだけで、こんな当たり前のことも実現できないのか。転勤族である限り何度、シミュレーションをしても互いの思いを実現することは無理だった。

転勤は会社へのロイヤリティ(忠誠心)を見極める良い機会


 それからは転勤制度に関する各社の記事を興味深く読むようになった。共働き世帯は子供が生まれたのをきっかけに転職する人が多いことも知った。
 同じ部署や仲の良い同僚は、ほとんど、妻が専業主婦、もしくは独身だった。記者の仕事に大きな不満がある訳ではないし、まだ書きたい記事もあった。職場の上司や、先輩、後輩も優秀で良い人が多い。ただ、「共働き子育て世帯で転勤族というのはやはり無理なのか」との思いが募ってくる。

 当時、読み漁っていた転勤に関する記事で印象的なコメントがある。「転勤は会社へのロイヤリティ(忠誠心)を見極める良い機会になる」との内容だった。確かに、上司の中には「何年も単身赴任をしていて妻や子供とほとんど会っていない」「激務でほとんど家族と会えず、すでに離婚した」という方たちもいた。出世する社員は例外なく会社へのロイヤリティが高い。この点、私は自分や家族の暮らしを優先させた時点で、会社へのロイヤリティは高くないといえ、会社に残っていても将来的に行き詰っていたのではないかと思う。
 また当時はコロナが猛威を振るっていたことに伴い、県をまたぐ移動に制限があり、妻と娘に会うことが困難になっていたことや、ほかの家庭事情も重なり、退職を決断した。
 私はそれなりに会社に順応していると思われていたようで、同僚に退職すると伝えると結構驚かれた。

 新聞記者の元同僚とは今でもよく飲んだり、ランチをしたりする。妻が正社員で働いているため、子供が生まれても、単身赴任をしているという話を先日も聞いた。自分にはできなかった選択なので素直に尊敬する。
 共働きの子育て世帯が増加し、大手企業でも転勤や単身赴任による退職が相次ぐ中、大手金融機関やメーカーは転勤の廃止や単身赴任時の手当アップといった対策を取り始めているようだ。
 新聞社も近い将来、転勤制度について改革が迫られる日が間違いなく来ると思う。共働き世帯の子育て環境は多種多様だ。夫婦ともにキャリアを犠牲にしないように、柔軟に制度設計をしてほしいと願っている。

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