見出し画像

冬の北海道の旅 ペンギンを追いかけて

皆さんは、動物が好きですか?

私は大好きです。

しかし、見る専門で。

犬や猫にはトラウマがあるし、実際に触れたり飼ったりする事には少し抵抗がある。

けれども、動物は大好きだ!


何年も前のこと。
2月の極寒の北海道へ一泊二日で職場の慰安旅行に行くことになった。行き先は京都と北海道、好きな方を選べる事になっていた。
職場で唯一心を開いていた仲の良い後輩と一緒に行けることになり、何処に行く?京都も捨てがたいが、北海道へ行く事にした。

「小樽に行きたいね。ガラス館とかあるし、小樽運河?風情があるよね。実は小樽運河はとても短いらしいけど。1日目は小樽観光にしない?」

「小樽いいですね。札幌からも、そんなに遠くないし」

1日目は小樽観光に行くことにした。

私には、どうしても行きたい場所があった。
2日目は夕方の飛行機で帰宅しなければならない。

「実は、旭山動物園に行きたいんだよね」私は口火を切った。

「ペンギンのお散歩が見られるらしいんだよ!見たくない?」後輩をじっと見つめた。

当時、旭山動物園が脚光を浴びていて、大人気だった。
豪快に水の中にバシャンと飛び込んだり、水の中を白い毛をなびかせながらわっさわっさと自由に泳ぐ白熊。透明なトンネルを行き来する、ぽってりまるっとした可愛らしく癒ししかないアザラシなどなど。「なんだよそれ!そんな活動的な姿、知らなかった!」そんな行動展示が大人気だった。そして冬季限定で、キングペンギンが行列してペタペタと園内の雪の上をお散歩する姿が見られるらしい。一度は冬の旭山動物園を訪れてみたい、と思っていた。冬の旭山動物園なんて中々自分で行く機会がない。今しかないのだ。いかに冬の旭山動物園が素晴らしいのか、を後輩に熱く語らせてもらった。後輩も動物好きなノリの良い子で「良いですね!」と賛同してくれた。

しかし、極寒の北海道である。しかも、2月である。
札幌から旭川まで特急電車で1時間半くらいかかる。雪が降ると電車は走らないかもしれない。帰りの飛行機に間に合わなくなるかもしれない。冬の旭川は、常夏ならぬ常真冬日。最低気温がマイナス10度を下回ることもある。この計画をどこからか聞きつけた後輩や上司から「やめた方がいい。帰って来れなくなるよ」何度も猛反対されて、「行かない方がいい」と忠告されてしまった。
「そうですか?大丈夫ですよー?やめた方が良いですか?」表向きはには、波風を立てないような、そんな返事をしていた。

「どうする?私は、やっぱり行きたいんだよね。だって、ペンギンのお散歩は冬じゃないと見れないんだよ!?」諦めきれずに後輩に促す。

「私も行きたいです。行きましょう!」後輩は可愛らしい女子だったけれども、サッパリとした性格、体育会系のような先輩に対する義理堅さもあった。もしかしたら本当は嫌だったなのかもしれないが、頼もしく潔い良い返事をしてくれた。

後輩と共に電車やバス時間を入念に調べた。早朝に特急電車で札幌から旭川まで行き、旭川駅からバスに乗り開園前の旭山動物園に到着できるように。そして、帰りの飛行機に間に合うようにと、旅程を組んだ。寒さ対策もバッチリ準備した。
「旭川、寒いみたいですよ?大丈夫ですか?」
「大丈夫!ガンダムもって行くから!」

私たちは職場の上司達へ反旗をひるがえすように、旭山動物園行きを決行することにしたのだ。


慰安旅行当日。
雲行きが怪しい。札幌行きの飛行機は大雪の為、千歳空港の上空を30分ほど旋回していた。何とか無事に着陸。札幌でも珍しい60センチほどの雪が降り積もる大雪の日だった。街では滅多に積もらない大雪に、地元のタクシー運転手さんも轍にハマりそうになりながら嘆いていた。小樽行きの電車も遅れてはいたが、幸いにも低速ながら走っていて無事に目的地の小樽へ着く事が出来た。なんだかんだ、いつも旅には恵まれている。
小樽行きの車窓から、どんよりとした雪雲、極寒の暗い海の中、いくつもの黒い点が蠢いているのが見えた。「なんだろう?え!!!」それは果敢に荒波に挑戦するサーファーの姿だった。思わず驚きの声をあげてしまった。「こんな時でも波乗りするのか!イヤ、こんな時だからこそ、悪天候の荒波だからこそ波乗りするのか・・・」
好きの力は凄まじい。

