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『前田建設ファンタジー営業部』のメイキング、「The making」について

メイキングを担当した『前田建設ファンタジー営業部』のDVD&Blu-ray発売の情報が解禁されました。

 映画撮影現場のメイキングを主な仕事としてきた私にとって、描いているものが映画の「舞台裏」である以上なかなか表立った告知や宣伝が難しいなと思っていたのですが、noteを始めたことで作品に対する想いやメイキングのテーマなどを言葉で伝える事が出来るのではと思いまして、ちょっと書いてみます。こういうプロモーションとして書けるというのはフェイスブックやツイッターには無い側面で、noteのいい所だなと思います。ご興味ありましたらご一読ください。

【ストーリー】

実在する企業である前田建設工業にある広報グループを舞台に、「マジンガーZの地下格納庫」をWEB上で作ってしまおうと検討から積算(実際の費用は幾らかの見積もり)を行うために前田建設ファンタジー営業部を立ち上げる。架空のもの、実際に無いものをつくり上げるために汗水を流して働く大人たちの明日の活力映画。

【メイキングについて】

そもそも、私は映画のメイキングというものをほとんど見た事がなく。『地獄の黙示録』の「ハートオブダークネス」や『マルサの女』の「マルサの女をマルサする」が作品としてめっちゃ面白いなーというくらいのもので、メイキングとはこういうものであるみたいな事を語れないのだけれど、自分なりに仕事を進めていく上で決めている事が三つあります。

1)作り手として面白いと思う事をする。

 これは表現をする上で当然と言えば当然なのですが、撮影に一ヶ月、編集や整音作業などの完パケに二ヶ月。一本の作品に対して三ヶ月近くの時間を要しています。そうなるともう愛情無くして続けていくことは出来ません。どんなに撮影がきつかったとしても、素材の撮れ高(好きな言葉では無いですが)が悪かったとしても、何度もラッシュを見て、写っている素材が何を語っているか、編集でどう繋げばより雄弁な意味を与えられるかをひたすら見極めます。何度もラッシュを見てると次第に、写っている役者やスタッフの事が好きで好きで堪らなくなります。愛情を持って仕事を出来る所まで行ったらそれだけで100点の出来だと思っています。

2)1分間のシークエンスに4つ以上のアイディアを入れる。

 これは映画脚本を書く上でフランソワ・トリュフォーが言っていた言葉なのですが、メイキング・ドキュメンタリーの撮影や編集・構成作業においても可能な限り取り入れるようにしています。メイキングの素材というのは役者が芝居しているものを本編カメラとは異なるポジションから撮ったものがほとんどです。極端に言うと「ただ撮っただけ」の素材になりかねません。そうならないようにフレームの中に2つ以上の「意味」を取り入れるようにしています。例えば「芝居と監督の演出」「芝居と照明の妙」「カメラワークと導線」などです。そこを意識しているとフレームに緊張感や必然性が生まれ、編集時の構成で3つ目の意味が生まれ、MA整音作業で4つ目の意味が生まれます。後のあらゆる可能性を作るために(直感的な場合もありますが)フレームに意味を与えていきます。そうする事で多層的な物語を描けます。

3)本編の物語とは別に、独自の物語やテーマを立ち上げる。

 これは私が表現する上でのモチベーションというか、入口と出口で異なる風景を見せたい、見たいと思ってのことです。他のメイキングを見ないので分かりませんが、「撮影日誌」や「舞台裏」に徹したメイキングではなく、あくまでもそこに別の物語があり、苦悩や葛藤があって、それらを乗り越えていく。多くの映画作品と同じように「起承転結」でメイキング・ドキュメンタリーを語る。多少なりとも時間を割いて観てもらうのだから、本編とは別の感動を味わってもらえるように心掛けています。


お待たせしました。ここからが『前田建設ファンタジー営業部』メイキングについてになります。「The making」は、登場人物紹介としてのオープニングと、4つのチャプターに分かれています。

【The makingについて】

 本編では、空想世界通信装置によってアニメ「マジンガーZ」の弓教授から連絡が入り、「マジンガーZの格納庫を設計・積算する」という体でWEB連載が始まります。

 メイキングでは、「保管場所のことを全く考えずにマジンガーZを作っちゃった弓源之助教授が、巨大ロボの収納場所に困って、無心で受話器を取ったら偶然、前田建設ファンタジー営業部のアサガワ(小木博明)に連絡がついて、あ、じゃあうちで地下格納庫作りましょうか〜」という体裁で始まります。

フィクション世界からの連絡という、ある意味で「でっち上げ」た世界観を提示する事でノンフィクションとしての振り幅が広がります。このでっち上げによってメイキング独自のヒーロー映画的オープニングや、メイキング内で時折繰り返される「劇画調(真剣)/笑い」の反復が成立します。普段ふざけていた人が真剣になる時だけ劇画調になるというのは、にわのまこと先生の「THE MOMOTAROH」をイメージしていました。画質を荒らす・劇的に音楽を鳴らすなどの繰り返しで笑いの緩急を描いています。

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            「THEMOMOTAROH」より 上(真剣)が下(笑い)になる 

【chapter.1 まだ四人】

 小木博明さんが現場に入る前、高杉真宙・上地雄輔・岸井ゆきの・本多力の四人で迎えた撮影初日の様子。クランクイン初日を中心にインタビューと四人の芝居場を交えながら、ワンシーン長回し3カメラ撮影、セリフ量や業界用語の難しさ、全く畑の違う小木さんが現場に何を持ち込むかの不安や期待を語ります。ここで小木さんがいないシーンから始めた理由は、そこにいないからこそ語れることがあり、これから先に起ることの底知れなさ、予想のつかなさを描けるからです。つまり小木博明という「事件」へのひっぱりです。ここまでが起承転結の起になります。

