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「デ・ブランディング」ってにゃに? トヨタからプリングスまで追従する潮流

ビジネスに使えるデザインの話

ビジネスにデザインの知識はけっこう使えます。苦手な人も多いから1つ知るだけでもその分アドバンテージになることもあります。noteは毎日午前7時に更新しています


「デ・ブランディング」って知っています?

デ・ブランディングとは
source: Marketing Birds “Debranding: The great name-dropping gamble”

ここ10年ほど、多くの大きな企業はロゴを簡素化しています。この「ブランドの簡素化」をデ・ブランディング(Debranding)と言います。調べてみると「デブランディング」は「ブランド名を使わないブランド戦略」と説明されていたりします(※1)。親ブランドを隠すブランド戦略もここに含まれるとか。または旧来のブランド戦略からの脱却とか企業らしさを減らして、親しみを増やそうとしたもの、などという説明もあったりします(※2)。しかし実際のところ、その起源と狙いはシンプルなものです。それは、「メディアの変化」です。どう変化しのか? それは「モバイルファースト」への変化です。わたしたちは、もはや新聞や雑誌などの紙媒体でも、テレビでもなく、スマホで世界と通じる機会がもっとも高くなっています。これが「デ・ブランディング」を発生させた1つの大きな理由です。ほかにも、そのメリットのようなものが理由として上げることができますが、あとでまとめて説明します。まずは、ちょっと「De」についてお話します。

「De」の意味

“de-”は、英語で、「から離れて」、「分離して」、「下降して」などの意味を作る接頭語です。たとえば、“de-Americanization”という言葉は、「非アメリカ化する」という意味。ゆえに「Debranding」は、「非ブランディングする」または「ブランディングしない」という意味といえますが、もうちょっと実態に近いニュアンスは、「ブランディングする要素を“減らす”」となります。ブランド名を言わない、ではなく、簡素化させていく、より記号化していく、というのが、デ・ブランディングの意味するところです。では、まず具体例を見ていきましょう。

デ・ブランディングの実例

日産

Nissanのロゴ(2020)

日産はちょうど(?)カルロス・ゴーン氏の解任あたりから不祥事的なニュースが続いていたので、リ・ブランディング(ブランディングしなおす)の必要が生じていたタイミングで、デ・ブランディングしています。立体的だったロゴは、簡素な黒一色の二次元デザインに変化しました。

トヨタ

Toyotaは2020年にロゴをデ・ブランディングし、簡素化しています。
source: Toyota


Pringles(プリングルス)

2021年からのプリングルスのロゴ
By The logo is from the following website: https://www.pringles.com/uk/home.html https://www.pringles.com/content/global/pringles/en_GB/jcr:content/par/commoncontentroot/headerGrid/par/inuitgrid_1846120925/par/Copy%20of%20responsiveimage.img.png/1635746373840.png, Fair use, https://en.wikipedia.org/w/index.php?curid=69446573

プリングルスのデ・ブランディングするまえのロゴはこのようなものでした。

他にもボルボ、BMW、フォルクスワーゲン、バーガーキング、ファイザー、インテル、ワーナー・ブラザーズ、雑誌のローリングストーンズ、もロゴデ・ブランディングしています。

デ・ブランディングを生み出したもの

さて、それではなぜ企業やブランドはデ・ブランディングを始めたのでしょうか。冒頭でも触れていますが、そのひとつは、「モバイルファースト(Mobile first)」という潮流です。

(1) モバイルファースト(Mobile first)

モバイルファーストとは、文字通り「モバイル」を優先することで、この場合のモバイルは、スマートフォンです。今まで、ロゴは新聞、雑誌、カタログ、看板、テレビなどで顧客に触れてきました。それが、2008年に登場したiPhone 3G以降、世界にあっという間に浸透していったメディア、スマートフォンが「人々にもっとも触れるメディア」となっていきました。スマホは既存のどのメディアよりも小さなメディアです。このスマホでブランドの存在を伝えるには、「小さくとも認識できる記号」となる必要があります。たとえばInstagram(2010年創業)で、ブランドを眼にするときは、投稿者が着ていたり、手にしていたりする写真の中。それでもブランドを認識してもらうためには、ある程度のものをかなぐり捨てて、ロゴを簡素化させる必要があります。この結果、ファッションブランドの多くが、「Little Black Dress」化していきます。皮切りは2012年のイヴ・サン・ローランでした。

いくつものファッションブランドがロゴを簡素なサンセリフに変えていきました。
source: BOF


(2) 企業の成長

企業およびブランドが成長すると何を獲得するのかというと知名度です。知名度や認知度が高くなると「簡素化が許される」フェーズに入ります。簡素化すればするほど、認識しやすい記号になっていきます。たとえば「?」は、誰が見ても、すぐに「疑問符」として認識します。たった一文字なのに。成長したブランドは、この圧倒的に認知しやすい記号化を望みます。また簡素化には、プロフェッショナルな洗練化も要します。こうして、ナイキ、アップル、グーグルなどの大きなブランドは、成長にあわせて、ロゴを簡素化させていきました。

ナイキのロゴの変化
source: Design your way

(3) 多角化の可能性の拡張

スターバックスの書体の記事でも少し触れたのですが、スターバックスはロゴから「コーヒー」を外すことで、コーヒー以外の事業や市場に参入可能になりました。このように、ブランドや企業は、ロゴから社名を外すことで今までの市場からそとに飛び出すことが可能になります。可能になるというか、容易になっていきます。

モバイルファーストデザインが始まって10年

iPhoneが誕生したのは2008年です。Twitterが2006年創業、フェイスブックは、2004年、Instagramは2010年。ソーシャルメディアはスマホに先行して誕生していますが、それが拡散されるスピードを爆発させたのは、iPhoneをはじめとするスマホです。iPhoneが誕生して2022年で14年。やく10年で、メディアが大きく転換してきています。これが、モバイルファーストの背景です。この変化はブランディングにとどまるものではなく、世界をかえるイノベーションでもありました。メタの可能性はまだわかりませんが、スマホが拡張したモバイルなコネクションはこれからわれわれの生活を変化させ続けていくでしょう(おそらくスマホがある時点で他のメディアに変わっていきます)。

まとめ

ここで、言うまでもなく、世界の変化のスピードは加速度的です。指数関数的といったほうがイメージしやすいかもしれません。デ・ブランディングは追従すべき潮流というよりは、流れを認知すべきサインとみるほうが正解に近い気がします(正解を求めることすら、時代遅れになりつつありますが)。また追記しておきたいのは、デ・ブランディングするには、高い知名度の獲得を必要条件としているということです。無名のブランドが記号だけ提示しても認知の合理化とするのは難しいでしょう。以上、今回は、「デ・ブランディング」が発生した理由、事例、メリットなどの紹介でした。このようにこのnoteでは、デザイン関係のビジネスに使える話、ビジネスには使いづらいマニアックなデザインの話、週末はアートの話を毎日更新しています。

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参照

※1


※2



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