見出し画像

死ぬかと思った話

20代の頃の話。

夏休みになると毎年のように、友人と一緒に海外に旅する事が楽しみで、生き甲斐だった。

「この旅行のために働いている」と言っても、過言ではなかった。

他の女子が、高級ブランドのバッグや洋服を買ったり、食事や美容にお金をかけているところ、私は旅行のために、お金をつぎこんでいた。

「今年はどこに行く?」友人とあーでもない、こーでもない、あれやこれや、話し合うのも楽しかった。

海外旅行3度目の時に、事件は起きた

インドネシアのバリ島に行った帰りの飛行機での出来事だった。ジャカルタの空港から飛び立って、まだ30分も立っていない頃、バァァーン!と大きな音がした。

「なんの音」ドキドキが止まらず、皆不安になる。

私たちは、エコノミー席の真ん中の列に並んで座っていたが、一人の友人だけ、窓側に座っていた。音が聞こえた左側の窓を見ると、左翼のエンジンから炎があがっていた。

あの音は、エンジンの爆発音だったのだ。

「あ、死ぬかも。飛行機落ちるかも。」

皆、脳裏に不吉な言葉が浮かんだに違いなかった。左側の窓際にいた人たちは、悲鳴をあげて泣き叫んでいる。「助けて下さい!ここ、燃えてます!」大声をあげる人たちもいて、機内はパニック状態、修羅場と化していた。なかなか現状を伝えてくれない、添乗員さんに皆、イライラしたり、泣き崩れる人が増えていた。友人も青白い顔で、泣いていた。

どうなるんだろう?飛行機墜落事故は、宝くじの一等に当たる確率よりも低いと聞いた気がする。エンジンは一つ壊れても、飛べるようにできているらしい。

「大丈夫。多分、大丈夫。でも、本当に、大丈夫なの?」

「旅行を楽しんだ後で、帰りの飛行機でよかった」動揺が少しおさまった後は、割と冷静に考えていたように思う。

騒然とした後ろの席とは裏腹に、前の席の人たちは、この事にまだ気がついていないようだった。こんな死ぬかもしれないと言う状況なのに、不謹慎にカメラで撮影している人もいた。「こんな時に!地獄におちろ!でも、飛行機はおちないで!」そんな事を思いながら、この後どうなっていくのか、死ぬのか、帰れないのか、もう家族に会えないのか、泣けてきた。

走馬灯のように、今までの思い出が頭に浮かんでは消え、浮かんでは消えた。

「本当に、走馬灯ってあるんだな」

以前、テレビで見た墜落事故で、「家族に残した、手記が見つかった」と言っていた。「私も、家族に向けて、何か言葉を残した方がいいのかな」

私には、どうする事もできない状況、飛行機が落ちるのだとしたら、死を受け入れるしかない。「楽しい旅行をして、良い友人に恵まれて、割といい人生だったんじゃない?」この時、死ぬという事を覚悟した。覚悟するしかなかった。

亡くなった父や、神様、仏様、どうにか落ちませんように!友人と一緒に、持っていたお守りを持ちながら、生きて帰れますように!そんな事をずっと、祈っていた。この時、友人と何を話したのか、何か話したのか、覚えていない。気軽に話などできる状況ではなく、生きるか死ぬかの瀬戸際、極限の緊張状態だったのだと思う。

飛び立ってすぐの事だったので、燃料がまだたくさん残っていた。そのまま着陸すると、炎上爆発する事や機体が破損する事もあるらしく、燃料を消費するために、もしくは投棄するために、ジャカルタ上空を40分程ぐるぐると回っていた。

燃料が消費されると、ジャカルタ空港に緊急着陸できた。無事に着陸できたときには、飛行機の中で拍手喝采が沸き起こっていた。「生きれた!死ななくてよかった!」今ここにある命に感謝した。

私たちは、日本に帰国できなくなってしまった。「休み多めに取っておいてよかったね」普通の判断ができるくらいには、感情がもどっていた。窓際で、一番近くで見ていた友人は、言葉少なに、青白い顔で震えたままだった。

なかなか宿が決まらす、空港で待つしかなかった。不満をぶちまけている人も多かったが、私は無事に助かった事への安堵で、心身ともに疲れ切っていた。航空会社は、ジャカルタの高級ホテルを用意してくれていた。私は、本当に疲れ切っていて、友人が起こしに来た事にも気がつかず、1日中ずっと寝て過ごした。

「パンが凄い美味しいんだよ!」他の友人たちは、めったに泊まれない高級ホテル、そもそも、ジャカルタには滞在する予定はなかったから、すっかりホテル生活を満喫していた。

「え?めちゃくちゃ元気じゃん?」私は、心身共に何かを擦り減らしたというのに。「みんな、たくましいな」やっと笑えた。

後になって、友人が、「乗る時に古い飛行機だと思ったんだよ」とか、「いつも持ってきていたあれを忘れてた。縁起が悪かった」とか言っていた。ジャカルタの上空から、2メートルくらいの飛行機の部品が民家に落下したという記事が新聞に載っていたそうだ。

私は、しばらく飛行機が怖くて、乗れなくなってしまった。

今こうして、生きている事に感謝したい。

そして、死はすぐ隣にある事を知って、今を生きられる、生かされている事の大切さを実感した、そんな体験だった。

ここまで、貴重なお時間を!ありがとうございます。あなたが、読んで下さる事が、奇跡のように思います。くだらない話ばかりですが、笑って楽しんでくれると嬉しいです。また、来て下さいね!