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DJ JIN Interview vol.2

DJ JINさんをゲストにお迎えし大盛況に終わった「Soul Matters vol.9」。今回はJINさんのインタビュー後編(インタビュー前編はコチラ)。JINさんとcro-magnonのコラボレーションユニット、Cro-Magnon-Jinが昨年放った7インチボックスアルバム『The New Discovery』(Jazzy Sport) が、3月5日にCD/配信でリリースされるとのことで、このアルバムについてたっぷりとお聞きしました。現在進行形のファンク『The New Discovery』をより楽しむための記事としてお読みいただければ幸いです。是非ご覧下さい。

※vol.3はコチラ

(インタビュー・編集:島 晃一、編集:中村悠太)

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――Cro-Magnon-Jinの新譜『The New Discovery』の7インチボックス、拝聴しました。恐れ多いですが、まだうまくDJで使えていない、というのが率直なところなんですが……。

DJ JIN (以下、J):「この曲なんなんだー?!」って思ったでしょ?「そしてこれはいったいどういうつもりなんだ?!」って(笑)。

――2014年に出た7インチシングル「QP Funk」(Jazzy Sport)はわかる感じというか、語弊があるかもしれないけど、現行ファンクの枠で考えられて。イントロに長いドラムブレイクがあって、それこそ2枚使いもしやすいですよね。でも『The New Discovery』はどの曲もそういうのじゃなくて。

J:これは意図してなんだけど、「QP Funk」はCro-Magnon-Jinとしての最初の曲だから、安心感を与える意味でも挨拶として出した1曲という感じで。だから、イントロにドラムブレイクがあって、曲の中盤にもドラムブレイクがあって、盛り上がって最後はかき回しのカットアウトで終わるみたいな。途中でいわゆるダブルタイムの展開、テンポの速いBPMを半分で取るみたいな展開もあったりするけど、基本的には様式美を踏襲するという狙いがあって作った。

それで挨拶をしておいて、なんだかんだやりたいのはフューチャーファンクだったからさ。『The New Discovery』では、曲頭に普通にドラムブレイクで始まって曲中盤でドラムブレイクっていう様式美は絶対やらないようにしようと。

それで、RHYMESTERの「人間交差点」を作ったときに、Mountain Mocha Kilimanjaroに演奏をしてもらったんだけど、ここ最近ヒップホップとかフューチャービート系とか含めたクラブミュージックが、ミュージシャンシップと交わっていいものを作っていくというプロジェクトが多い。それこそKamasi Washingtonも俺からしたらクラブミュージックだし。Kendrick LamarもThundercatが入ったりとかして。打ち込みと生演奏の垣根を越えていくような、生演奏だけどもそれが打ち込みの音っぽく聞こえるみたいな音楽の流れがあって。

そういう流れを踏まえつつ、未来につながるファンクミュージックを出したかった。だから今までやってきたことをやっちゃダメなんだって思っていましたね。そういう様式美は捨てて、聞いている人に刺激とインスパイア、そしてかっこよさを味わってもらえるようなものを作りたかった。cro-magnonのお三方だったら、そういうのも大好きでシェアできる間柄だし、演奏力と音楽力もばっちりだから、コンセンサスはもう最初からとれてた。だから、聞いた感想でちょっとびっくりしてもらうのは俺的には正解です。

――今のお話を聞いてすごく腑に落ちたのは、Kamasi Washingtonの名前が出てきたというところです。ディープファンクを浴びて来て作り上げた枠から少し外れるというか。そこで処理しきれない部分をこれからどうしようかと考えさせられる。失礼ですけど、「人間交差点」はまだ枠内な感じがあります。元ネタもありますし。ビートものりやすくて、まだ使いやすい。でも、Cro-Magnon-Jinのタイトル曲「The New Discovery」は途中テンポがすごく落ちて、エンディングが二つあるように聞こえる。びっくりしました。

J:逆に質問なんだけど、島は「The New Discovery」を現場でかけたことはある?

