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【小説】あと25日で新型コロナウイルスは終わります。

~唯一のライフライン?~

翌日。今日も当院から⚫⚫さんに電話連絡をしようと思っていたところ、電話が一本かかってきた。

「⬛⬛保健センターです。近くに患者さんなど他の方はいませんか。」

担当者の声は緊張していた。受付スタッフはただ事でないと察した。

「はい、いません。」

「これから読み上げる妊婦さんの名前を復唱したり、メモを取ることは絶対やめてください。」

「はい、わかりました。」

「ほんとうに守れますか。」

「はい、守れます。」

「⚫⚫ ⚫⚫様、生年月日が⬛年⬛月⬛日。そちらに来院されていますか。」

「少々お待ちください。」

受付スタッフは乱れそうな呼吸を整えながら、看護師に話しかけた。

「今、⬛⬛保健センターから⚫⚫さんの件で電話が入っています。絶対、近くの患者さんには聴こえないところで話してくださいとのことです。」

「わかったわ。」

看護師の一人が⚫⚫さんのカルテを見つめながら、子機で対応した。

「ええ、こちらには5週間前まで来ていました。そろそろ(妊娠が)中期になるため、他院に転院するための紹介状を持たせなければならないので、昨日、本人に電話連絡したところ出ません。本日、本人とパートナーと実母に連絡するところでした。」

その後、しばらく保健センターとその看護師の間でやり取りが続いた。

その後、全看護師と医師だけが集まり、話し合いをし、保健センターとやり取りした看護師が本人とパートナーと実母に電話した。

その日の外来が終わると、お産施設の無い⚫⚫クリニックでは滅多なことでは行われない、夕方の申し送りがあった。

✔⚫⚫さんは、妊婦健診に5週間来ていません。

✔⚫⚫さんは、(妊娠)中期になってきたのですが、お産先が決まっていません。紹介状も渡していません。

✔本日、保健センターから連絡がありました。⚫⚫さんは当院にかかる前に別の医療機関にかかっていましたが、そこもある日突然来なくなりました。

✔当院の問診表には初めての妊娠・出産とありますが、保健センターが把握しているだけで、すでに二人子どもを産んでいます。

✔保健センターによると、その二人の子どもは小学生に該当する年齢ですが、小学校には何年も登校せず、所在・安否不明。

✔当院の問診表に書かれていたパートナーはその小学生の実の父親ですが、彼女とは3年以上前に離別し、現在、全く別の居住地。

✔よって、今回、彼女に付き添っていたパートナーは全くの別人。胎児もその新しいパートナーの子どもである可能性が高い。

✔保健センターが彼女に電話をかけるも着信拒否。

✔当院から、パートナーの電話番号にかけるも「現在、使われておりません。」

✔当院から、実母に電話連絡すると、
「あの子とは5年も会ってません。連絡をとってません。」
と言うのみ。

✔当院から本人に電話をかけると、着信音は鳴るが電話に出ず。

✔保健センターから当院に連絡があったことは、本人やパートナーに絶対内緒。彼女と現在のパートナーに知られれば、二度と当院に通院も連絡もなくなる可能性あり。

「彼女から当院に電話があれば、必ず看護師に繋いでください。いかなる理由があっても、電話を切ったり、『折り返しこちらから掛ける』とは言わないでください。どんなに忙しくても、看護師がただちに対応します。彼女と当院の電話のやり取りのみが、今現在、彼女と胎児(と子ども二人以上)の命を繋ぐ、唯一のライフラインだと思われます。」

新型コロナウイルスが終わるまで、
あと25日。

これは、フィクションです。

 ◆自殺を防止するために厚生労働省のホームページで紹介している主な悩み相談窓口

 ▼いのちの電話 0570・783・556(午前10時~午後10時)、0120・783・556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)

 ▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570・064・556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)

 ▼よりそいホットライン 0120・279・338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120・279・226(24時間対応)

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