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雨粒といっしょに落ちてきた

独身の頃、自然が多く、田園風景が広がる、謂わゆる田舎に住んでいた事がある。実家も田舎だったが、田んぼや畑が家の周りにはなかった。

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アパートの細い道路を挟んで、田んぼが広がり、その先には、蔵王連峰が見える、という、贅沢で、雄大な景色が広がっていた。夕陽が山に落ちて、ダイヤモンド富士ならぬ、ダイヤモンド蔵王となり、光輝く。オレンジ色の空と水田に反射する夕景がとてもとても美しかった。

夜は、明かりの少ない、暗い田んぼの方は、星がキレイに輝いて見えていた。反対側を見ると、道路の街灯の明かりと道路沿いにファションセンターなんとか、スーツのなんとか、看板が眩しく光っていた。

近くに、コンビニやスーパーはあったし、やたらと焼肉屋があったし、食べる事には困らなかったし、自然豊かな景色が、わりと、イヤかなり気に入っていた。

梅雨近くになると、ゲコゲコとカエルの鳴き声が聞こえだす。風情があって好きだったが、うるさ過ぎる事もあった。もう、そんな時期か、と思いながらも、色々と心配になる。

雨の日には、道路まで飛び出してきてしまうのだ。カエルたちが。

車に轢かれて、生臭い匂いがする事があったり、亡骸を見てしまう事もあったり、雨の日の夜は、ちょっと憂鬱だった。

蒸し暑い雨の夜、歩いてカエル仕事の帰り道。喉が渇いていた。田んぼ近くにある、暗闇に光る自動販売機が目に入る。明るい光に、ほっとして、光につられた。「何か飲もうかな」お金を投入しようと思って、手がとまった。

息を飲む。押したいボタンにカエルがひっついている。よく見ると何匹も。

幸い、小さい緑色のアマガエルのような、ちょっとだけ可愛いらしいカエルだった。

私は、虫もカエルも苦手である。しばらく、移動しないか見つめていたが、動く素ぶりはない。そっと手を戻して、飲み物を諦めた。

ボタンを押して、飛びかかってきたら!と思ったら、ムリ、ムリ、無理だから。

この街に長く住んでいる職場の同僚に言ってみた。自動販売機にカエルがいて、買えなかったと。同僚は、「電気がついていて明るいから虫が寄って来るんだよ。それを狙ってカエルも来るんだよ、カエルを狙ってヘビも来るよ」なるほど、ヘビまで来るのか。さすがに、まだヘビは見た事がなかった。そういえば、職場はよく停電する事があった。原因は、送電線にヘビが引っかかるからだと聞いた。やっぱり、ヘビも来るのだ。確かに、自販機は、蜘蛛の巣も多い。自販機は、餌場だったのか、食物連鎖の。

夏の夜の田んぼ近くの自動販売機には、よっぽどの事がない限り、カエルに用がない限り、近寄らない方がいい、そう思った。

また別の日、シトシト雨が降っていた。家に着いて、傘を閉じて、ドアを開けて、玄関に入ろうとしたら、頭上から、ペトっと何か落ちてきた。

ギャー

心の中で絶叫した。

カエルだ!

湿ったペトッとした緑色のカエルが頭の上から落ちてきたのだ。体には当たらなかったから、まだ良かった。当たっていたら、失神してしまっていたかもしれない。

何で?

何処から?

辺りを見回し、他にはいない事を確認した。たぶん、ドアにへばりついていたのだろう。

床にいる。ペトッと。

私は、持っている傘で、ツンツンツンツンと、何とか外に追い出した。

心臓がとまるかと思った。

夫も虫は苦手だが、小さいカエルは、可愛いという。「何で?可愛いよ?そんなに、怖がることないよ」と。

でも、やっぱり、私には、触れない、無理です。

子供の頃は、ミミズもカブトムシの幼虫も平気で触れたのに。大人になって、ダメになるのは、何でだろう?

冬の日に、積もった雪、キラキラ光る氷柱、よく食べていた。今は、汚くて、お腹を壊す!美味しくないよ、食べられない。真実を知って、怖くなるのかな?

大人になるって、知識が増えて、好奇心よりも理性が勝って、行動できなくなる事なのかな?

子供の頃は、何も知らず、ただただ興味と好奇心だけで行動している。大人なると、知識や過去のイヤな経験など情報が増えて、行動が抑制されるようになるのかもしれない。

それは、少し残念な気もする。

自然の中にいる虫やカエルは、まだ良くて、家の中になると、急に、ダメになる。テリトリーを侵された気になり、自分の身を守ろうと、攻撃したくなるのかもしれない。

虫問題は、都会でも田舎でも、何処にいたって、永遠に続く。そもそも、私たちが、自然にとっては、害かもしれないし。

息子と公園で遊んでいた時の事。息子の頭に、黒地に赤丸二つのちいさなてんとう虫がとまっていた。「てんとう虫、頭にとまっているよ」ちょっと、ひるみながらも、勇気を出して、てんとう虫に触れてみた。久しぶりに触ってみたら、軽い。小さくて黒い塊が、手のひらをサラサラと通っていくようで、くすぐったい。歩いているという触感はなく、気持ち悪いとか怖いという感情は、一切湧いてこなかった。思わず、「かわいいね」そんな言葉がポロっと出てきた。息子が触ろうとしたら、すっと飛んで行ってしまった。

「てんとう虫に触れた、しかも余裕だった」嫌な感じが、全くしなかった事にとても驚いて、なんだか嬉しくなってしまった。もしかしたら、虫が好きになれるかもしれない。

虫や爬虫類、両生類は苦手だけれども、無闇矢鱈に嫌わない、そんな風になりたいと思っている。虫の習性や能力には、驚く事が沢山あるし、調べてみると面白い。お互いのテリトリーで、仲良く共存していけたらと思う。

ここまで、貴重なお時間を!ありがとうございます。あなたが、読んで下さる事が、奇跡のように思います。くだらない話ばかりですが、笑って楽しんでくれると嬉しいです。また、来て下さいね!