――毎回持っていってるんですけど、イントロが入れやすいフィルではないというのもあって、まだ上手くかけれてないですね。それこそ 「The New Discovery」は、前回のインタビューの時におっしゃられた「交差点になる曲」だと思うんですが……まだ、自分の腕のなさもあり、うまく使えてないですね。

J:なるほど……。ちなみにイントロについては、3拍目で出せばいいんだよね。2小節単位の8カウントで考えるときは7拍目です。

タイトル曲の「The New Discovery」は製作途中の段階では、イントロのフィルをわかりやすくしようとも考えてたけど、最終的には若干イレギュラーな感じにしてみました。いい感じの刺激を多めにしてみようかなっていう。俺自身はDJだし、曲も作るタイプだから、今こういうのがあったら絶対に面白く響くんだよなーっていう確信もあって。自分がかけたい、かけられるものを作るというのもあったりするから。

でもね、そういうことをやらなきゃダメだと思うんですよね。わかりやすくしていくのも一つのやり方ではあるけれど、Cro-Magnon-Jinは、わかってらっしゃる人というか、ある程度突っ込んで聞いてくれるような人が手にしてくれるだろうと思うから、手加減しちゃいけない。脇目も振らず「どうだあああああ!」っていうぐらいの、「こっちはやりましたよ!」みたいなことをやらないとね。だからあえて、7インチのアナログボックスを先に出しました。

――アナログ7インチボックスで出るって聞いたときに、徹底して現場向け、DJ向けに作られているな、と思いました。

J:本当はデジタルとかCDとかいくらでも早く出せるんだけど、とりあえずそこは置いといて。そのうえで、どう音作りをすればいいか。それで、信頼しているトップエンジニアの奥田くんに相談したら、「アナログレコードのリリースを目指して徹底的にこだわってやってみませんか」と言われて、僕らとしても奥田くんの提案にのりました。

レコーディングスタジオは、ビンテージの機材と楽器が相当充実していながら、デジタル環境も揃っているところを選んで。アナログの良さとデジタルの良さのどっちもいいとこ取りして、完璧な今のファンク、フューチャーファンクになるように音処理していこうと。例えば、ディアンジェロの『Black Messiah』もアナログにこだわったレコーディング、みたいに言われているけどデジタルのプロセスは通ってるしね。さらにマスタリングという最終的な音の仕上げ作業をする際には――ここから以降の過程は奥田くんの提案に丸乗りさせてもらったんだけど――これはアナログレコード専用に音源を仕上げてくれるドイツの職人にお願いしました。とにかく、まずは7インチのボックスセットっていうリリースがあったから、100%アナログレコード向けのマスタリング。それで音源が上がってきたら、その職人からの注意書きで「この音源は完全にアナログレコード専用に仕上げたから、この音をそのままCDや配信のデジタル音源に使うことはするな」と書いてあって(笑)。

もちろんそのつもりだったので、じゃあ、CDとか配信用の音源はどうしようかと。そこで、アナログ7インチのテストプレスから音源を録ってマスターにして、そこからCDやデジタル音源にする作業をしたんです。いわゆる「盤起こし」ってやつで。そういうプロセスも、今の時代は相当奇特な人しかやらないけど、そのくらいこだわり抜いてやろうと。曲やレコーディング、マスタリング、パッケージング含めて、一筋縄ではいかないことをしました。そういう音源の制作の仕方や、「なんじゃこりゃ」という曲構成についても、今起きている何かしらの面白さを感じ取ってくれたらこっちは嬉しいかなって感じです。

あとは、何と言っても、そういった「やりたいこと」を実現に導いてくれたジャジースポートのみなさんには感謝としか言いようがないですね。今の時代、予算だなんだかんだで制作手法が制限されることもあったりするから。

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(写真提供:寺西孝友)

――その、Cro-Magnon-Jinの一歩二歩進んだアプローチを生むにあたって「Breakthrough」の影響ってあるんですか?

J:もちろんもちろん。あそこは音の実験場だから。そこで自分がプレイして鳴りとか身体で感じた曲だったり、他のDJの選曲もヤバいからそういうのを聞いてフィードバックして。

――「Breakthrough」でかかるようなハウス、テクノだったりもフィードバックするみたいな感じですか?

