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ラルフ・ローレンと書体 “ITC Fenice”

ビジネスに使えるデザインの話

ビジネスにデザインの知識はけっこう使えます。苦手な人も多いから1つ知るだけでもその分アドバンテージになることもあります。noteは毎日午前7時に更新しています


ブランドと書体

ブランドはその思想や哲学、ニュアンスを伝えるために書体を上手に使っています。その好例をブランドごとに紹介していきます。


ラルフ・ローレンってどんなブランド?

ニューヨークのマディソンアベニューにあるラルフ・ローレンのフラグシップストア
By ajay_suresh - Gertrude Rhinelander Waldo House, CC BY 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=112340141

創業者:ラルフ・ローレン(Ralph Lauren)
創業年:1967年(アメリカ合衆国、ニューヨーク)
本社:ニューヨーク
Website: https://www.ralphlauren.co.jp/

テニスの4大世界大会のうちのひとつ、イギリスのウィンブルドンで行われるウィンブルドン選手権(The Championships, Wimbledon)。この大会の審判やボールパーソンのユニフォームを2006年からデザインしているブランド、それがラルフ・ローレンです。

2022年のウィンブルドンのボールパーソン
Image source: Ralph Lauren

創業は1967年。擁するカテゴリーはアパレル、ホーム、アクセサリーそしてフレグランス。ラルフ・ローレンには中級から高級までのブランドがあります。

中級:Chaps
サブプレミアムブランド:Lauren Ralph Lauren
プレミアムブランド:Polo Ralph Lauren、Double RL、Ralph Lauren Childrenswear、Denim & Supply Ralph Lauren
フルラグジュアリーブランド:Ralph Lauren Purple Label、Ralph Lauren Collection

ラルフ・ローレン(Ralph Lauren)氏(1939年生まれ)は、アメリカ合衆国、ブロンクス生まれのファッションデザイナー。2015年にラルフ・ローレン・コーポレーションのCEOを退任するも、現在も会長兼チーフ・クリエイティブ・オフィサーを務めています。億万長者(ビリオネア)であり、ローレン氏の純資産はは69億米ドルと推定されています。

ラルフ・ローレン(Ralph Lauren)氏(2013)
By Arnaldo Anaya-Lucca - File:Arnaldo Anaya Lucca w Ralph Lauren.jpg, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=30599740

ローレン氏は、1967年にメンズ・ネクタイでラルフ・ローレン・コーポレーションをスタートさせました。28歳の時、ネクタイメーカーのボー・ブランメル社(Beau Brummell)に就職したローレン氏は、同社の社長を説得し、自分のブランドを立ち上げることを許可されました。翌年の1968年、ローレン氏は初のフルラインとなるメンズウェアを「ポロ」と名付けました。

ポロとは、馬に乗って行う球技で、イギリスの紳士階級が嗜むスポーツ。世界で最も古いチームスポーツの一つとでもあります。ローレン氏が作り上げようとして成功したのは、アメリカには存在していない貴族階級というイメージでした。

アメリカには富裕層はいるが貴族がいない

ローレン氏がポロというブランドを使って形成しようとしたのは、「アメリカの上流階級」というクラス。イギリスの上流階級が嗜むスポーツ「ポロ」を象徴として、アメリカに存在していなかった「上流階級」というクラスに実態を与え、市場を形成しました。こうしてラルフ・ローレンはブランドとして企業として大成功します。ローレン氏は、自身で「アメリカの上流階級」を体現し、モデルとして立ち居振る舞いました。

ラルフ・ローレン、Poloのシンボルマークとロゴ
Image source: 1000 Logos


1969年(ローレン氏30歳)には、マンハッタンの百貨店ブルーミングデールズ(Bloomingdale's)がローレン氏のメンズラインを独占的に販売するようになりました。ブルーミングデールズがデザイナーに自分の店舗を与えたのはこれが初めてでした。

1971年(32歳) ラルフ・ローレンは女性用のテーラードシャツのラインを発表し、シャツの袖口にポロ選手のエンブレムを付けました。翌年には初のフルレディースコレクションが発表されます。

