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エンジニア出身スタートアップ経営者が考えるプログラミング教育【佐々木久美子×橋本正徳×中村俊介(後編)】

11月9日(木)に福岡市科学館のサイエンスホールで開催したイベント「+CREATIVE(プラス・クリエイティブ 略してプラクリ) Vol.1」。株式会社グルーヴノーツ会長の佐々木久美子さん、そして株式会社ヌーラボCEOの橋本正徳さんをお迎えして、「新しいシゴトの作り方とクリエイティビティ ~人工知能、コラボレーション、そしてプログラミング教育~」と題して、講演とパネルディスカッションを開催しました。そのパネルディスカッションの模様を再構成して2回に分けてお届けします。

今回は第2回目。前回は新しい仕事のつくりかたやアイデアの出し方が話題でしたが、今回は注目のプログラミング教育がテーマ。スタートアップ経営者でエンジニアというバックグラウンドを持つ3人が、プログラミング教育に本当に求められていることを考えます。

第1回、そして登壇者のプロフィールはこちらから。

その子の「なりたい」に必要なのは本当にプログラミング教育?

左からヌーラボ橋本さん、グルーヴノーツ佐々木さん、しくみデザイン中村

佐々木:スマートフォンはダメ、タブレットはダメ、ゲームはダメ、って言いながら、でも子どもにはプログラミングは覚えてほしいっていうのはちょっと矛盾ですよね。自分の子どもにはなりたい人になってほしいし、それを職業にしてほしいって思うのが親心ですけど、そう考えたときに、その子どもに必要なのは本当にプログラミング教育なの? って思うんですよ。

中村:それはちょっと違いますよね。プログラミングができるようになればなんとか食べていけるみたいな風潮はあるけど、そもそもプログラムって誰もがやらないといけない仕事ではないし。あとAIが普及すると消滅する仕事ってよく話題になりますけど、単にプログラムを書くだけの仕事ってAIに取って代わられる仕事じゃないですか。それよりもAIしかり情報技術を使いこなして、仕事を作っていくことが今後求められているわけで。そういう意味では、プログラミング教育というよりは、ITリテラシー教育がまず大事ってことなんでしょうね。

参考:オックスフォード大学が認定 あと10年で「消える職業」「なくなる仕事」(週刊現代) | 現代ビジネス | 講談社

参考:AIで仕事はなくならない ―― なぜか過剰被害妄想の日本の本当の危機 | BUSINESS INSIDER JAPAN

佐々木:そうですね。そしてそれは単にツールの使い方を覚えるってだけではなくて、そこで使いこなせるようになるかってところだと思います。例えばプレゼンテーション。いま仕事をしていると、何らかの形でプレゼンテーションは必ず求められるじゃないですか。だけどPowerPointみたいなプレゼンテーションアプリの使い方を覚えていればそれだけでいいわけじゃないですよね。スライドにどう情報を配置するかとか、どんな順番で見せるかとか、そういうことをちゃんと考えられるようになってほしいですよね。

中村:僕も本当にそう思います。子どもが学校とかでいろいろチラシをもらってくるんですけど、まぁひどいものがあるんですよね。なんでこのフォント使っちゃうの、とか、レイアウトができていないとか。

佐々木:なんでここでポップ体を使っちゃうの?とかね(笑)

中村:でもこれって単に知らないだけだと思ってて。別にIllustratorとかの専門的なツールを覚えてね、というわけじゃないんですよ。チラシなんか今、誰でもWordで作れるじゃないですか。そしてWordでそんなに複雑なことをしなくても、ある程度は魅せるものは作れるのに。ちょっと知っていればすぐできるんだから。

佐々木:街中にはちゃんとデザインされたものがたくさんあって、そういうのを見ているはずなんですけどね。そのチラシが配られる範囲で完結する世界でだけでしか見られていないのかもしれないですね。みんなCacoo使えばいいのに。

