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2024年6月の記事一覧

詩「サンカヨウの唄」

詩「サンカヨウの唄」

雨が降る
君が降る
氷晶のような硝子のような
遠くの記憶より来る
なつかしいきらめきと

サンカヨウ見たことないの
雨とまじる香り
高山地域にそっと咲くんだ
こんな花があるんだって
いますぐに君に伝えたいよ

君の笑顔と出会いの痛みを
忘れたくないよ
忘れないよ
神経に注ぐ雨粒は
いつだってきときと

雨降りつづく
レースのカーテン濡らす雫
僕はこの唄を口ずさみながら
己の瞳を潤わせてるよ
爪が奏

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詩「靴」

詩「靴」

今日も人が死んだ
今日も人が生まれた

テレビの向こうも私の内側も大概酷い

私の瞳に映るのは恐怖に震える心
涙にただれたその頬はこわばっている

私の瞳に映るのは自己保身に滾る目つき
下手な作り笑顔のその頬はこわばっている

砂を噛むような世界と私が
今日も静かに崩壊への近道をいく

それでも誰かの手のひらの上で
誰かが手のひらの中の希望を石柱に刻む

私も朝日と共に現る絶望をかなぐり捨てて

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詩「いつかのはなし」

詩「いつかのはなし」

鈴を転がす音が反射して
あなたの黒縁眼鏡がきらめいた
まるで木漏れ日みたいな
やすらかで繊細な硝子細工として笑っていた
わたしは受信しましたよ
そんなわたしは
深い海のような慈しみを貪り
広い空のような優しさに瞋る
あなたへのおもいを
玉ねぎの皮を剥くような
言葉あそびに変えて
ずっと本質を避けていたみたい

あなたはわたしの「いちばんすきなひと」
されどもう伝えることは何もない
朝顔は黙ってひら

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詩「うらがえし」

詩「うらがえし」

うらがえし
何もかもどうでもいい、という
蜥蜴の尻尾
君を溶かした夕焼け空には
春の余韻すら見当たらなかった
「だから文学も哲学もやるのです」
そんな言い訳は誰も聞かない

うらがえし
もう生きたくはない、という
黒鍵の失われたジャズ・ハノン
私の拙さは病める星となって
人知れず燃え尽きる
「どうか私を分別してください」
そんな泣き言は誰も聞かない

うらがえし
もう決別よ、という
梅雨空を切り込

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詩「五月雨と文」

詩「五月雨と文」

雨よ、土よ、草よ、露よ
君らの雰囲気が書かせたお手紙
君らの匂いが僕は大好きで
そのこともお手紙にしたためたよ
じめっとしていて、それでもやさしい君らが
僕の青インクを滲ませようと企てたの、知っているよ

心配なんだ、宛名さえも読めなくなって
このお手紙が広い時代の漂流者になりやしないか
心配なんだ、文字をつぶしたただの滲みが
僕の涙だと思われやしないか
だから、僕にお手紙を書かせるなら
いたずら

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詩「今宵」

詩「今宵」

今宵も気がつけば
うつ伏せで眠っている
心臓が圧迫される午前3時
朝の気配はまだ遠い
ぽつらぽつらと愛の告白するように
小さな雨粒が若草を湿らす
やがて雨は連なった音律になり
私の心を鋭敏に震わす

今宵も気がつけば
こわい夢見て眠ってる
罪が皺に刻まれる午前4時
朝の気配に裏切られる
カラカラの唇に懺悔の言葉も無く
ただ夜より降り続く雨に手を伸ばす
道のぬかるみもまた一興
私の心は鈍く汚れた