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東京都生まれ。

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【連載小説】風は何処より(27/27)

あとがき この作品の前期版は、1995年に書き上げたものです。 しかし今回の作品は、その時のものとは、設定も内容も大きく異なります。 当時から20年の歳月が経過しましたが、主人公たちの活躍する舞台は、1995年当時のままです。 「戦後50年」から「戦後70年」と、20年で世界秩序は大きく変わりました。 男の生き様、女の生き方、それぞれの想いを、改めて書き直しました。 風は、今日もどこからか、吹いてきます。 ■参考文献 実録KCIA「南山と呼ばれた男たち」 金 忠植 著

    • 【連載小説】風は何処より(26/27)

      26 2015年、夏。 早いもので、あれから20年が過ぎてしまった。 城所正治郎さんは、3年前に他界した。88歳と長寿だったようだ。 年賀状のやりとりは続いていたため、「兄」である、城所信彦からの喪中ハガキで知った。 久しぶりに六本木の旧跡を訪ねた。 戦いの場であった、六本木の変容にも驚かされる。 防衛庁は、市ヶ谷駐屯地に移転し、旧来の面影はない。六本木ミッドタウンとして、高層ビルがそびえる。 それよりも驚くのは、ミッドタウンの「地下」の広さだ。 さらにその下を走る、大江

      • 【連載小説】風は何処より(25/27)

        25 7時間程かけて、六本木から練馬の自宅まで、徒歩で帰ってきた。 12キロくらいの道のりで、途中、深夜営業のファミリーレストランで何度か休憩しながらだったが、いい散歩だった。 早朝6時40分。 じきに日が昇ってくるのか、鳥が鳴き始めていた。 家の前まで来ていた。 この家の門をくぐれば、またもとの生活に戻る。 同じことを繰り返す生活が。 しかし、城所の心は、晴れ晴れとしていた。 男として燃えた一夜を追懐していた。 「じいさん!」 後ろで呼ぶ声がした。あまりの突然の事に

        • 【連載小説】風は何処より(24/27)

          24 「なーんてな」 城所は、態度を一変させ、ひょうきんな表情をして見せた。 「残念だが、お前には、俺は殺せねェ。 俺を誰だと思ってンだ。歴史の教師だぞ。 こどもの考える事くらい、お見通しだ。 理由を突き詰めて、その背後を調べれば、答えは見えてくる。 歴史は勝者が作るもンだとおもっているだろうが、それだけじゃあねェ」 「敵討ちなんて、嘘だろう。諸々いっぺんにまとめて始末するため、じゃなかったのか? そもそも、アンタは嫌な女だと、思ってたンだ。手段は選ばない。人命の尊さも

        【連載小説】風は何処より(27/27)

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          26本

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          【連載小説】風は何処より(23/27)

          23 城所は、防衛庁内の応接室にいた。 壁の時計は、夜10時を回っている。 テーブルには、仕出し弁当が置かれている。 ふたを開けてみたが、内容は豪華で、2000円はしそうだ。 腹は減っているが食欲はない。手をつける気にはなれなかった。 (最後の晩餐って訳か…) 普段なら、床に就こうかという時間だが、今夜は眠くはならない。 窓の外は、煌々と六本木の夜のネオンが輝いている。 ふと、扉が開き、包帯で手を吊った真壁が入ってきた。 軽く会釈し、真壁が対面のソファに腰掛けた。

          【連載小説】風は何処より(23/27)

          【連載小説】風は何処より(22/27)

          22 真壁も、母の死んだ事情は初めて聴いた。 母が、自ら死を選んだとは考えられない。 とすれば。やはり、この男は活かしておくことは、出来ない。 「話は分かりました」 真壁が右手で拳銃を抜き、その銃口を神津に向けた。 咄嗟に、赤石が神津に駆け寄り、手にしていたサブマシンガンで、真壁に反撃した。 赤石の放った銃弾は、真壁の左上腕を擦過し、衝撃で真壁が倒れた。 銃弾は、激しい音を立てて、壁面を炸裂させる。 「貴様ッ!」 真壁が赤石を睨み付け、呻くように言葉を吐いた。 その

          【連載小説】風は何処より(22/27)

          【連載小説】風は何処より(21/27)

          21 教師である自分は、いつも生徒に教えていた。 一つのことだけ見ても、真実は見えてこない、と。 複数人の「個人」の事だけを見ていても、物事は見えてこない。 殺人や失踪などという「三面記事の事件」ではなく、これは「政治」なのだ。 コトは、日本とアメリカと韓国の現代史の中にあるのだ。 神津も千鶴も、決して教科書には載らないが、現代史のキーパーソンだったのだ。 「多くの人は、見たいと欲する現実しか見ていない」とカエサルは言った。 人は安易な憶測や、恣意的な情報の取捨選択によっ

          【連載小説】風は何処より(21/27)

          【連載小説】風は何処より(20/27)

          20 次はメアリーの話だ。 メアリー・マキャベリは、戦後「日本人」となり、結婚して、城所千鶴と名を変えていた。 1950年6月に朝鮮戦争が勃発。 1950年8月には、警察予備隊が設立され、実質的な軍が復活した。 1951年9月。サンフランシスコ講和条約、日米安保条約が調印され、日本は独立国として歩き出した。 1952年7月には、公安調査庁が設置された。 破壊活動防止法の施行と同時に、法務府特別審査局を発展的解消する形で公安調査庁が設置されたのだ。 当初は公安調査庁に、「

          【連載小説】風は何処より(20/27)

          【連載小説】風は何処より(19/27)

