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嘘が暴かれる面接

履歴書に嘘を書くバカがいる。

我が校の教師が現職を去る時は3−4ヶ月前までには学校に離職を伝え、それと同時に学校が周辺の大学院や教師就職斡旋会社などにそのポジションの募集をかける(*アメリカの私立高校で教師をしています)。都会から離れた小さな私立校の我が校にもたくさんの応募がある。それほど教師は余っているか、違う学校へ移りたい教師が多いのか。

うちの場合はポジションごとに採用コミティーを作り、それぞれが履歴書を読んで振り分け、全員でスカイプ一次面接をし、それに合格したら学校で実際の生徒を前にデモレッスンをしてもらう。
それを見学し、生徒たちのフィードバックを聞いたのちに教頭と校長に“この人がいいです”と言いに行く。
全てのプロセスが終わるまでに丸々2ヶ月はかかるので、一つのポジションに複数の候補者が同時に審査にかけられている。

その間、コミティーにいる学部長や教員は本当に忙しい。
まず100から150通ほどの履歴書とカバーレターを読む。アメリカでは時系列やスキル別で並べた履歴書の他に、自分がどんな教育哲学を持っているか、どんな経験をしたか、どんなクラスをどんな風に教えたか、などを1−2枚のエッセイにまとめたカバーレターというものを提出するので、読むのに時間がかかる。
授業後は授業の準備や採点や補習などをしているので大抵は自宅で寝る前にこなさねばならない。

そしてコミティーメンバーで集まり、協議ののちにどの候補者にスカイプ面接をするのか決める。色々聞きたいことはあるし、なるべく人となりを理解したいので一人に30分は掛ける。それを20人から30人繰り返す。
そしてそれから5−6人に絞ってレッスンをしてもらいに我が校へ出向いてもらう。

3−6月は採用コミティーにいる教師たちは本当に忙しいのだ。

そんな私達が一番嫌うのは履歴書に嘘を書く人だ。
事実を誇張する人にもうんざりする。

本人は数ある履歴書の中で光らねば!と思い嘘をつくのだろうが、その嘘が採用審査プロセスのどの段階で明らかになっても印象は最悪だ。そしてこっちは本当にガックリする。時間と労力の無駄以上にこんなつまらない嘘をつくバカが教師なのだ、という事実にガックリする。

先日、他の学部から頼まれて面接に立ち会った。
新しいスペイン語の先生の面接だったが、私に立ち会って欲しいと言われた理由は彼女の履歴書にこう記載されてあったからだ。

スペイン語:ネイティブレベル
日本語:ビジネスレベル
中国語:ビジネスレベル

外国語学部の部長はこの候補者の日本語と中国語のレベルを確かめて欲しいと私にお願いしてきた。部長はこの候補者をハナから疑っていたわけではなく、日本語や中国語が流暢だと、他の教科で英語がおぼつかない留学生のサポート出来るかも、と期待していた。

私が遅れて行った面接は和やかにスペイン語で行われていたが、部長が“こちらは歴史学部のシマ先生です。日本人です。”と紹介したからだろうか、候補者のリンダさんの視線はあっちへこっちへと泳ぎまくった。

彼女はピョコッと会釈をして コニチワ と小さく挨拶した。

どうぞ、と部長に言われたので私は日本語で自己紹介をしてから、リンダさんに質問をした。

どちらでどのくらいの期間、日本語を学ばれたんですか?

彼女は “しばらく日本語を使っていなかったので、すみません”と英語で答えた。そして “中国語の方が得意なんです”と言われたので

どちらでどのくらいの期間、中国語を学ばれたんですか? と今度は中国語で聞いてみた。

彼女はそれにも答えられなかった。

部長は即座に “ではここで面接を終わります。就職活動、頑張ってください。” と告げさっさとスカイプを切った。

思うにリンダさんは我が校の下調べをきちんとしたのだろう。うちは日本語も中国語も教えていない田舎の小さな私立校だ。うちの学校のホームページで外国語学部教師の紹介を見てもアジア人は一人もいない。なのでバレることはなかろう、と思ったのだろう。

”スペイン語のスキルもレッスンプランの説明も素晴らしかったからあんな嘘を書いてなければデモレッスンに呼んだのに” と面接にいた同僚たちは言った。

彼女はついてなかった。
こんな田舎の小さな学校に中国語を喋る日本人がいるなんて不運以外の何物でもない。

でもそれが真摯に懸命に仕事をしている私達の時間と労力と期待を無駄にした嘘をつくバカの運命だった。

シマフィー

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