【連載小説】風は何処より(8/27)
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真壁は、老人の動きを監視していた。
ようやくついた部下にも、行動を調査・監視させ、大まかなスケジュールを把握していた。
そのため、家を出て向かう方向で、おおよその行先は分かるようになっていた。
今日は、老人はバス停に向かっている。ということは、墓参りに行くようだ。
真壁は、ハンドバッグから黒い携帯電話を取り出した。
アンテナを引き伸ばし、10ケタの番号を入力する。
しばらく呼び出し音がして、相手が電話に出た。
「真壁だ。K氏は、墓参りに行くようだ。現地で落ち合おう」
相手が返答したようで、「では、頼む」と短く言って、電話を切った。
以下、調査レポートの抜粋である。
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城所正治郎 72歳。1924年生まれ
1944年、早稲田大学在学中に従軍するも、傷痍のため、戦地より帰任。大学に復学し、教員免許取得。
戦後は新制中学の教師。バレーボール部顧問。
教育委員会理事などを歴任し、1984年に中学校を退職。
私生活では、1948年に、結婚。1949年に長男が誕生するも、1950年8月に妻が失踪。
以後単身、長男と二人で生活を送る。
現在は年金で生活。長男、嫁、孫と練馬区で4人暮らし。
性格は明るく快活。健啖家。
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この1年ほど、監視を続けている。
監視理由は、韓国中央情報部の幹部だった女性職員と、かつて婚姻関係にあったからである。
何かを知っている、という判断である。
母の死から四半世紀。今日、ようやくすべてが終わる。
真壁は、そっと息を吐いた。
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