【小説】あと24日で新型コロナウイルスは終わります。
~繋がった電話~
トゥルルルル~♪
その日、何度目かの外線電話が鳴った。受付スタッフが電話に出ると、少し間延びしたような話し方で、女性が質問してきた。
「なんかー、そちらから何回か着信があったんですけどー?」
固定電話の上部には、見掛けたことのある電話番号が表示されていた。受付スタッフは、固定電話の下部に貼られている付箋に目をやった。そこには、保健センターから情報提供があった⚫⚫さんの電話番号が、看護師のきれいな字で書かれてあった。
(やっぱりだ。)
受付スタッフは、⚫⚫さんには知られないように、小さく深呼吸をした。
「お名前をうかがってもよろしいでしょうか。はい、わかりました。看護師と代わりますので、少々お待ちください。」
本来であれば、個人情報の保護だったり、同姓同名の患者さんの取り違えをしたりしないために、必ず、診察券番号や生年月日も聞いていたが、⚫⚫さんに面倒がられて電話を切られては元も子もない。かと言って、⚫⚫さんに、これが特別な意味をもつ電話だとは悟られてはいけなかった。
「はあ~?」
まだ気づいていないのか、相変わらず⚫⚫さんは間延びした口調だった。
(落ち着け、落ち着け。)
受付スタッフは、保留ボタンを押した。以前、緊急で大学病院から電話がかかってきたとき、操作ミスをして電話を切ってしまった経験があるからだ。
「⚫⚫さんから電話が入っています。」
外来の診察室に向かいながら、受付スタッフは看護助手の一人に声をかけた。
「わかりました。」
その看護助手は、受付スタッフとともに外来の診察室に向かった。
(ここまで打ち合わせ通りだ。)
受付スタッフが外来の診察室に着くと、“⚫⚫さんから1番にTELあり”と走り書きしたメモを看護師に見せた。
「先生、×⚫☆♭からの電話に出ます。」
とドイツ語で伝えた。診察中の患者さんに知られないようにするためだ。すかさず看護助手が、
「代わりに診察補助に入ります。」
と医師に伝えた。看護師は、⚫⚫さんのカルテと子機を持つと、他の人の話し声が聴こえない場所まで移動した。
「⚫⚫さん、お待たせしました。そう、こちらから何度か電話しました。前回の健診からちょーっと間が空いていますよね? 『元気にしてるかなー』って、気になっちゃってしまいまして。えっ⁉ 『電話代かかる』? こちらからかけ直ししましょうか?」
看護師は、明るくフレンドリーに対応をし続けた。パートナーの電話が「現在、繋がりません」になることは、聞かないでおいた。⚫⚫さんに警戒されてはならないからだ。当たりさわりのない話をしたり、現在の体調を丁寧に聞いて、⚫⚫さんの緊張を解かせ、こちらを信用してもらうことが先だ。
15分ほど話して、互いにため口になってきた頃、看護師は本題に入った。
「体調も診たいから、健診に来てほしいんだー。うん。今、日時決めちゃおっか?」
こうして具体的な日時を約束した。⚫⚫クリニックは予約制ではなかったが、具体的な日時を決めた方が患者さんも来院してくれるし、もし、来院してくれなければ、その予約日を境に次の一手を講じるしかない。
「また何かあればすぐ電話してくださいね。電話代が心配なら、すぐにこちらからかけ直すから。じゃあ、⬛日⬛曜日、朝の⬛時ね。」
その看護師が電話を切ると、彼女は医師と保健センターに連絡した。
その日の夕方も、出勤している全スタッフを集めて申し送りが行われた。
新型コロナウイルスが終わるまで、
あと24日。
これは、フィクションです。
◆自殺を防止するために厚生労働省のホームページで紹介している主な悩み相談窓口
▼いのちの電話 0570・783・556(午前10時~午後10時)、0120・783・556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)
▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570・064・556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)
▼よりそいホットライン 0120・279・338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120・279・226(24時間対応)
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