小樽近郊で野生のトドが見られる場所があると聞いて、タクシーを走らせた。タクシーを直ぐさま下りて、トドがいると思われる断崖絶壁から荒れた海が見える方へ、猛然と雪をかき分け走り出す私。野生のトドが見れるなんて!大興奮だった。いつもの職場とは違う活動的な生き生きとした姿を見て後輩は言った。

「shimaikuさん、走れたんですねー」そして、楽しそうに笑った。

興味のない他のことは、どうでもいい。
好きなことへはスイッチが入ってしまうとロックオン、ハンターのように猪突猛進、一直線、120パーセント目的を果たすべく熱くなってしまう。
やはり好きの力は凄まじいのだ。
職場では、わりと淡々としていたので、こんな熱い一面があるのか!と驚かれてしまった。残念ながら、野生のトドの姿は見られなかったのだが。

小樽運河はやっぱり思っていたよりも短くて、ガラス館はキラキラと輝いていて、六花亭のお菓子やルタオのチーズケーキはやっぱり美味しくて、行き当たりばったりで入ったお寿司屋さんはブドウエビがやたら大きくてプリッと美味しかった。やっぱり冬の雪の北海道も悪くない。ちょっと調べてみたらブドウエビの旬は夏、らしいけど。
日は落ちて寒さが増したけれども、白い世界は何だか不思議と寒くなかった。
小樽雪あかりの路。小さなかまくらの雪や氷の中に蝋燭が灯されて、薄暗い灰色と白の景色の中、暗闇にぽうと明るいオレンジ色の温かな光が連なっている。幻想的な風景が広がっていた。寒くてもほっこりと優しい気持ちになる、素敵な光景だった。「キレイだねー。見れて良かったね」小樽に後ろ髪をひかれながら後輩と二人、小樽を後にして札幌へと電車で向かった。

幸先悪い大雪の1日目だった。
明日は大丈夫だろうか?心配になる。心配にはなるが、食欲は止まらない。
1日目の夕食は職場が用意してくれたありがたい!蟹食べ放題だった。茹でられた毛蟹がひとり一杯ずつ与えられ、美味しさに唸りながら、無言で蟹をホジホジと食べる。蟹を食べている時は、何故こうも人は無口になるのだろうか?スポッとキレイに身がけた達成感と共に食する味が快感をいざなう、からだろうか。焼き蟹、その後は、ひたすらに蟹しゃぶ。途中のジャガイモやコーン、アスパラの付け合わせの方が、もはや美味しいと感動するくらい、蟹を食べた。
やはり、食べ過ぎ、やり過ぎはよくない。
良くなかった。

私は、この後、蟹を見るのも食べるのも拒絶するようになってしまった。
美味しく蟹を食べられる状態に戻るのに一年くらいかかった。
やはり、やり過ぎは良くない。
何事も、ほどほど、中庸ちゅうよう、バランスが大切だ。

2日目の天気は幸い晴れだった。
順調に電車は進み、目的地の旭川まで無事に到着した。危惧していた気温もさほど下がらず、私が住む街と大して変わらず安心した。旭川駅から目的地、旭山動物園へのバスに乗り込んだ。

マイナス10度を想定して、中にヒートテックやセーターを着込み薄手のコートの上に羊毛のピーコートを重ね着、もちろん!耳当てつきの毛糸の帽子、マフラー手袋もはめていた。そして、ピーコートの上にガンダム を着ようと思っていた。
ガンダム 、私が勝手に名付けた。それは当時付き合っていた夫から借りたガッチリとした厚手のスキーウェアのような上着で真っ黒で重くて固くて頑丈で機動戦士(どちらかというと敵側だろうか?実はガンダムに詳しくない)、もしくはダースベイダー卿のような堅牢な佇まいだった。幸いにもガンダム を出動させることなく済んで、胸を撫で下ろした。だって、ちょっと恥ずかしい、と思っていたから。さすがにガンダムはやり過ぎだろ?と。

