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なにかのプロローグ

先の見えない階段を、あてもなく下っている。

ひたり、ひたり。
足音が反響するのを聞きながら、私は降り続ける。この階段がどこへ続いているのか、自分が一体いつからこの階段を下り始めたかすら思い出せない。

ただ、振り向くと後ろに延々と伸びる登り階段を見て、よっぽどこの階段をくだらなければいけない理由があるのだと自分を納得させ、一段、また一段と私は足を下ろしていく。

階段は石造りで、端から端まで10歩半の壁はコンクリートの打ちっぱなし。明かりは前からも後ろからも届かず、手元にあるランプの他はこの空虚を照らすものは何もなかった。

気の遠くなるほどの長い時間を、目的も忘れて下っているうち、頭は暇を持て余し始めた。下ってきた日数を数えるのも、階段のひびを探すのも疲れてきた。

かつて持っていたような気のする時計も、かつていたような気のする仲間も、どうだっていい。もう何も見たくない。しかし足元を見なければ確実に踏み外し、真っ逆さまだ。

ー休憩しよう。休憩。

ここに来てから何度目の休憩だろう。私はその場でしゃがみ込み、ランプを消した。

唯一の光源を失った階段は、無限に広がる空間にいるような焦燥感と一切の空間をすべて削り取られたかのような息苦しさを感じさせた。

私は暗闇で発狂しないように目を閉じた。目に映る事象は変わらないが、目の前の暗闇と顔を合わせるよりはマシだ。

しばらく目を閉じていると、どこからか声が聞こえる。不意のことだったので、この声が自分の頭の中だけに聞こえていることに気がつくまで数秒かかった。

声は何かと話すようにつらつらと囁く。その声に懐かしさを覚えたのは、人と話すのがあまりに久しぶりだったからかもしれない。

とうとう頭がおかしくなったかと思ったが、どこまでも続く階段の途中で私が何を聞こうと、何を語ろうと、無意味なのだった。

だからこれは、そう、どうでもいい。
心底どうでも良い、ただの与太話だ。

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