新聞のロゴにみる「ブラックレター」とは何ものなのか?
ビジネスに使えるデザインの話
デザインの知識は、デザイナーや広告代理店にすべて委ねるわけにはいかないものがあります。なぜなら、企業やブランドがデザインを使ってやりたいことは、「意志の伝達」や「ポジションの獲得」だからです。アウトプットの是非が判断できないって、デザインというコミュニケーションの主体として、かなり怖いディスアドバンテージになります。ということで、知っておくとビジネスでも役に立つデザインの話をこちらのマガジンにまとめています。
「ブラックレター」って何?
こういう文字を、新聞のタイトルやワインのラベル(エチケット)に良く見かけると思います。これは、「ブラックレター(Blackletter)」という文字、書体の1種です。なぜ「黒文字」と呼ばれるのかというと、平ペンを使って書かれた文字で、そのためこの書体を使った紙面は黒みが強くなったため。
「ブラックレター」は筆記体
わたしたち日本人からするとちょっと意外かもしれないのですが、このブラックレター」というアルファベット書体は、もともとは筆記体なんです。さきほども「平ペンで書かれた」という表現をしています。筆記体というとこういう文字がまっさきに思い浮かびます。
こういった筆記体とブラックレターは同類なんです。筆記体であるスクリプト体についてはこちらの記事(欧文書体の種類を知ろう:スクリプト編)で詳しく解説しています。
ブラックレターの誕生
ブラックレターの直接的な祖先は、初代神聖ローマ皇帝である、カロリング朝のカール大帝(742–814)が、ブリテン島イングランドのヨークの修道僧アルクィン(Alcuin)に作らせたカロリング小文字体(Carolingian minuscule)です。
12世紀のヨーロッパでは、新たに大学が設立され、識字率が向上し、商業や法律、文学、歴史などさまざまな分野の新しい書物(手書きで写したもの)の需要が高まりました。この需要に応えるかたちで、カロリング小文字体が作られ、使われていきました。しかし、カロリング小文字体は、読みやすいのですが、書かれるのに時間がかかり、かつ紙面を広く占めてしまうものでした。当時、紙は非常に高価でしたので、紙を節約したい、書く時間を短くしたいというニーズが高まり、11世紀頃には、現在のブラックレターのような書体が使われるようになっていきました。
さらに12世紀中頃には、現在のようなブラックレターがフランス北東部やベネルクス三国(ベルギー、オランダ(ネーデルラント)、ルクセンブルクの3か国の集合)などで使われるようになっていきました。
ブラックレターは“西洋において”「ゴシック体」と呼ばれる
日本では「ゴシック体」というと文字の端に鱗のようなもの(「はらい」と呼ぶ)がない書体を指します。
しかし西洋においては、ゴシック体は、このとおりブラックレターを指しています。
なぜ「ゴシック体」と呼ばれたのか。まずそう呼んでいたのは、15世紀のイタリア・ルネサンス期の人文主義者たちでした。「ゴシック」という言葉には、「野蛮」という意味が含まれていました。人文主義者たちは、ローマ帝国で使われていた書体を好み、ブラックレターを洗練されていないものとして嫌いました。このとき、彼らはブラックレターを蔑称として「ゴシック」という呼びました。「ゴシック」という言葉は、ローマ帝国に侵入し、帝国を滅亡させる一因となったゴート族に由来した言葉です。そのため、「ゴシック」という言葉に、「洗練されていない」「野蛮」といった意味が含まれていました。
ルネサンス期の人文主義者たちは、カロリング小文字体は好んでいました。彼らはこの文字をを古代ローマで用いられていたと誤って信じて、リテラ・アンティクア (「古代文字」)と呼んでいました。しかし、実際はカール大帝の時代に作られたものであり、後のブラックレターの発展の基礎となった文字でした。
ブラックレターの種類
テクストゥーラ(Textur)
テクストゥーラは、ブラックレターの中で最もカリグラフィ的な書体であり、今日では「ゴシック」と最も関連づけられる書体です。ヨハネス・グーテンベルクは42行の聖書を印刷する際に、多数の合字や一般的な略語を含むテクストゥーラを活字として制作しました。
テクストゥーラは、フランス、イギリス、ドイツで最も広く使われました。テクストゥーラの特徴は、カロリング小文字体と比べると、背が高く、幅の狭い。丸みを帯びたカロリング小文字体とは異なり、鋭くまっすぐな角張った線で形成されています。