          話は韓国側に移る。 CIAは、極東地域において、すなわち日本でも韓国(南朝鮮)でも、第二次世界大戦後の「経済戦争」を裏で手ぐすね引いていたのである。 朝鮮半島の地勢を見ると、南朝鮮は高山が無く、気候温暖な農業に適した土地である。 日本統治時代には、米などの農産物を輸出していた。 その代わり有用鉱物は少ない。 一方、北朝鮮は冷涼で山が多く農業には不向きである。 その一方水力、鉱物資源に恵まれていた。 その為、南北に分裂したとき、南朝鮮には工業としては紡績工場とソウルを中心

          【連載小説】風は何処より(19/27)

          【連載小説】風は何処より(18/27)

          18 神津の話は、戦後までさかのぼる。 日本はなぜ、無抵抗に近い形で、米国による単独占領することができたのか。 それは、日本の支配機構が、占領軍の協力者になり、国を売り飛ばしたからだ。 駐日大使ライシャワーは、戦争末期に、「天皇を傀儡にして間接統治する」という占領プログラムをつくった。 そこでは、戦争中も「短波放送の聴取が許される500人ぐらいの日本のエリートに常に知的な情報を粘り強く伝達せよ」と米陸軍に提案している。 実際、1945年5月から「ザカリアス放送」という短

          【連載小説】風は何処より(18/27)

          【連載小説】風は何処より(17/27)

          17 夕食が済んだのか、ワゴンに乗せられた食器類を、使用人たちが運び出していくのが見えた。 台所に持っていくのだろう。 「あの部屋がダイニングルームです」と赤石が促した。 それを見た真壁が、「鈴木は、使用人たちを拘束せよ」と命じた。 「私たちは、神津と話をする」と言葉短く伝える。 鈴木が、台所の方へ早足で向かっていった。 「失礼」と短く、真壁が言う。 城所と真壁、赤石の順にダイニングルームに入った。 豊かな銀髪の老人が、ナプキンで口を吹いていた。 フランク神津竜一。

          【連載小説】風は何処より(17/27)

          【連載小説】風は何処より(16/27)

          16 城所昌之は、六本木にいた。 15歳で中学3年生だ。あまり学校には行っていない。成績もよくない。 髪を長く伸ばし、茶色く染めている。ピアスも3つあけている。 合成皮革の革ジャンを羽織り、太めのジーンズを腰ではき、レッドウイングのワークブーツを履いている。顔中ニキビだらけで、真っ赤な顔をしている。 今日は、知り合いの先輩が、六本木に店を出すというので、そのオープン記念パーティに呼ばれたのだ。 昌之は、チーマーと呼ばれる、所謂ギャンググループに入っている。 中学の同級生た

          【連載小説】風は何処より(16/27)

          【連載小説】風は何処より(15/27)

          15 車は西麻布を曲がり、六本木に入った。 この辺りは、今でこそ大変な繁華街だが、戦時中は軍事用施設が集まっていた場所だ。 防衛庁もここにある。 旧軍の研究所や砲兵工廠もあったはずだ。 車は六本木通りの交差点で、信号待ちで停車した。 平日火曜ではあるが、夜7時を過ぎて、横断歩道は人であふれていた。 周辺道路も、通行人で混雑している。 やがて信号が変わり、車は左折し、横断歩道を歩く人々を待って、徐々に前に進む。 左手には防衛庁が見え、車窓から過ぎ去っていく。 道の両側から

          【連載小説】風は何処より(15/27)

          【連載小説】風は何処より(14/27)

          14 車は、新宿御苑を過ぎて、外苑西通りに右折した。 車窓を眺めながら、玲子は、昔のことを思い出していた。 母が他界して四半世紀が経つ。 いまの自分の年齢が、母が死んだくらいか。 母はもっと緊張感のある顔をしていた記憶がある。今の自分よりも、もっと、大分痩せていた。 その時の韓国の状況もあったかと思う。 玲子が生まれ育ったのは、韓国・ソウルだ。漢南という韓国でも高級住宅街に住んでいた。 夏暑く、冬は酷寒のソウルが大嫌いだった。 1971年、玲子は、韓国名「イ・スヒョン

          【連載小説】風は何処より(14/27)

          【連載小説】風は何処より(13/27)

          13 準備は機敏に行われていく。 運転手の男が、散弾銃を手にし、ショットシェルと呼ばれる散弾を込めていた。 城所は、先ほどのプラスチックケースに入っていたベレッタ拳銃を渡され、 あらかじめ腰に着装させられていたホルスターに挿入した。 城所は、上着を着て、銃を隠した。 鉄の重みで、ずっしりと感じる。 事務所を出て、エレベータに乗りこんだ。 3人とも服装は、先ほどと変わらない。 真壁は黒のパンツスーツ。 鈴木も同様にスーツ。 城所も、厚手の茶のジャケットに、ズボンという井手

          【連載小説】風は何処より(13/27)

          【連載小説】風は何処より(12/27)

          12 真壁が話し終えると、車は中野から新宿あたりを走っていた。 城所は、沈黙し続けていた。 (経済と安全保障か、大それた話だ。だが俺と、どんな関係があるッてンだ) 三人を乗せた車は、新宿の大きなビルの地下駐車場に入った。 運転手の男が、先に車を降りた。周囲に目配せをしながら、後部座席のドアを開け、城所と真壁を降ろした。 「こちらです」運転手の男が、エレベータのほうに案内する。 城所は、促されるままに、男と真壁についていく。 エレベータの扉が開き、乗り込む。 運転手の男が

          【連載小説】風は何処より(12/27)