開園前の旭山動物園に無事に到着した。極寒の旭川なのに、思っていたよりも並んでいる人が多かったが、念願かなって入場することができた。
まずは、アザラシや白熊を見る。透明な縦穴のようなトンネルの中をゆっくりと行き来する、ぽってりと丸々としたアザラシ。立ち泳ぎしているようで面白い。「かわいいねー。目が合った?!」推しと目が合ったかのように、ドキドキして照れてしまった。思ったよりも近くで見れることに驚いて楽しくて、永遠に眺めていられるような気がした。癒ししかない。
白熊の水槽の前には人だかりができていて、あまりじっくりと見ることができなかったが、ガラスにぶつかりながら押し迫ってくる白熊の姿、迫力ある飛び込み、「白熊って泳ぐんだね!大きい!こわいー」新しい発見がとても楽しかった。その他の展示は残念ながらあまり覚えていない。狼は建設途中で、チンパンジーも展示が中止されていたように思う。思っていたよりも園内は狭く、半日あれば満足に見れた。

ペンギンの手?翼をフリッパーといいます。
ちなみに私はアデリーペンギンが好き。

フリッパー
ペンギンのかわいさを際だたせているのは、なんといってもフリッパーをパタパタさせて歩くその姿にある。フリッパーをいまだに「ひれ足」などと訳している本があるが、即刻やめていただきたい。フリッパーこそペンギンをペンギンたらしめている最も重要な器官である。板状いたじょうになったフリッパーの骨は、ペンギン独特のものであり、地層の中からこの骨が出てきたら、それはペンギンの化石と断定できる。
ペンギンはフリッパーを、陸上でヨチヨチ歩くときはバランスをとるために、時には武器として使い、水中ではオールのように使って、まるでロケットのように飛翔ひしょうする。空気の泡を残しながらマリンブルーの水中をビュンビュン泳いでいるエンペラーペンギンの映像をご覧になった方もあると思うが、この推進力は丈夫な上腕骨じょうわんこつに支えられたフリッパーが生み出すものである。
それだけでなく、フリッパーは体温調節機能をつかさどる重要な器官でもある。
以下略

ペンギンのABC ペンギン基金 河出書房出版 30ページ

そして、念願のキングペンギンのお散歩である。
お散歩コースにはすでにたくさんの人だかりができていて、なかなかペンギンを見ることができない。見られる場所を探しながらペンギンを追いかけながら、走った。雪道を滑りながらけそうになりながら走った。キングペンギンは思いのほか、大きい。70センチくらいある。ちょっとした幼児の大きさだ。そんな子らがよちよちとぺたぺたと飼育員さんと共に連なって歩いている。「あー!まってー!キングペンギンーーー!はぁー、かわいいねー」可愛らしいお散歩を無事に見ることができ、大満足、夢のような時間だった。
夢中になりすぎて、写真は残っていない。もはや夢だったのかもしれない。

帰りは電車や飛行機の運行が遅れることもなく、無事に私の住む街に戻ってきてしまった。
あの時、冬の北海道を訪れて、キングペンギンのお散歩を見れて、本当に良かった。冬の雪の北海道は、最高だった。
いつだってどの季節にだってその土地の良さがある。
北海道はできれば夏に行きたい、と思うけれども、あえて普段は選ばない行動が、貴重な楽しい体験や出会いにつながるかもしれない。


結局、冬の北海道へはその後、訪れたことがない。
動物は大好きだが、自然の野生の動物を見る機会は少ない。
冬の北海道ならば、野生のキタキツネやエゾリスやモモンガを見てみたい、ダイヤモンドダストや雪の結晶も撮影してみたいと焦がれている。
あー旅に行きたい。
皆さんも、良き旅を楽しんでください。


お付き合いいただき、ありがとうございます!



この記事が参加している募集

#熟成下書き

10,580件

ここまで、貴重なお時間を!ありがとうございます。あなたが、読んで下さる事が、奇跡のように思います。くだらない話ばかりですが、笑って楽しんでくれると嬉しいです。また、来て下さいね!