見出し画像

【小説】あと66日で新型コロナウイルスは終わります。

~一人暮らし、独身、子無しは犠牲になるのが当たり前⁉~

毎年、インフルエンザの季節になると、インフルエンザの疑いがある患者さんは個室に案内して隔離し、インフルエンザ検査をそこで行っていたが、検査の結果陽性になると、院内処方を渡しに行ったり、お会計をするのは、「一人暮らし、独身、子無し」のスタッフがするのが、⚫⚫クリニックの暗黙のルールだった。

それが、新型コロナウイルスの疑いがある患者さんが来院したときは、事務長から明確に、
「『一人暮らし、独身、子無し』が率先して対応するように。」
と言われ、それに伴い、該当するスタッフは残業も増えた。

あるとき休憩室で、アキナは自分と同じような「一人暮らし、独身、子無し」の事務スタッフに、

「いや、分かるんだよ。分かるんだけど、それが、私たちの使命なんだけど、でも、正直ときどき何だかなあ~と思う。」

と心境を吐露したところ、そのスタッフは、

「アキナさんたち看護師は常に命がけで凄く大変だと思いますけど、そのことを大きく報道してもらえていますよね? でも、私のような事務は、ニュースにさえしてもらえないんです。」

となみだめで言われてしまった。

* * *

(注)元の記事を大幅に省略しています。

子どもがいないことを理由に不快な経験をしても「なにもしなかった」が半数以上、実態調査が発表された

小酒部さやか | 株式会社 natural rights 代表取締役 2020年9月16日

「女性活躍推進」「一億総活躍社会」の掛け声のもと、育児と仕事の両立が叶うようになってきた。私(筆者)も両立を願って、マタハラ(マタニティハラスメント)を社会問題化し、産休・育休の取得、その後の復帰で働き続けられるよう推進して来た。

しかし、それが「ほかの誰か」へのしわ寄せで成り立っているとしたら、それは本当の意味での「一億総活躍社会」ではない。その「誰か」は今、会社組織の中で「子どものいない人」を指すことが多いように思う。そして、「子どものいない人」のなかには、子どもを積極的に望まなかった人もいれば、流産・死産・不妊治療の経験者といった子どもが欲しかったのに得られなかった人も当然いる。

組織がある方向に進もうとするとき、その余波を受ける人の存在は「ないことにされる」、あるいは「(その人が不利益を我慢することは)仕方ない」とされがちだ。さらに、社会規範や先入観によるマイナスイメージがある場合、当事者の思いを表すこと自体が憚られる。

かつては、妊娠・出産・子育てしながら働く女性の声がかき消されていたが、今は子どものいない社員が声を上げづらい状況のように思う。そのような状況は本来あってはならない。結婚していても、していなくても、子どもがいても、いなくても、すべての人にとって働きやすい社会であるべきで、よりよい職場環境にしていくためには、あらゆる立場の声が必要だ。

本日(9月16日)に、「子どもがいないことを理由に職場で不快な経験をされた男性&女性へのアンケート調査」が発表された。会見した市民団体「ダイバーシティ&インクルージョン研究会」は、「調査は決して対立を招ねくものではなく、真にインクルーシブな組織づくりの一助となることを願って実施した」と述べた。以下に、調査結果とそれを踏まえた企業への要望をまとめた。

(インクルーシブな組織とは、企業内すべての従業員が仕事に参画する機会を持ち、それぞれの経験や能力、考え方が認められ活かされている状態のこと。)

1.不快であったこと

妊娠している自分(相手)が優れていて、当方(私)は劣っていると言われているように感じる会話がよくあった。

妊娠しているのだから仕事上優遇されて当たり前という態度を取っていた。(それは確かにその通り。しかしモヤモヤした。)

「子どもが居ないと分からないよね」と言われた。

「子どもがいて一人前」「子どもを育ててこそマネジメントができる」など、子どもがいないと仕事上の成果が劣るといった意味合いのことを聞かされた。

2.具体的に不利益を被ったこと

長期の出張を当たり前のように言いつけられる

子どもがいるという免罪符のもと、しわ寄せ、残業が押し寄せる

まわりがどんどん妊娠し、出産し、子育てし、その過程において仕事のしわ寄せが「子どもがいないんだから大丈夫でしょ」と私に来た。

産休、育休を取得して子どものいる女性の方が、人事評価が高くなり、昇進しやすい。

3.妊娠中もしくは子育て中の社員からされた不快であったこと

子育て中の社員は、土日夜などの勤務が免除されたため、シワ寄せが独身者や子どものいないスタッフに来た。

その終わらない業務はこちらでフォローしているが、それを当たり前だと思っていた。

「子どもがいないから好きなだけ仕事ができてうらやましい。私は育児で大変なのに」というようなことを言われた。



加害者を見ると、「不快な経験」の最多は女性同僚だが、次いで男性上司が多く、また顧客・取引先等もあり、社内にとどまらない。女性同士の問題ではなく、ビジネス界全体の話だと見えてきた。

「不利益な経験」の内容は、「子どもがいないので、いつも残業していて当然と残業を強いられた」「産休・育休の制度利用者や妊娠中もしくは子育て中の社員の業務のしわ寄せを受けた」が多かった。

(注)元の記事を大幅に省略しています。

* * *

そう言われてみれば、そのスタッフは、受付スタッフや医療事務スタッフの中で唯一、「一人暮らし、独身、子無し」だった。

他のスタッフが突然、子どもの病気や怪我で迎えに行ったり遅刻したり、妊娠による体調不良で休んだり、どんなときも黙々と仕事をしていた。

いつもいるのが当たり前だと思っていたところも正直ある。

「学校が突然休みになって、子どもの面倒をみるために看護師さんが大量に休まざるを得なかったとき、大々的にニュースになりましたけど、医師や看護師以外はニュースさえならなくて、私一人で何日も何日も仕事して、大袈裟だって言われるかもしれないけど……」

そこで彼女は言葉を詰まらせた。

「私、私、ほんとうに過労死するかと思いました。」

「気づいて上げられなくてごめんね。」

アキナはほんとうに反省していた。こんな身近に過労死しそうになっていた人がいたのだから。患者さんを救うのはもちろん大切だけど、一緒に働くスタッフの命も大切だ。

「アキナさんに言えて、スッキリしました。他の人には内緒ですよ。」

入院施設のないクリニックとはいえ、いろんな職種のスタッフの肉体的精神的な犠牲の上でこのクリニックもどうにかこうにか保たれていた。

新型コロナウイルスが終わるまで、
あと66日。

これは、フィクションです。

この記事が参加している募集

たくさんの記事の中からわたしの記事にご興味をもち、最後までお読みくださって、ありがとうございます。 いただいたサポートは、私が面白いと思ったことに使い、それを記事にしたいと思います。