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映画は時代を再現するために書体を使う—映画『グレート・ギャツビー』とAtlas

ビジネスに使えるデザインの話

ビジネスにデザインの知識はけっこう使えます。苦手な人も多いから1つ知るだけでもその分アドバンテージになることもあります。noteは毎日午前7時に更新しています


映画と書体

日本人は、欧文書体は普段英語を使わないため、日常的に使ってきた欧米圏の方々にくれべて、疎いのは当然です。VR、ARやメタ、AIなどによって多国語の習得が、グローバリゼーションが進んでも、さほど必要じゃなくなりつつあるので、欧文書体の文化についての理解を深めるのは、受け身では難しく、積極的な好奇心が必要かもしれません。この記事にがそんな好奇心に触れられる内容になればとさいわいです。

さて、欧文書体というのは、いわゆるローマ字を使った書体なわけですが、その歴史はかなり古く、紀元前にまでさかのぼります。エジプトの象形文字、ヒエログリフから始まり、フェニキア文字、ギリシャ文字と移り変わっていき、アルファベットが生まれました。それからヨーロッパの歴史のなかで使われ続けてきているので、欧文書体が持つニュアンスの読解力は日本人に比べてとても高い、というより日本人の読解力がとても低い(当たり前ですが)。その差を埋めるべし!という主旨はないのですが、そこに大きな差があることを前提としたいと思います。

欧文書体は、どんなデザインの書体を選ぶかによって、さまざまなニュアンスを表すことができます。その機能は和文書体にももちろんありますが、欧文書体のそれとは違います。そのニュアンスのもとを理解すると映画やデザインの情報量が増え、より楽しむことができます。このあたりはワトソン博士からホームズになっていくような変化と言えるのではないでしょうか。

さて結論ですが、映画はさまざまな時代や場所、テーマを持っていますが、それらを表すために、まず使われるのが「書体」です。書体には、時代や気配を表す機能があります。例えば、『13時間』という映画があります。この映画はポスターやタイトルに「OCR-A」という書体が使われています。コンピュータに解読させるために作られた書体なため、少し読みにくく、且つ無視室なデータのニュアンスがあります。実話をベースとし、過酷な状況を無慈悲に描写するこの映画の態度やテーマにぴったりな書体です。


バズ・ラーマン監督の映画『グレート・ギャツビー』

フィッツジェラルド氏の小説を原作とし、バズ・ラーマン監督、レオナルド・ディカプリオ氏主演の映画『グレート・ギャツビー』(2013)は、ラーマン監督らしい派手でドラマチックでセンチメンタルな作品です。

この映画は原作通りにジャズエイジと呼ばれる時代が舞台になっています。ジャズエイジは「狂騒の20年代」(Roaring Twenties)とも呼ばれ、アメリカ合衆国の1920年代の世相や文化を指したことばですが、これもフィッツジェラルド氏の『ジャズエイジの物語』(1922)に由来しています。第一次世界大戦が終結し、ジャズが流行し、享楽的な都市文化が発達した時代で、大量消費時代・マスメディアの時代の幕開けでもありました。この浮かれ騒ぎは、1929年の世界恐慌により終焉を迎えます。

1920年代に流行したアールデコ

アールデコ建築の代表、クライスラー・ビルディング
By Tony Hisgett from Birmingham, UK - Chrysler Building 1Uploaded by Magnus Manske, CC BY 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=21107852

1920年前後にヨーロッパとアメリカ合衆国で「アール・デコ(Art Déco)」という芸術運動が流行します。時代はちょうど第一次世界大戦が終わり、戦争によって洗練された技術革新が市場に出回リはじめたころでした。モダニズムという合理と機能を追求したスタイルとこの時期、同時に存在していました。アールデコは、幾何学図形をモチーフとした装飾性の高いスタイルでした。それゆえかその寿命は短く、すぐに悪趣味とみなされて衰退していきましたが、しばらくたってから再評価されました。

ともあれ、ジャズエイジの浮かれた気配は、落ち着いた合理のモダニズムより、だんぜん派手なアールデコと相性が良いものでした。

アールデコを体現する書体、Broadway

Broadway(書体)(1927)
By Connormah (talk) - Own work by the original uploader, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=58820654

Broadway(ブロードウェイ)という書体があります。アメリカ合衆国のモリス・フュラー・ベントンという多作の書体デザイナーによる書体で、アールデコ書体と呼ばれるほど、当時のアメリカのアールデコを体現した書体です。この書体から派生したできたBroadway Engraved(1928, Sol Hess)は、コットンクラブという1920年代に生まれた高級ナイトクラブのロゴに使われています。

Broadway Engraved SH Reg
Image source: MYFONTS
コットンクラブ
Gotanero - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=29988309による

映画『グレート・ギャツビー』のタイトル

映画『グレート・ギャツビー』のポスター
Image source: Fonts in Use 

映画『グレート・ギャツビー』では、ブロードウェイよりもっと派手なAtlasという書体が使われています。

アトラス(Atlas)
1933年にFonderie Typographique Françaiseから出版されたK.H.シェーファーのFatima Versalien AKA Atlas(アトラス)
Image source: Musée de l’imprimerie de Lyon

このAtlasという派手な書体を派手に使うことで、映画『グレート・ギャツビー』は、派手さ、浮かれ騒ぎなどを伝えると同時に、1920年代のアメリカ合衆国(特にニューヨーク)、ジャズエイジ、アールデコ、短い寿命(アールデコとジャズエイジの)をも伝えています。

すごく機能だと思いませんか?書体一つで、時代やニュアンスをこれほどまでに伝えられるなんて。


まとめ

和文書体にもニュアンスの違いを伝える機能はありますが、その発展は明治維新あたりから急激に路線変更されて発展したため、体現できるレンジがかなり狭いんです。その一方で、欧文書体は、芸術のスタイルの変化、時代の変化、地域の違いなど、書体ひとつで伝えられる情報量が非常に多い。これらの知識があると、映画もファッションもそしてビジネスも、読み取れる情報量が増えて、その分、楽しむことができます。知識ひとつで楽しみが数倍になるなんてなかなかお得ではないでしょうか。しかも多くの日本人はまだまだ欧文書体と欧文由来のデザインに疎いままです。少しずつ知識を獲得するたびにアドバンテージが獲得できるかもしれません。そんな書体やデザインの話もこれからもご紹介していきたいと思います。

紹介したBroadwayという書体はこちらから購入して使うことができます。



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参照



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