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脳はものの見方で変化する③

前々回前回の続き。本「脳はものの見方で変化する」より。

人間の脳は、興奮と抑制の間でバランスを保っている。脳はこのバランスのおかげで反応する能力を最大限に発揮できるのだ。抑制が強すぎると刺激が伝わらないだろうし、刺激が強すぎると痙攣のような発作を起こすだろう。
 バランスを保つことで、刺激に対する適切な準備をすることができる。どんな環境であっても、不確実な文脈における変化に反応できる。だからこそ脳は、自らの複雑さを、自らの文脈にマッチさせることができるのだ。
 脳は常に普通を再定義し、動的な均衡を探している。一直線ではない、あちこちに飛ぶ散漫なプロセスで、成長と剪定を繰り返している。脳はそうやって、創造性と効率性の間を行ったり来たりしている。脳内を検索するスペースの次元を増やしたり減らしたりしている。

脳には2つのモードがある。①DMN(デフォルトモードネットワーク)(アイドリング状態)。②読書や仕事思考など集中して何かに取り組むときに活発になっている状態。


 創造性と効率性を兼ね備えている人は、創造的なプロセスで欠かせない存在だ。例えば編集者がそれにあたる。作家のために期限を決め、作家の創造性が最も発揮されるように手助けをする。状況によっては効率性が創造性よりも助けになってくれる時もある。
学校は、効率性を超えた様々な疑問を追求する場所であるべきだろう。
大学の研究で利益や効率性を追求すると、創造性が損われる。
 どのレベルでも、競争によって効率性を最大化している証拠を見つけることができる。脳は、重さでいえば体全体の2%しかでしかないが、消費するエネルギーは体全体の20%にもなる。 脳細胞は脳内に膨大なネットワークを張り巡らされ、それぞれのネットワークで定期的な活動を行うために多くの資源を消費している。そのため脳はなるべく活動効率化しようとしている。最小限の脳細胞だけを使い、脳細胞が発火する回数も少なくしている。その具体的な方法は、①たくさんの脳細胞があってもそれぞれ一緒に1回しか発火しないようにするか、②または脳細胞1つだけ持ち、それが生涯にわたって量を繰り返すようにするかだろう。そしてどうやら、脳はこの両方の戦略を採用しているようだ。
脳細胞の数と必要な行動の間でうまくバランスを取ることで、限られたエネルギーを効率的に使っている。そして1番活動的な脳細胞が1番生き残る確率が高い。しかしいくらエネルギーが限られているとは言え、脳の余分な活動を全て捨てなければいけないほど切羽詰まっているわけではない。そして脳の余分な活動は、創造的な活動には欠かせない要素だ。
 イノベーションを起こすエコロジーを整えるには、自分の生物としてのシステムを参考にするべきだ。私たちの脳は、創造性と効率性の間で見事にバランスをとっている。何事においても、成功するには創造性と効率性の両方が必要だ。この2つはダイナミックの均衡の中で同時に存在しなければならない。それに加えてシステムそのものが発達することも必要だ。
 発達のプロセスは次元を増やすプロセスでもある。これは複素化と呼ばれるプロセスであり、(中略) 複雑化とは読んで字のごとく、まず次元が少ないシンプルな形から始め、だんだんと仲間を増やして複雑にしていくプロセスだ。その後で試行錯誤によって余分な助言を減らし、システムを洗練させていく。その過程を何度も繰り返し、発達させていく。つまり発達とはイノベーションが形になったものだと言えるだろう。


2003年Appleは、自社のMulti-Touchと言う技術を搭載すると決めて、スマートフォンの開発にとりかかった。スクリーンにタッチするだけで様々な操作ができれば、ユーザにとって全く新しい体験になるはずだ、と考えた。

 しかし、その時点で本体のデザインは決まっていなかった。1つの案は「エクストルード(Extrude)」と呼ばれていた。アルミニウムの筐体で、真ん中が膨らんでいるextrude)のでこう呼ばれる。しかしデザイナーのジョナサン・アイブは納得せず、もう一つのサンドウィッチと呼ばれる案を検討した。特別にデザインしたガラスで両面から挟むと言うデザインだ。ジョナサンアイブとデザインチームのメンバーは両方の案を同時に検討し、アイディアの複素化を行っていった。しかし、結局のところどちらもボツになり、2つの案が出る以前から検討していた案に、戻ることになった。効率が悪いと思うかもしれないが、他の2つの案を複素化すると言うプロセスがなければ、第三の案の良さに気づくこともなかっただろう。
システムが複雑であればあるほど、可能性の空間の中で最適の答えが見つかる可能性は大きくなる。つながりの数が多くなればなるほど、答えになるかもしれないものの数も多くなるからだ。
それでは最適の答えを探すにはどうしたら良いのか?それには自分が発達すれば良いのだ。まず1つか2つ位の次元から始め、だんだんと次元を増やしていく。
 シンプルな状態から始めると、低いところから高い所へ少しずつ登っていける。高い次元を超えていくことで、低い次元のシステムに存在する思考を、通り過ぎることができる。次元をバイパスするということだ。この発見から、システムに私たちがノイズ(違いを生み出す不完全さつまりランダムな要素)と呼ぶものを加えると、システムの適応力が向上するのだ。システムにノイズがあるのはいいことだ。
 脳の発達でも同じことが言える。脳は発達の過程で、ニューロン同士のつながりの数を増やしていく。つまり自らを複素化していると言う事だ。可能性の空間に次元を出しながら、神経伝達の通り道を増やしていく。それを行うときに根拠となるのは、過去においてうまくいったこと、いかなかった事の情報だ。役に立つ思い込みを強化され、もう役にたたなくなった思い込みが失われる。
あなたの細胞は神経近接合部◎でまさにこれを行っている。余分な枝を伸ばし、その後でシステムが剪定を行い、また枝を伸ばす。その結果つながりの数は増えるが、効率性は高まっている。それに加えてウディ・シュレシンガーがラボで発見したことによると、ただランダムにつながりを増やすよりも、小さなステップを加えてシステムをコピーする(余分なものを加える)方が役に立つと言う。
アップルはいくら完成度の高い製品を作っても、なぜもっと良い製品が作れないのだろう?と言う質問を絶対に忘れない。彼らにはもっと良い製品が作れるし、実際に作っている。新しいiPhoneの発表という繰り返しのために前よりも向上したと言うところがある。

失敗とは、何も学ばないことを意味する。

人間の脳は、完璧であることを目指しているわけではない。不完全さの中に意味を見いだすようにできている。脳は、確実性も好きだが、ノイズも好きだ。そして私たちの五感は無意味な情報から意味を作り出すために対比を必要としている。対比の対象がなければ、情報は無意味なままだ。
例えばピアノの演奏で考えてみよう。機械がピアノを弾くこと、人間のピアニストが弾く事の間にどんな違いがあるのだろうか?機械が奏でるピアノ曲はそれほど美しく聞こえない。冷たく、魂のない音だ。その理由は皮肉なことに、演奏が完璧だからだ。失敗もなければ、ためらいもない。自然発生的な要素もない。常に適応すると言う人間の欲求に応えてくれるようなものは何もない。つまりあなたの脳は、自然の美しさに反応するように進化した。そして自然である事は、不完全であることだ。だからイノベーションのプロセスも完璧である必要は無い。さらにはイノベーションの結果も完璧でなくても構わない。大切なのはどのように不完全であるかと言う事-どのように普通から外れたかと言うことだ。

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