【chapter.2 小木襲来】

 「僕には何の責任もない。責任はオファーしてきた監督にある。僕は自由にやってます」とインタビューで語る小木さんと、それまで引っ張ってきた不安や緊張感との落差によって肩透かし的な緩急を作り出します。芸人である小木さんの大ぶりな芝居や、少しの間違いならと芝居を止めず大きな声で押し通そうとする凄まじい胆力に、本番中であるにも関わらず笑いを堪え涙する面々が描かれます。本多力さんはインタビューで「セリフを間違ってもカットを待たずに勝手に自分でやり直す小木さんのやり方が、これからの映画界のスタンダードになるんじゃないか」と語ります。んなわけあるかい。

 これらの笑いと並行して、実在する前田建設ファンタジー営業部の歴史が、当時立ち上げた張本人の方のインタビューを通して語られていきます。何もないところから始まった。予算もなかったので架空の世界を題材にした。仲間がいたからできた。一人では何も出来なかった。

ここでも相反する二つを同時に描きます。小木さんを中心とした前田建設ファンタジー営業部のドタバタ的な「笑い」と、実在する前田建設ファンタジー営業部の「歴史」が多層的に描かれることでシークエンスに深みが生まれます。何も無い所から始めてアイディアを出し合って紡いでいく。物を作る上では「映画」も「建設」も一緒だという事が主題として立ち上がっていきます。主題は「モノを作る人」。この主題に持っていくことでメイキングとしての軸が生まれます。ここまでが承になります。

【chapter.3 働く人々】

 本作にはエキストラや施設協力を含め、当時「マジンガーZの格納庫」をWEB上に立ち上げる際に協力した企業や元ネタ人物、一般の方が多数登場しています。生活があり、家族があって、会社への想いがある。そういう方々によって社会は動いているという視点に立って、主に二つの撮影現場を描きました。

一つ目は、福島県の広瀬一号トンネル。二つ目は、静岡県の長島ダム。

このチャプターからは、それまでの笑いベースではなくて大人の社会科見学的な側面が強くなっていき、作品世界の背景を紹介する流れになります。工事車両や設備の紹介など町田啓太さんや六角精児さんのインタビューを通して「タモリ倶楽部」を意識したマニアックな要素満載なメイキングへと変貌していきます。ここの描写だけでもなかなかお目に掛かる事の出来ないものばかりで一見の価値ありです。本当に凄い迫力です。トンネルにしてもダムにしても、それを人が作るという凄さ。長島ダムに関しては、測量作業から数えるとおよそ50年近い時間をかけて建設がされているようです。本当に、ここの描写を見るだけでも価値があるので、DVD/Blu-rayを買ってください!

 建設業に携わっている方々がどのようなタイムスケールで仕事をして生きているかという事を、劇中クライマックスでもある高杉真宙さん演じるドイのエモーションと同期する形で語られます。映画の芝居と建設業の背景の結びつきによってメイキングとしての説得力が得られます。

ここからが起承転結における転になります。

【Last chapter 格納庫の前田】

 ここで本編のクライマックスについて多くを書くのは控えますが、今まで準備してきたことに対して見落としや問題が生じてしまい彼らは苦悩します。そこで本編の主人公であるドイ(高杉真宙)が初めて感情的になり行動を起こして発言をします。物語の序盤でアサガワ(小木博明)が持ち掛けてきた「WEB上でマジンガーZの格納庫を建設して積算まで行う」という誰も乗る気ではなかった企画に対して、最終的には主人公が誰よりも企画を牽引して壁を乗り越えていくという流れに変わります。そこでの高杉さん自身のドイ役へのアプローチの変化とドイが一歩を踏み出すことに寄り沿う形でメイキングもクライマックスを迎えます。

ここで転と結がほぼ同時に描かれます。

 物語の終盤はマジンガーZの格納庫が舞台になる為、スタジオの全面に巨大なグリーンバックを貼って撮影が行われました。通常メイキングではグリーンバック撮影になると撮れるものがほとんどなくなってしまうので現場に行かなかったりするのですが(本編ではCGで背景が載るけどメイキングはただの緑の背景なので)、今回は狙いがありました。

グリーンバックに役者たちのの過去のメイキング映像を載せて「回想シーン」として時間を立体的に描いてしまおう!という狙いです。

フィクションならまだしも、ノンフィクションでそのような描写というのは無いんじゃないかと思います。これもオープニングででっち上げた世界観、「このメイキングはフィクションとノンフィクションの間にあります」という提示があったので成立した事です。この方法を用いる事で、ここに至るまでの時間や葛藤、携わってきた人の多さ、一人では何も出来ず仲間がいたから叶った事など、全体を統括するような構成に持ち込む事ができました。

ここでメイキングは終わります。


今まで自分がやってきた仕事を文章に起こすという機会がなかったので、書いていて改めて発見する部分があったりと整理できました。世界観の確立された面白いメイキングになっているかと思いますので、ご興味ありましたら手に取っていただけると嬉しく思います。

あ、あと別作品ですが8月5日にDVD&Blu-rayが発売される大友啓史さんの『影裏』も担当していまして、『前田建設ファンタジー営業部』と同時期&コロナ禍中に編集を行ってて、作品のテイストは全く異なりますが個人的には同じテーマがメイキングには流れてるなと思っているので、また改めてnoteに紹介文?告知文?のようなものを書きたいと思います。

読んで頂きありがとうございました。

下記ホームページ内に、ドキュメンタリーに特化した事業「MOM&DAVID」について書いています。大切な相手へ、自分の思いや記憶を伝えて残すためのドキュメンタリーを制作しています。

ご興味ありましたら覗いて頂けると嬉しいです。

志子田勇(MOM&DAVID)





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