橋本:はい。月々454円です(笑)。

中村:(笑)。でも僕がやりたいクリエイティブ教育ってそういうことなんですよね。ITツールの使い方はもちろんなんだけど、使い方を教えるだけなら今でもできる。でもそれを使って自分が作りたいものをどう実現するかってところまでちゃんと教えたいんですよね。そしてそれを仕事としてしくみデザインでやってきたし、そういうことを僕らが教えることってできるはずで。今の学校教育がダメだって言っているわけではないし、プログラミング教育は必要ないって思っているわけでもない。そういうクリエイティブな視点、創造性とか論理性とかを今の教育にプラスしたいと思っているんです。そしてなるべく小さなうちからそれをやっておきたいなと。

「プログラミング」と「教育」という正反対の言葉がつながっているからこそ新しいものが生まれる可能性がある

佐々木:今日はたくさんの方に集まっていただいているので、ちょっと質問をしてみたいんですけどいいですか? 今日の来場者のみなさんで、プログラミングをやったことある人? 挙手をお願いします。

中村:おお、半分くらい。

佐々木:ではもう一問。自分の子どもにプログラミングをさせたいな、と思う方?

中村:あ、これはもうほとんどの参加者の方が手を上げていらっしゃいますね。今日はテクノロジーとかプログラミング教育をテーマにしたシンポジウムですから、関心も高いですよね。ではそろそろプログラミング教育の話題に移りましょうか。まずは率直なところからお二人に聞いてみたいと思います。エンジニアのバックグラウンドがあるお二人から見て、プログラミング教育ってどう見てます?

橋本:僕はさっき、プログラミング教育があるんだというのを学んでですね。中村さんのさっきのスライドを写真に撮って、なるほどと(笑)。で、思うことは2つあるんです。ひとつは僕らの世界に入ってくるな、というですね。

中村:(笑)

橋本:なんていうんですかね。「僕らのプログラミングを返して!」という気持ちになりますね。プログラミングというのはある種オタク的な、マニアな行為なので、一般人に入ってきてほしくないなーっていう(笑)。ぼくらの聖地を汚すな、というか、そういう気持ちがちょっとありますね。電話代が定額になる深夜にしかインターネットを楽しめなかった時代を知っている人間が、今の誰もが使っているインターネットを見て「僕らのインターネットを返して!」という気持ちになるのと一緒で。

(会場笑)

参考:平成生まれには通じない「インターネット接続あるある」|エンジョイ!マガジン

中村:「あの頃を返して!」ってオタクの気持ちを代弁している感じですね(笑)

橋本:そしてその「プログラミング」っていうオタクワードに、「教育」って真面目なワードがくっついていて、なんなんだこれは! という気持ち悪さもあって。僕の感覚からすると「プログラミング」と「教育」って相対する言葉なんですよ。ただ「だからやめろ」と言いたいわけじゃないんです。さっきのスライドにあったけど、小学校からのプログラミング教育の必修化で目指すのは論理的思考力を持てということですよね。そこを推そうとしているのはすごくいい方向だと思います。中村さんが言っているクリエイティブ教育っていうのもまさにそういうことですよね?

参考:小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について(議論の取りまとめ):文部科学省

中村:そうですね。

橋本:なにかモノが生まれるときって、全く正反対のモノがぶつかったときに生まれて、スパークするのかなぁと思っていて。そういう意味ではさっき言ったみたいに「プログラミング教育」ってまさに正反対のものがぶつかっているんですよ。

中村:そこにスパークが生まれるかもしれないと。

橋本:論理的思考力というところだと、小学校とか中学校のころって、週刊少年ジャンプの「努力・友情・勝利」的な世界で、論理的ではないもので突き動かされていますよね。そんな中で先生が急に論理的思考が大事だと話しはじめるわけですよね。全く正反対のものがぶつかっていて、すっごくダメな感じのシチュエーションに見えますけど(笑)、でもそういうものがぶつかりあうのってすごくクリエイティブだなと。

中村:子どもが先生に「論理的に考えたら宿題とかいらないと思うんですけど」って言い出したりして。

橋本:そして「そこはわからんけど、頑張れ」って精神論で先生が押さえつけるみたいな。

中村:でもそこの葛藤の間から、何かが生まれてきて。

橋本:そうそう。そこで渇望というか、足りなさから生じる情熱でなにか生まれるはずで。何かを作りたいとかね。それがプログラミング教育であればいいなぁと。

中村:先ほどの渇望の話ですね。あともう一つ思うことがあるとおっしゃっていましたが?

