《建築のデザイン》 フランク・ロイド・ライトと帝国ホテルのオールド・インペリアル・バー
「建築のデザイン」マガジン
書体の話が多かったのので、今回は建築デザインの話をしたいと思います。
アール・デコって何?
アールなんちゃらという美術様式がふたつありますが、その違いも内容もわかっているようで正直言うとぜんぜんわからない!という声を良く耳ににします。こちらの記事でその違いについて書いています。
今回は、アール・デコについてフォーカスしてみますが、アール・デコとは、1910年代から1930年代にかけて流行した美術様式です。アール・デコ(Art Déco)はフランス語ですが、流行ったメインはニューヨーク。その流行時に建設されたビルが今なお多く建っているので、アール・デコ建設といえば、まずニューヨークと言っても良いほど。例を挙げると
クライスラービルディング
エンパイア・ステート・ビルディング
ラジオシティ・ミュージックホール
エセックスハウス
ウォルドルフ=アストリア
アール・デコの特徴
アール・デコの特徴は、幾何学的な図形をモチーフにしているところ。植物をモチーフとし、曲線的だったアール・ヌーヴォーへの反動でもあるため、このような直線的なデザインが特徴となっています。この幾何学的なデザインの背景には、アートを特権階級から大衆へ引き寄せようとしたダイナミズムがあります。つまり1点ものから、大量生産へというダイナミズム。
こんなアール・デコがなぜ帝国ホテルに?という話に話題を移していきましょう。
帝国ホテルにあるアール・デコの気配は、フランク・ロイド・ライト由来
東京の皇居近くに、帝国ホテルという老舗のラグジュアリーホテルがあります。
創業は1890年。明治時代の官庁集中計画の一環で、外国からの迎賓のホテルとして作られたホテルです。官庁集中計画とは、国会議事堂や官庁を霞が関ふきんに集中して建設し、バロック建築都市を多く建てることで、華麗な町並みを作ろうとした計画です。バロック建築についてはこちらで詳しく書いています。
帝国ホテルの初代会長は、日本資本主義の父と称される、渋沢栄一氏です。
帝国ホテル東京の歴史
現在の帝国ホテルは1983年に完成したもの。2016年にリノベーションされており、リノベーション前の設計は、山下設計、リノベーションは、西念 武志氏によるディレクションでした。そして初代帝国ホテルですが、設計は渡辺 譲(わたなべ ゆずる)氏で、竣工(完成)は、1890年でした。しかし1919年に火事で全焼してしまいます。
この帝国ホテルとは別に新館の計画が1914年から始まります。当時の帝国ホテルの総支配人、林 愛作氏は旧知のアメリカ合衆国の建築家、フランク・ロイド・ライトにこの新館の設計を依頼しました。
近代建築の三大巨匠のひとり、フランク・ロイド・ライト
フランク・ロイド・ライトは、近代建築の三大巨匠と呼ばれる建築家のひとりです。ほかのふたりは、ル・コルビュジエとルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエ。フランク・ロイド・ライトの設計で有名な建造物は、帝国ホテルのほかに、グッゲンハイム美術館やカウフマン邸など。
フランク・ロイド・ライトのデザインの特徴には遍歴がありますが、モダニズムの流れを汲んだもので、モダニズムには、合理的・機能的な者を追求した動きでした。アール・デコじゃなくてモダニズムなの?と思われるかもしれませんが、この辺、ちょっとかぶっているんです。アール・デコにしろ、モダニズムにしろ、「大量生産の容認」という姿勢、それまでの様式へのカウンター、という共通点があります。
フランク・ロイド・ライト、クビになる
フランク・ロイド・ライトは、細部にいたるまでこだわりを見せました。その結果、予算は6倍に膨れ、経営陣とフランク・ロイド・ライトは衝突してしまいます。さらに本館が全焼してしまい、完成を急務となります。フランク・ロイド・ライトに設計を依頼した総支配人の林愛作は、引責辞任してしまいます。フランク・ロイド・ライトも本国に帰ることに。新館の建築は、ライトの弟子、遠藤 新(えんどう あらた)が指揮を取り、進められ、1923年、林愛作がライトに声をかけてから10年後に完成します。
写真をみると多くの石材が使われていますが、これは栃木県で産出され、日本家屋の擁壁によく利用されている大谷石です。現在の帝国ホテル東京でも要所要所で当時のものが使われています。このライト館は44年後の1967年に閉鎖されました。
帝国ホテルのバー、オールド・インペリアル・バー
現在の帝国ホテル東京は、フランク・ロイド・ライトのおもかげを大切にしており、なかでも二階にあるオールド・インペリアル・バーは、文字どおり、古き帝国ホテルの気配が随所にあります。椅子、照明、奥の壁にある模様など、フランク・ロイド・ライトの設計したライト館で使われていたものやそれをリバイバルしたものでいっぱいです。
このバーで使われている椅子は、フランク・ロイド・ライトの設計をリバイバルした六角形の背もたれをしたものですし、バーの奥にあるミラーも六角形。ちなみにちらっとうつっている柿ピーですが、この柿の種とピーナッツをミックスしたものも帝国ホテル発祥です。このようにこのバーを訪れると美味しいカクテルやお酒や心地よい雰囲気だけではなく、フランク・ロイド・ライトのデザイン、当時のモダニズム、アール・デコなどの思想が具現化したデザインも楽しめて、酔とともにい軽いタイムスリップを楽しめます。
参照
https://www.jstage.jst.go.jp/article/woolfreview/36/0/36_104/_pdf/-char/ja
よろしければサポートをお願いします。サポート頂いた金額は、書籍購入や研究に利用させていただきます。