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『SHORT SHORT SHORT』

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大学院時代に書いたショート・ショートをアップしました。 これ以降のショートショートは、こちらをご覧ください。 https://short-short.garden/mypag… もっと読む
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記事一覧

「化石」

「化石」

「……ということで、この地層とこの地層からは、地面に対して体から直角に足が出ているという共通した特徴を持つ、一連の巨大生物群の化石が大変多く出土しています。これらの巨大生物群は、その恥骨の形から、大きく3種類に分類されます。

これらの生物群は、非常に繁栄していたと思われます。なぜなら、世界のありとあらゆるこの年代の地層から化石が発見され、また、非常に多様な形態に進化を遂げているからです。地上は、

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「試合」

「試合」

ボクは思いっきり走りながら、突然、あることに気がついた。どうして、日本にはいいFWが育たないかという事である。

「決定力不足」が日本代表の最大の欠点といわれるようになって久しい。その原因としてよく言われるのが、JリーグのどのチームもFWに強力な助っ人外人を起用しているため、肝心な日本人FWが育たないという意見である。例えば加茂元日本代表監督は、就任当初、各ポジション(FW、MF、DF)に外国人は

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「テレビ」

「テレビ」

「人間は、体に非常に大きな傷や怪我などを負うと、脳内に一種の麻薬成分が分泌され、痛みを和らげようとするのだ……」

人間の体は良くできているなあと感心しつつ、ボクはそこで教科書を閉じ、リモコンでテレビのスイッチを入れた。

明日で中間試験がやっと終わる。しかも、最後は一番得意な生物の試験である。それにしても、学校から帰ってきてずっと机に向かっていたので、さすがにちょっと疲れた。テレビでも見て休憩し

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「質問」

「質問」

「おっちゃん、ひま?」

久しぶりにおばぁちゃん家に来たが、する事もなくゴロゴロしていると、小学四年生になる甥っ子のケンが部屋に入ってきた。

「ああ、いいよ」
「あのね、黒人とか白人とかいるでしょ。同じ人間なのに、何であんなに僕らと違うの?」

この子はまだ小さいのに、いや小さいからこそ、本当にいろんな事に興味を持っている。そんなところが大好きだ。

「それはおっちゃんにも分からないなあ。けどね

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「毒ガス」

「毒ガス」

冬場はどうも調子が悪い。目を覚ましてから体が思うように動くまで、かなりの時間がかかってしまう。それでもさすがにお日様があそこまで上がれば、だんだん調子も出てくるものである。

ボクはかなりおなかが減っていたので、何か食べものを探しに外に出た。しかし案の定、適当なものがそう簡単に見つかるはずもなく、仕方がないので、そのままそこら辺をブラブラしていた。

しばらくすると、向こうから、「あいつ」がすごい

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「演奏会」

「演奏会」

今日は大学の礼拝堂で、ギターデュオの演奏会がある。

ボクは音楽が好きで、結構いろんなコンサートに行くのだが、ギター2本だけのコンサートというのは初めてである。だからすごく楽しみにしていたのだが、間抜けなことに多少寝坊してしまい、会場に入ったのは開演時間ギリギリであった。

どうにか座ることはできたものの、土曜の昼下がり、また、演奏者が本校の卒業生というということもあり、会場はほぼ満員であった。狭

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「朝食」

「朝食」

目覚ましがけたたましい音を立て、ボクを「世界」に引きずり出した。ボクはいつも感じる不快感を頭の隅に残しつつ、仕方なくベットから体を起こし、カーテンと窓を開けた。

ボクはベットに腰をかけたまま、いつもの朝一番の仕事、つまり、愛機のパソコンを立ち上げた。

立ち上げると言っても、ウインドウズ98からかなり早くなり、最新OSのウインドウズ01になると、その作業にほとんど時間を要しなくなった。つまり、電

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「呼吸」

「呼吸」

その程度に関わらず、犯罪を犯した者は即刻「消去」されるという「新治安維持法」が施行され、今年で3年目になる。

このシステムの中核をなすのは、テロなどの国家反逆罪にまで対応できる武装兵器を備え、常に陸・海・空全ての領域に渡って国民を監視している、通称「自動警察」と呼ばれるロボットたちである。

「彼ら」はあらゆる監視装置(各家庭にまで備え付けられた盗聴機器、中央コンピュータによるハッキング・システ

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「特急」

「特急」

大阪での用事を終え、ボクは京橋から出町柳行きの特急に乗った。ボクの家は終点の出町柳のすぐそばなので、あとはこのまま乗っていればいい。

思わぬ理由で予定が長引いてしまい、もう7時を過ぎている。丁度帰宅ラッシュにぶつかるので、もう座れないだろうとあきらめていたのだが、車内は思ったよりすいており、偶然、目の前の席が空いていた。僕は窓側に座り、カバンから読みかけの小説を取り出し、ページを繰り出した。

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「文通」

「文通」

その不思議な「文通」が始まったのは、まだ少し肌寒い、5月の初め頃だった。

その日、ボクは自分宛の電子メールを読もうと思い、いつものように大学のパソコンで自分のメールボックスを開けた。すると、見慣れた友達のメールアドレスに混ざって、全く見たことのないアドレスからメールが届いていた。

「誰だろう」

少し気味が悪かったが、そのメールを読んでみた。すると案の定、単なる「間違いメール」であった。大学が

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「ラーメン屋」

「ラーメン屋」

3講目が突然休講になったので、ボクは遅めの昼食をとるために、行きつけのラーメン屋に向かった。

普段この店には、飲んだ後など、どちらかというと夜にしか来ないので、いつもはサラリーマンや学生達でごった返している。しかし、その日ボクがその店に入ると、平日の昼間ということもあり、ボク以外の客は一人もいなかった。

「並のネギ大、ニンニク入り」

ボクはいつものように入口でセルフサービスの水を汲み、店員に

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「寮会」

「寮会」

交替の人がなかなか来ないので、思わずバイトが長引いてしまった。今日は週に1回の寮会の日なのである。

バイトはどうにか9時には終わったものの、寮会も同じく9時からなので、さすがに慌てて自転車を飛ばした。ただでさえ、遅刻にうるさい寮長なのに、バイトが原因だと分かったら、それこそ大目玉である。

9時15分頃寮に着くと、急いで帰ってきた感じを出すために、いささかおおげさに門のドアを開け、閉めるときにわ

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「講義」

「講義」

杉山教授は、月曜第1講時目の講義に向かっていた。 教室は連休の谷間だというのに、すでにはほぼ満杯になっていた。

「私が学生の頃は、こんな日にはまず大学には来なかったがな」

杉山教授はなぜか、軽い失望にも似た感情をもった。しかし、自分の講義に出席してくれる学生が多いことが、嬉しくないはずはない。杉山教授は、いつものように自分の研究室から持ってきたチョークを取り出し、いつものように講義を開始した。

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