J:音の本質的な、根っこの部分っていうか。グルーヴィな感じとか刺激のある感じとか、「気持ちいい~」っていう感じとか「なんじゃこりゃ」っていう感じとか。そこはジャンル問わずにいろいろ混ざって、っていうところかな。

――そういう実験の場からああいう音が生まれてくる、ということですかね。レアグルーヴDJは今、『The New Discovery』を自分なりにどうやってうまく使おうかっていう人が多いと思うんですよね。

J:でも、あれはレアグルーヴというよりはフューチャーファンクとして出したから。オーセンティックなレアグルーヴからするとかなり踏み込んだ作品かもしれないけど、でも、そこから何かを感じてくれたら本望ですよね。

ちなみに「QP Funk」とかCro-Magnon-Jinでこういうことやろうって思って動き出したのって、確か一昨年の前半くらいのことで。そういう流れで、さっき話に出たKamasi Washingtonとかを昨年に聞いたときはやっぱり同時代性というか、やっぱりこういうの出るよなって思ったし(笑)。ああいう完全な生バンドのクラブミュージック。向こうはジャズで、こっちはファンクだから印象としては違うけれど。 

「Breakthrough」でアルバム出したときも、Sa-Ra Creative Partnersとかデトロイトのワジードとか、ウエストロンドンのブロークンビーツの動きがあったりとか。誰も会議とか打ち合わせとかしていないのに、そういう世界各国で似たような感覚の人がいるとか。そういうのは思っているけれどね。

あとはやっぱりトミー(←註・渋谷The Roomのイベント「CHAMP」主宰のYOSUKE TOMINAGAさん)だよね。トミーのあの精力的な姿勢がCro-Magnon-Jinに影響を与えてるのは間違いない。トミーは素晴らしい!って太字で書いてください(笑)。トミーの作品と活動にはすごく刺激をもらっています。それは間違いないです。

――TOMINAGAさんから受けた刺激については、例えば、バンドと組んで音楽を作るということも含めてですか?

J:バンドと組むことに関しては、自分的にはだいぶ遡るんだけど。例えば、2005年にDJ JIN名義の作品でSOIL&”PIMP”SESSIONSにファンクを演奏してもらった「LES CACTUS」っていう曲があったり、Mountain Mocha Kilimanjaroのプロデュースやディレクションとか、和ヒップホップ・バンドの志磨参兄弟のプロデュースとか。RHYMESTERの曲でも2004年の「WELCOME2MYROOM」でクレイジーケンバンドのみなさんに演奏してもらったりとか。ヒップホップDJとして、バンドのファンクミュージックをどう作っていくかというのは、前々からずっとやっていたんだけれど。

そういった流れの中で、ここ何年かのトミーの活躍っぷりを見させてもらって。自分のDJプレイでもトミーの作品はヘビーローテーションさせてもらってるからそれに対してレスポンスできたらいいな、という気持ちはもちろんありました。

――それはやはり、TOMINAGAさんが最初に出した7インチ「Daytona」(CHAMP RECORDS)ですか?

J:それに限らず全曲そうだけどね。トミーもヒップホップ脳がある男だから、サウンドメイキングとかもすごい俺は共感できるし、触発されましたね。で、Cro-Magnon-Jinって、もともと自分が言葉遊びでグループ名から思いついたプロジェクトなんだけど、いざファンクでやってみようって内容が決まったときに、トミーがあんだけやってんだからこっちも良いもの作って応えたい、というのは個人的にありましたね。

で、Cro-Magnon-Jinの制作の話ね。クリックっていうBPMのガイド音を送ってそれに合わせてきっちりとしたテンポで演奏してもらうと、DJ的にはミックスしやすいタイトなリズムの音がとれるんだけど、今回のファンクはそういうのじゃないと思って。同じBPMじゃなくて、もっとはじけるような、勢いに任せるような、テンポがズレていってもこの場この瞬間でアリなものを録っていくというのをやりたかった。手練れのcro-magnonのみんなだから、演奏的な精度を完成させることは絶対できるんだけど、敢えてそうじゃないことをやろう、と。だから、初期衝動、パッションを重視して、そういう演奏を録ろうと心がけました。「Far Distance」以外はフリーBPMです。逆に、あの曲だけはそのカチッとしたテンポ感が欲しかった。

