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【小説】あと58日で新型コロナウイルスは終わります。

~幽体離脱~

アキナは、今朝、生まれて初めて“幽体離脱”を目撃した。

女性専用のストレッチ体操教室の前を通ると、初老のご婦人方が輪になって、話に花を咲かせていた。

「⚫⚫さん、ちゃんとソーシャルディスタンスで順番を待たなきゃダメじゃない(笑)」

輪の中のご婦人の一人が別のご婦人に声をかけていた。

「プププ、大丈夫よ。わたしはあそこにいるから(笑)」

そう言って彼女は、1メートル間隔でテープが貼られている床の上に置かれている一足の靴を指さした。

すると、他のご婦人方が一斉に、

「あら、ほんとうだ(笑) ⚫⚫さん、あそこにいる!」

と、その靴を見て笑いだした。

* * *

コロナ感染「減少傾向に鈍化」 厚労省アドバイザリーボード、3密対策徹底呼びかけ

国内 毎日新聞 2020/9/24 18:50

 新型コロナウイルス感染症対策を検討する厚生労働省の「アドバイザリーボード」(座長=脇田隆字・国立感染症研究所長)は24日、感染状況について、全国で7月末をピークに減少に転じたものの「減少傾向に鈍化がみられる」との分析結果をまとめた。「会食や職場などを介した感染が生じているとうかがわれる」ことが要因で、全国的に感染が拡大しないよう改めて「3密」対策の徹底など警戒を呼びかけている。

 9月16~22日の新規感染者数は全国で3287人と、前週(9~15日)の3731人と比べてやや減少したが、感染経路が特定できない人の割合は48・4%と依然として高い。1人の感染者が2次感染を起こす平均人数を表した「実効再生産数」も全国的にみると「1」に近い値で、感染拡大に転じる可能性もある。

 また、退院後も呼吸機能の低下など「後遺症」のような事例がみられることから、厚労省は既に患者を対象にした調査に乗り出しているが、呼吸苦や味覚障害などの症状を中心に重症度合いや症状の持続期間、原因などを研究していく方針が報告された。【阿部亮介、村田拓也】

* * *

もちろん、アキナには、テープの上に置かれた靴を履いている人間は見えなかった。

「はぁ~。」

思わずため息が漏れてしまった。

体操教室としては、これ以上、教室を閉めていたら経営が成り立たないので、クラスターが発生しないようにあれやこれやと対策をこうじて教室を開いているのにも関わらず、開店を待つご婦人方がこんな態度ではどうにもならない。

むしろ、道路をはさんで斜め向かい側に建つパチンコ店の開店を待つお客さんの姿は、ソーシャルディスタンスを守り、ひたすら無言で待っていて、感染症防止対策をこうじていると感じずにはいられなかった。

新型コロナウイルスが終わるまで、
あと58日。

実体験に基づいたフィクションです。

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