橋本:プログラミング教育に危惧していることとしては、その手法ですよね。プログラミングのことが教科書に載って、それに合わせて子どもが学んでいくんだとしたら、たぶんそれでは身につかないだろうなぁと思います。

中村:教科書はちょっと違いますよね。

橋本:例えば英語って何年くらい学ぶんでしたっけ?

中村:今は中学生からなので高校までだと6年。ただ今後は小学生から必修になるので、さらに学習期間は延びますね。

参考:いつから変わる?何が変わる?小学校の英語教育 | 進研ゼミ小学講座 | ベネッセコーポレーション

橋本:でも状況を見ると英語を喋れない人がほとんどでしょう? 6年も勉強するのに。今の教育ってフォーマットに落ちてしまうと、僕たちが学校で学んだ英語と同じ感覚でプログラミングを学ぶことになると思うんです。英語でもプログラミングでも、学ぶのに大事なのはモチベーションじゃないですか。プログラムってなにか作りたいものとか改造したいものがあって、それに向かって学んでいくものなので。そういうモチベーションを作らないままいくらプログラミングを教えても、学んだだけで何もできない子どもたちがいっぱいできる状態になるよ、という予言をしておきます(笑)。

中村:予言(笑)。

きっかけやモチベーションを与えられる先生が求められる

TECH PARKで開催したしくみデザインのビジュアルプログラミングアプリ「Springin’」ワークショップ

中村:佐々木さんはTECH PARKで実際に子どもたちにプログラミング教育に携わっていますよね。佐々木さんはどうお考えですか?

佐々木:ありともなしとも言えないな、というのが正直なところですね(笑)。ただ自分とか、自分の周りのプログラミングで何かを作って来た人たちって、みんなプログラミング教育を学校で受けたわけじゃないんですよね。論理的思考も学校で習ったわけではない。むしろ社会に出て、エンジニアになって実際にプログラムを書きながら、アルゴリズムも学んで、という感じで学んできたので。だから思考の話を先に出すというのもあまりイメージが湧かないなと。

中村:なるほど。 だからこそ、TECH PARKではデジタルをテーマに置きつつも、プログラミングだけじゃなくて、映像を撮ったり、ロボット工作をやったりということもやられているんだと思います。その上で聞きたいのが、プログラミング教育って、教える側から見てどうですか?

佐々木:子どもたちってものすごく飲み込みが早いんですよ。入り口のところを教えてあげて、使い方がわかると自分たちでどんどんプログラムを組んでいくんですよ。自分で調べて、作りたいものをどんどん自分で作っていくんです。ただ、この段階だったら単に楽しい、で終わるんですよね。

そこで適切なタイミングでアドバイスを入れたり、まだ見えていない視点を入れてあげるとさらに伸びていくんですよ。例えばプログラムのテストの仕方を教えるとか、すごく長いプログラムになっているけど実はそれ短くできるよとか。そうするとまた自分で学んで、習得していく。最初に作ったものよりさらに良くなる。プログラミング自体は誰かに教えられるものではないと思うけど、せっかくプログラミングを教えるなら、そういうモチベーションを与えられる先生に出会えるかどうかかなぁと思っています。

AI で先生はなくならない。先生に求められるものが変わる。

佐々木:さっきAIの普及で消滅する仕事の話が出てきましたよね。

中村:よく話題になりますけど、僕は煽り過ぎだと思うんですよ。AIに置換される仕事があるというだけで、仕事がなくなるわけではないし。

佐々木:私は学校の先生はなくならないと思っています。テストを採点したり、教科書をなぞったやり方を教えたり、というのはITに置き換わっていけばいいし、学習の進度もその子に合わせた速度で進めることができる。ただ良い問題を選んだり、選択肢を与えたりというようなことは必要だと思っていて。先生に求められる仕事が変わってくるはずなんです。