――JINさんのプロデュースはどのように行っているんですか?コンセプトを立てる、という感じなのでしょうか。

J:アイデアとコンセプトとあとコンダクトというか。何小節こうきてそこから何小節後にこうというのを、コントロールルームからジェイムス・ブラウンみたいに叫んで指示を出す、みたいな(笑)。あと、cro-magnonの自発的な演奏から曲になっていったものももちろんあります。例えば「First Landing」は、休憩中のcro-magnonの演奏から生まれた曲。スタジオルームの外にいた俺が、演奏を聞いて慌てて戻って「それヤバい!そのまま続けてー!」って(笑)。

――では、タイトル曲「The New Discovery」の中で極端にテンポが落ちてまた上がるというのは。

J:あれは自分が「曲の途中でBPM下げてさ、あげられる?」ってcro-magnonに聞いたら、一瞬「え?」みたいな(笑)。で、その直後「面白いですねえ、やってみましょう!」って。いざやってみたらcro-magnonのグルーヴ力が凄まじくて、思ってた以上の効果が出てびっくりしたね。この曲以外にもレコーディング全編通じて、cro-magnonの音ぢからには本当に唸らされっぱなしで「すげえバンドがいるもんだな」と。ちなみに、クラブプレイでこの「The New Discovery」かけると、BPM下がったときに、お客さんが「うぇーい」って盛り上がったりするんだよね。テンポは落ちるのに逆に面白がってくれる。

――いやー、なりますよ。JINさんがレコードを乗せた時点でちょっと見えて、「テンポ下がるやつだ!」って感じで、テンション上がったり(笑)。

何度も語って申し訳ないんですが、「The New Discovery」はオルガンファンクだけど、そうじゃないみたいなのはあって、前後の雰囲気の相性みたいなのは考えますよね。

J:音像が昔のファンクに比べて圧倒的にワイドレンジかつサラウンドだから。昔の曲と並べてプレイする時に、音質/音響を整えるのは苦労するかもしれないけれど、今の音っていうのはそういうことだと思う。今のファンクをやるというのはそういうことなんじゃないか、と。

――JINさんもRyuhei The ManさんもSoul Mattersのインタビューで話してくださいましたけど、トップDJの方々ってテンポを変える曲の選曲が素晴らしくて、その曲が絶妙に流れを作っていくと思うんですね。しかも、エンディングがフェードアウトじゃない曲のチョイスが。やっぱり戻っちゃうんですけれど、Cro-Magnon-Jinの曲は、エンディングがばしっと終わる、特に速いファンクに関してはフェードアウトで終わるのはないと思うんですよ。

J:それはそう狙って作ったね。もしかけた場合、その後をどうにでも持っていけるようにしてます。曲の中で変わった展開もあるけれど、実はいろんな曲に繋げられるので本当はDJユースです。 

―曲の雰囲気もクロスオーバーな感じがあるし、そのままディープファンクを続けてもハマる気がするし、ディスコブギーをかけてもハマる気もするしっていうところがすごいなと。モノにできたら、DJプレイの流れや展開を考えるのが楽しくなる、という印象が強いですね、『The New Discovery』は。DJしがいがあるという。すごいなと。

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(写真は3月4日「Breakthrough」@渋谷The RoomでのCro-Magnon-Jinライブの様子。The Roomの佐藤強志さんに写真をご提供いただきました)

※vol.3はコチラ

Cro-Magnon-Jinのアルバム『The New Discovery』
itunesでの購入はこちらのリンクから https://itunes.apple.com/jp/album/the-new-discovery/id1087809394 

Cro-Magnon-Jin「The New Discovery」Official MV
https://www.youtube.com/watch?v=FyVQf2skapk **


島 晃一の執筆仕事一覧はこちらです。
https://note.com/shimasoulmatter/n/nc247a04d89ed

島 晃一(Soul Matters / CHAMP)
Twitter: https://twitter.com/shimasoulmatter

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