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幾何学的なサンセリフ書体の嚆矢 “Erbar”

ビジネスに使えるデザインの話

ビジネスにデザインの知識はけっこう使えます。苦手な人も多いから1つ知るだけでもその分アドバンテージになることもあります。noteは毎日午前7時に更新しています


Futuraより先に生まれた書体“Erbar-Grotesk”

Erbar-Grotesk


Erbar (Light)

カテゴリー:サンセリフ(日本語では「ゴシック体」)
分類:ジオメトリック
デザイナー: ヤコブ・エルバー(Jakob Erbar)
メーカー:Ludwig & Mayer
発売日:1922-30

Erbar-Grotesk(エルバー・グロテスク/エルバー)という書体は、幾何学的なサンセリフとして最初に生み出された書体です。登場したのは1922年。FuturaやKabelといった世界的に有名な書体より5年先行してリリースされた書体でした。Erbarをデザインしたヤコブ・エルバー氏が目指したのは、個性を一切排除し、読みやすく、純粋にタイポグラフィーのみで作られた印刷用書体でした。このテーマのもと、Erbar-Grotesk(エルバーグロテスク)は段階的に開発されていきました。エルバー氏は、1914年にすでにこの書体のスケッチを製作していましたが、第一次世界大戦のために作業は中断されてしまいました。

請求書に使われたErbar
Photo: Florian Hardwig. License: All Rights Reserved.

Erbarは、1940年代から1950年代にかけてスイスで非常に人気があり、例えば申し込み書や請求書などによく使われていました。しかし1960年代には人気がなくなり、Helveticaに取って代わられていきました。

Erbar-Groteskは、大文字だとFuturaなどの他のジオメトリック・サンセリフに似ていますが、見分け方としては、急な直線を持つ「S」やストロークに対して垂直な端を持つ「C」。もうひとつの特徴は、「ch」と「ck」の合字があること。これはブラックレター活字にルーツをもつ当時のドイツ語の慣習から来ています。

合字とブラックレターについては、こちらの記事で詳しく紹介しています。


56歳で死去した早世のヤコブ・エルバー

ヤコブ・エルバー(Jakob Erbar)
source: Typografie.info

ヤコブ・エルバー(Jakob Erbar/1878年 – 1935年)氏は、ドイツのグラフィックデザイン教授であり、書体デザイナー。デュモン・シャウベルク印刷所(the Dumont-Schauberg Printing Works)で植字工として働いたのち、フリッツ・ヘルムート・エムケとアンナ・サイモンズに師事しました。エルバー氏がデザインした書体、Erbar(シリーズ)のリリースは、1922年から始まっており、ポール・レンナー氏がデザインしたFutura(1927年)や、ルドルフ・コッホ氏がデザインしたKabel(1927年)よりも5年ほど先行した書体でした。FuturaとKabelはこちらの記事で詳しく紹介しています。

エルバー氏は、Erbarシリーズのほかにもいくつかの書体をデザインしています。

ヤコブ・エルバー氏がデザインした書体の見本
By Blythwood - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=49674216

ErbarとFutura

Erbarの成功は、FuturaTwentieth Centuryといった他の鋳造所(当時の書体は活字メーカーである鋳造所から発売されていました)による多くの新しい幾何学的サンセリフの誕生を促すものとなりました。

Futura (1927)
Twentieth Century
By Blythwood - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=40948487

多くの幾何学的サンセリフのうちで、Futuraがもっとも成功を収めました。これは、ヤコブ・エルバー氏の早世、書体Erbarを発売したLudwig & Mayer鋳造所がFuturaのBauer活字鋳造所にくらべて規模が小さかったことなどが原因とも考えられています。

Erbarの使用例

"The Organizer" Criterion DVD カバー(2012)
Source: caitlinkuhwald.blogspot.de © Criterion. License: All Rights Reserved.
スイスのチューリッヒにあるルドルフ・キールの菓子店「コンフィズリー・モデルネ」の広告 (1935)
Source: www.flickr.com Uploaded to Flickr by Philipp Messner and tagged with “erbargrotesk”. License: CC BY-NC.


まとめ

こうして観ると、先駆者としてのErbarの重要性が浮き彫りになりますが、後発のFuturaやKabelなどのほうがより洗練されていることもわかります。Erbarは、そういう意味では、ちょっとした古臭さのある20世紀の初め頃のドイツのニュアンスを体現することができる書体とも言えます。この洗練されきっていないジオメトリック(幾何学的な)サンセリフは、古着屋で妙な魅力を持った古いコートのような愛らしさがあるように思います。

"We are ready - to satisfy our customers"(私たちは準備ができている - 顧客を満足させるために)。Grafisk RevyにあるO.L. Svanbäckのプリントショップの広告(1930-1935年)。
Source: www.flickr.com Uploaded to Flickr by Sander Pedersen and tagged with “erbar”. License: Public Domain.


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