テクスゥトールは、「ロトンダ(Rotunda)」、「シュバーバヒャー(Schwabacher)」、「フラクトゥール(Fraktur)」と というブラック・レターに派生していきます。
ロトンダ(Rotunda)
南ヨーロッパ、特にイタリアに渡ったテクストゥーラは、全体に丸みを帯びて、やや幅広になり 簡素化されていきました。これを「ロトンダ(Rotunda)」と呼びます。
シュバーバヒャー(Schwabacher)
シュバーバヒャーは、初期のドイツの印刷書体で、20世紀まで使われ続けた書体です。シュバーバヒャーの特徴は、以下の通り。
•小文字のoの両側が丸みを帯びているが、上部と下部では2画が斜めに結合している。他の小文字も同様な形をしている。
•小文字のgは、上部に水平なストロークがあり、下向きの2ストロークと交差する形になっている。
•大文字のHは、小文字のhを思わせる特異な形である。
フラクトゥール(Fraktur)
フラクトゥールは、「ドイツ文字」とも呼ばれ、ドイツでは、第二次世界大戦頃まで印刷に常用していた文字です。フラクトゥールは、中世のヨーロッパで広く使われた、写本やカリグラフィーの書体を基にした活字体・ブラックレターの一種で、最も有名なもの。ブラックレターを全部指して「フラクトゥール」と呼ぶこともあります。フラクトゥールの語源は、古いラテン語の分詞、frangere(壊す)、fractus(壊れた)であり、他のブラックレターや現在よく使われるローマ字体に比べて線が崩れているところに特徴があります。
フラクトゥールでは、大文字の I と J には外見上の違いがないか、あってもわずかです。これは、両者の起源は同じであり、区別する必要があまりなかったためでした。語尾以外では、小文字 s に長いs( 「ſ」 小文字の f に似ていますが、横棒が右側へと貫かない)を用います。ß(エス・ツェット)には 長いs と z の合字を用い、ch には、文字同士が接触しないものの、字間が通常より狭い合字を使います。また、ウムラウト付きの文字 ( Ä ä Ö ö Ü ü ) では、現在のウムラウト(点を横に2つ並べたもの)ではなく、その由来となった古い形、すなわち小さな e を文字の上につけた字形のものがしばしば用いられました。ハイフンは、右上がりの二重線となります。
カーシヴ(Cursiva)
カーシヴは、ブラックレターに分類される書体のうちで大きなグループの一つで、印刷用書体としてのブラックレターであるテクストゥールなどを筆記用に簡略化したものです。筆記の対象が、羊皮紙から紙へと移り変わっていった14世紀頃から広く使われるようになりました。
ハイブリッド(Hybrida)
ハイブリッドは上記のテクストゥール、カーシヴの中間的な書体で、15世紀ごろにそれぞれの特徴を合成して作られたものです。
ドナトゥス・カレンダー(Donatus-Kalender)
ドナトゥス・カレンダー(Donatus-und-Kalender)は、グーテンベルクが、1450年代初頭に現存する最古の印刷物に用いた金属活字のデザイン名です。この名称は、ラテン語の文法書であるAelius DonatusのArs grammaticaとKalender(暦)の2つの著作に由来しています。
ブラックレターの持つニュアンス
このようにブラックレターは、ドイツに限らない地域で使われてきましたが、ローマン体を洗練したものとみなし、ブラックレターを毛嫌いしたイタリア・ルネサンス時代を経て、ドイツ的、ゴート族的、印刷の発明(それに伴ってキリスト教のニュアンスもあり)などのニュアンスがあります。加えて、これが一番わかり易いのですが、 11世紀ごろから使われ始めた文字の形なので、
というニュアンスがあります。昔からある」というのは、ブランドとしてとても有効な属性で、がゆえにSinceなんて創業年を謳ったサインがあったり、ブルガリがわざわざ、UをVに変えて使ったりしているわけです。そんなわけで、新聞社の多くが、ロゴにこのブラックレターを使っています。
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参照
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