1972年(33歳) カリフォルニア州ビバリーヒルズのロデオドライブにラルフ・ローレンの初の単独店舗がオープン。同年ローレンは24色の半袖コットンシャツを発表し、ポロプレーヤーのロゴをあしらったこのデザインは、ブランドの代表的なルックとなりました。

1974年(35歳) ラルフ・ローレンは『華麗なるギャツビー』の男性キャストにポロラインの衣装を着せました。ロバート・レッドフォード演じるジェイ・ギャツビーのためにローレン氏は特別にピンクのスーツをデザインしました。

1977年(38歳) ラルフ ローレン コーポレーションは、胸にポロプレーヤーのロゴをあしらった、さまざまな色のコットン メッシュ ポロシャツを発表。この年、オスカーを受賞した映画『アニー・ホール』では、ダイアン・キートンとウディ・アレンがローレンの服を着用しました。

ラルフ・ローレンとスポーツ

2005年、全米テニス協会(USTA)は、全米オープンの公式アパレルスポンサーとしてラルフ・ローレン・コーポレーションを選定しました。コート上のすべてのボールパーソンと関係者は、特別にデザインされたラルフ・ローレンのアパレルに身を包みました。これはポロにとって初のテニススポンサーとなりました。

2006年、前述した通り、ラルフ・ローレン・コーポレーションはウィンブルドンの公式アウトフィッターとなりました。ローレンはテニストーナメントの歴史上初めて、すべてのオンコートオフィシャルのユニフォームを作成するために選ばれました。

2020年、ラルフ・ローレンコーポレーションは全豪オープンの公式アウトフィッターとなりました。


ラルフ・ローレンのロゴと書体


ラルフ・ローレンのロゴ
By Ralph Lauren Corporation - https://www.ralphlauren.com/on/demandware.static/Sites-RalphLauren_US-Site/-/en_US/v1533294048337/images/logo.svg, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=71321837

ラルフ・ローレンは、ロゴにITC Fenice(アイティーシー・フェニーチェ)という書体を使っています。

ITC Fenice(アイティーシー・フェニーチェ)
見比べるとわかりますが、ロゴでは文字間が広めに取られています。
Image source: Myfonts

この書体をデザインしたのは、イタリアのアルド・ノバレーゼ(Aldo Novarese)氏(1920-1995)。

アルド・ノバレーゼ(Aldo Novarese)
Image source: TypeNetwork

アルド・ノバレーゼ氏がデザインした他の書体にEurostile(ユーロスタイル)というものもあり、こちらも有名な書体で、カシオや東芝のロゴに使われている書体です。


ラルフ・ローレンのロゴに使われているFeniceという書体は、DidotやBodoni(ボドニ)などのモダンローマンまたはDidone(ディドネ)などと呼ばれるカテゴリの書体を現代的なスタイルに仕上げたものです。リリースされたのは1980年。この種類の書体は、ファッション雑誌のロゴに使われ、ハイファッションの代名詞的な存在にもなりました。

Vogueのロゴのベースに使われているのは、Didotという書体。


何を読み取れるのか?

ファッションブランドのロゴはスマートフォンファースト化して、視認しやすいサンセリフ体(いわゆるゴシック体)にどんどん変わってきています。

Image source: BOF

そんななかでラルフ・ローレンはこの風潮に乗らないでいます。そのあたり、王者の風格のようなものを感じます。またラルフ・ローレンは上場企業(市場はNYSE)。おもねる親会社もいない強みもあります。ラルフ・ローレンがロゴにITC Feniceをベースにしたままでいることから「ラルフ・ローレンの強さ」を垣間見る気がします。

まとめ

ラルフ・ローレンは、アメリカに存在していなかった上流階級を現出させたわけですが、これってまさにイノベーションといえます。アメリカのなかに上流階級というクラスと市場をつくり、しかも本家?のイギリスのウィンブルドンのユニフォームを担当し続けてもいます。かなりのモンスターブランドなわけです。しかもラルフ・ローレン氏は、2019年にチャールズ皇太子よりアメリカのデザイナーとしては初の名誉最優秀英帝国勲章「KBE: Knight Commander of the Most Excellent Order of the British Empire」いわゆるナイトコマンダーを受勲してます。28歳で作ったブランドがこのような展開にまで発展するなんて、ラルフ・ローレン氏はすごい存在です。


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参照



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