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ダイソンはどんな書体を使っているのか?

ビジネスに使えるデザインの話

ビジネスにデザインの知識はけっこう使えます。苦手な人も多いから1つ知るだけでもその分アドバンテージになることもあります。noteは毎日午前7時に更新しています


ブランドと書体

ブランドはその思想や哲学、ニュアンスを伝えるために書体を上手に使っています。その好例をブランドごとに紹介していきます。

ダイソンってどんなブランド?

シンガポールのセントジェームス・パワーステーションにあるダイソン本社ビル
By Westliche - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=115828327

ダイソン(Dyson)、イギリスのジェームズ・ダイソン(Sir James Dyson)卿によって設立されたシンガポールの多国籍テクノロジー企業です。

ジェームズ・ダイソン(Sir James Dyson)卿
By Royal Society uploader - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=43268607

1991年にイギリスのマルムズベリーで設立。以来、掃除機、空気清浄機、ハンドドライヤー、羽根のない扇風機、ヒーター、ヘアドライヤー、照明などの家電製品を設計・製造しています。

2019年、ダイソンは、シンガポールへの恒久的な移転を発表し、現在同社は、セントーサ島の向かいにあるセントジェームズ発電所にあります。

現在では、日本でも知らない人はあまりいないであろう知名度のブランドです。そんなダイソンは、ロゴやウェブサイト、説明書などにどのような書体を使っているのでしょうか?

ダイソンのロゴ

ダイソンのロゴ
By Dyson, Vectorized by Kyle the hacker - Own work using: http://www.dyson.com/, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=69375726

ダイソンのロゴは、1991年の創業以来、変わっていません。この人間味のあるサンセリフ体は、Horatio(ホレイショ)という書体をベースにしているのか、よく似ています。ホレイショといえば、シェイクスピアの戯曲『ハムレット』の登場人物のひとりです。デザイナーのボブ・ニューマン(Bob Newman)氏はイギリス人なので、やはりハムレット由来なのではないかと推測しています。この書体、デザインされたのは1971年。ダイソンのロゴより実際の書体は、もう少し幾何学的です。

Horatio (Bold)
image source: Myfonts

書体:Horatio(ホレイショ)
デザイナー:Esselte Letraset
ファウンダー:ITC
オリジナル・ファウンダー:Letraset

Horatioとdysonのロゴを比較すると、dysonのロゴのほうが、人懐っこいというか、人間味がある表情を持っていることがよくわかります。正円に近かったdが、ストロークの流れがみえるような造形にかわり、yもsも開き気味になっています。その結果、いくぶん冷たい幾何学的な印象だったものが、人間味のある明るい印象に変わっています。書体デザイナーの小林章氏も著書『フォントのふしぎ』のなかで、この調節を「うまくアレンジされてしあげられているなー」と述べています。

ところで、このHoratioという書体、どこかでみたことあるなぁーという気がするかもしれません。たぶんその理由は、この書体をベースにしているのではないかと思われる日本のある企業のロゴが原因だと思います。その企業とは……

2008年に新ロゴになったNTTドコモのロゴ

そう、ドコモです。「docomo」をHoratioで打ってみましょう。

Horatio (Bold)
image source: Myfonts

いかがでしょう?「d」の右下によくわからないアクセントをつけて、「c」を他の文字と文字幅に修正するとほとんどドコモのロゴになります。

ダイソンは、文章には何の書体を使っているのか?

このHoratioという書体は、ロゴやタイトルなどには向いていますが、読むにはつらい書体です。では、説明文やウェブサイトではどんな書体を使っているのでしょうか?

image from dyson Website (United Kingdom)

ウェブサイトで使われている書体は、Futura(フツラ)という書体をdyson用にアレンジしたDyson Futuraです。Futuraは、大人気の書体で、ルイ・ヴィトン、ドルチェ&ガッバーナ、ジレット、フェデックス、ドミノピザ、オメガ(腕時計)のロゴにも使われ、且つ映画のタイトルやポスターにも使われまくりの書体です。世界はFuturaで溢れかえっているとさえいえるほどの人気です。なぜこんなに人気なのに使われ続けるのか、ということに関しては、こちらの記事で詳しく説明しましたが、簡単に言うと「見慣れたものに対して人は好感と信頼感を抱くようにできているから」です。それに加えてFuturaは、オーセンティック且つ未来的且つ美しく且つ文章にしても読めるデザインというバランスの良さを持っています。


何を読み取れるのか?

ダイソンがHoratioをアレンジしてロゴにして、メーカーとしてはFuturaという書体を使っていることから、何を読み取ることができるのか?それは、Horatioのアレンジの仕方から、「人間らしさ」というものを重視していることが伺えます。人々の生活をイノベーションを通してより良くしたいという姿勢と使うのは人であるという認識が伺えるのではないでしょうか。一方でFuturaは、古代ローマの碑文をベースにしているため、厳かな気配を持っています。そこから親しみやすさを全面に出すというよりは、高価さというかクオリティが高いという気品のようなものを持とうとする姿勢があるように見えます。

人間に寄り添い、しかし高級感はある、そういうポジションをダイソンは設定し、創業以来まだそれを変えていないのではないでしょうか。

これが、ロゴや使っている書体から読み取れることです。

まとめ

このようにブランドやメーカーが見た目に重きを置いている場合、使っている書体やロゴから、姿勢や哲学を読み取ることができます。なぜなら彼らもまたそれを伝えたい意志を持っているから。書体に何を選ぶのか、ということは自分たちが何を重要視しているのか、といういことを明確にすることに繋がります。なれば、書体に詳しくなるほど、ビジュアルのボキャブラリーが増えるということにもなります。

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参照


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