中村:教師じゃないんですね。ファシリテーターというか。

佐々木:子どもだけでやる気を出すってなかなか難しいでしょ。だから状況をみながらきっかけを与えたり、何かを促してあげることってすごく重要ですよね。そういう意味で人間らしさを求められる職業は今後どんどん増えていくと思います。

中村:今の学校だと、せっかくいい先生が担任になっても、クラス替えでばらばらにされちゃうじゃないですか。

佐々木:そうそう。学年変わってもあの先生がよかった! ってありますよね。

橋本:ありますあります。

佐々木:今でも好きだったり、学校卒業しても付き合いが続いていたりする先生、そしてそういう大人と出会うことってすごく大切じゃないですか。子どもたちにはいい大人にぜひ出会ってほしいですね。いい大人に見えるけど実はそうじゃない人っていっぱいるじゃないですか。なので「その大人って本当にいい大人?」ってことを子どもたちには考えてほしいですね。私たちにもそれは難しいんだけど。

中村:学校の先生との出会いって多分に運の要素がありますけど、どうやったらそういう大人に出会わせてあげることができるんでしょうね?

佐々木:お父さんとかお母さんの回りで、この人すごいなって人と話せる環境を作ってあげることも大事ですよね。そして、TECH PARKに来て!(笑)

橋本:なるほど(笑)

中村:と、オチが付いたところでそろそろ時間です(笑)。今日僕たちがイベントをやっているこの福岡市科学館 サイエンスホールなんですが、科学館以外が主催するホールイベントって僕らのこのイベントが初めてらしいんですよね。なので設備がすごく新しくていいんですが、ただまだ足りないものとかもたくさんあるみたいで、イベントがスタートするまでけっこう「え? あれないの?」みたいな感じでバタバタしていたんですよ。このあとにホワイエで開催する懇親会も初めての開催なんです。

そしてしくみデザインが単独でこの規模のイベントを行うのもこれが実は初めて。いろいろ初めてづくしな「+CREATIVE」ですが、ぜひ今後もみなさんと一緒に作っていきたいと思います。それでは今日はありがとうございました!

2回に分けてお届けした鼎談、いかがでしたか? 「新しいシゴトの作り方とクリエイティビティ ~人工知能、コラボレーション、そしてプログラミング教育~」と話題を盛り込んだにも関わらず、幅広い議論が行われました。この後の質疑応答も時間切れになるほど盛り上がり、懇親会にもたくさんの参加者が残って議論を深めました。

来場者アンケートではさまざまなご意見が寄せられた「+CREATIVE Vol.1」。アンケートでいただいたご意見を活かしつつ、第2回の開催を考えています。またイベント会場以外でもクリエイティブ教育について意見交換をするために、Facebookグループ「+CREATIVE」を作りました。デジタルや教育に関するニュースをシェアして、みなさんと議論を深められればと思っています。第2回の開催が決まったときはまずFBグループでお知らせしますので、ぜひ皆さんご参加ください。

+CREATIVE
https://www.facebook.com/groups/pluscreativejp/

それでは「+CREATIVE Vol.2」でお会いしましょう!

しくみデザイン クリエイティブ教育ラボとは?

しくみデザインは福岡のデジタルとクリエイティブの会社です。街中や施設にあるデジタルサイネージを作ったり、アイコンに触るように動きで音楽を奏でられる新世代楽器「KAGURA」やiOSで動くビジュアルプログラミングアプリ「Springin’(スプリンギン)」などを開発しています。クリエイティブ教育ラボはデジタルネイティブ世代が「何かを創りたくなる」気持ちを育むことを目的とし、世界中の子どもたちがクリエイティブになれる方法と環境を研究、そして実践する社内研究組織です。

株式会社しくみデザイン ウェブサイト
http://www.shikumi.co.jp/