最初に取り組むべき過去問【予備試験編】

  司法試験・予備試験合格を目指して勉強を始めると、「過去問」という存在を目にし、耳にする機会が増えると思います。

 法律の勉強を先に始めた人、合格した先輩等の話を聞いてみたり、司法試験や予備試験についてのありがたそうな情報を発信しているSNSのアカウントのつぶやきを見てみたりすると、「過去問は重要」「過去問は早く取り組んだ方がいい」「過去問はみんなやってる」「過去問は全然違法じゃない。俺の師匠の○○さんは…」等と何か「過去問」なる情報商材を売りつけられそうなくらいに「過去問」が推奨されています。

 「過去問」は勉強が進んでから、ある程度形になってからともったいぶる人が意外にも多いのですが、「過去問」の着手は早いに越したことはありません。「過去問」から得られる効用はそれに着手しない場合よりも数倍大きいと思います。「過去問」を解くことの効用については、また別の機会にまとめて記事にするつもりですので、まずこの記事では、「『過去問』を説くとして、まずどの問題からやればいい?」と悩まれている方に向けて「まずはこれを解いてほしい!」という問題を各科目(選択科目を除く)で一問、独断と偏見で挙げていこうと思います。もちろんネタバレなしです。

 独断と偏見といっても単なる好みからではなく、取っつきやすさや基本的な判断枠組み、基本知識の確認ができるかという基準をもって判断していますので、悪しからず。既に過去問の検討に入っている方も基本の確認できる問題の提案としてご高覧いただけると幸いです。


民法:平成28年

 当事者の主張の分析から請求の根拠を特定する、効果発生要件に事実が該当するかの説明をする、事実関係を踏まえて各要件該当性判断にメリハリをつける等基本的な論文の書き方を確認できる問題です。未知の論点や判例の凝った説明等は基本的に必要はないので、他の問題と比べて書きやすい問題だと思います

 この問題を解いて「何を書いたらいいかわからなかった」という感想を持った場合、単にインプット不足という要因も考えられますが、「論点があるはず」「論証を書かなきゃ」等論点主義的発想に陥っている可能性があるので、注意が必要です。

 請求権を特定する思考過程や要件該当性判断のメリハリの付け方の参考として、私が作成した論述例とその点についての補足をまとめてありますので、以下の記事を確認してみてください。

商法:平成26年

 事例中に含まれる行為が会社法上どの制度に位置づけられるかを判断し、その会社法上の手続に瑕疵があるかを検討させ、その瑕疵が会社の行為の効力にどのような影響を与えるかを検討させる、という会社法の基本的な思考方法を確認できる良問です。

 説明に用いる条文や問われている論点、意識しなければならない判例は全て超基本といえるもので、会社法を一周していれば見たことがあるレベルのものと言ってよいでしょう。平成26年が解けなければ会社法のインプットはまだまだ不足している証拠といえます。

 会社法の事例問題を解く際には、事案に含まれる会社がどんな会社で、どんな組織で、どんな局面で、どんな行為をしているか、その行為によって誰が影響を受けるかを把握すること、当該事案との関係で言及する必要のある条文・制度を特定すること、条文をしっかりと読んで事実を当てはめることを意識してください。

 効率的な瑕疵の認定方法やメリハリの付け方を意識して論述例を作成してみました。よろしければ以下も覗いてみてください。

民事訴訟法:平成24年

 この問題で説明しなければならない事項は既判力の範囲一般や相殺の抗弁の性質なので、それ自体は難しくありません(これはネタバレじゃないと思います。事例を読めば何が問われていることは一発でわかる問題ですから。ごめんなさい許してください)。

 ただ、問いに対して答えようとすると一筋縄ではいかない問題です。上記した以外の基本知識の理解が固まっていなければ適切な解答を導くことはできませんし、もちろん上記した基本知識の理解が深まっていなければどのように説明するべきか悩みます。

 このような、「一つの問題に解答するのに他の基本知識の理解が前提になる」「原理原則を指摘できるようになってもそれがどのように活用されるのかの具体的なイメージがつかなければ説明にならない」という民事訴訟法の真髄に触れることができる問題なので、ぜひ平成24年の問題を解いてご自身の理解が確固たるものになっているか確認してみてください。

 基本から説明すること、なるべく事案に肉迫して答えるべきを答えることを意識して私なりの理解を形にしています。ご参考程度に一瞥くれてやってください。

刑法:令和2年

 予備試験の問題を解いたことが無い方は、令和2年の事例の長さに腰を抜かすでしょう。ですが、安心してください。最近はこの長さが普通ですし、令和4年はこれより長いです。司法試験なんて見たら腰だけでは済みません。予備試験を突破するためにはこの長さの事例に対して適切な構成要件を選択して、適切な解釈を示して、事実を当てはめて説明する必要があるのだということをまず自覚しましょう。

 令和2年は検討する構成要件や説明が必要な法解釈、意識しなければならない判例がやや多く、反面説明の難易度はそこまで高くない、総論各論バランスよく論点が振られているという絶妙な難易度の問題であると思います。

 令和2年を使って、定義・規範は考えずに反射神経で書けるくらいでないといけないこと、関連する事実を適切に拾ってそれにあてはめる必要があること、ただ全てをフルスケールで書くのは不可能でありメリハリ付けは必須であることを体感してみて下さい。

 書くべき事項を厚く書き、書く必要性が低いと思ったものを潔く切り捨てて、私なりにバランスを考えて答案を作っています。メリハリ付けの考え方について補足しているので、ご参考までにどうぞ。

刑事訴訟法:平成24年

 刑事訴訟法は問題文が比較的短く、かつ、論点もシンプルなので、どの問題も取っつきやすいと個人的には思っているのですが、分野によってその取っつきやすさは当然変わってきます。平成24年は中でも基本的な論点である捜査の適法性の検討をシンプルに求める問題なので、最初に取り組むとしたらこれかな、と思った次第です。
 ただ、シンプルと言っても、説明が必要な事項はやや多めで、事実をどのように評価するのかで如実に実力差が出るので、奥深い問題でもあります。

 平成24年を解いてみて、「何か大したことなくね?」と思った方、用意していた論証を再現できたことで満足してしまっていないか、胸に手を当てて考えてみましょう。事実が持つ意味を考え抜いて、それを答案に反映しなければ高い評価は望めないということを肝に銘じておきましょう。

 捜査の必要性について具体的に説明することを意識して答案を作ってみました。出題趣旨の読み方についても補足しているので、ご参考までに。

憲法:令和2年

 憲法は大きく分けて法令の憲法適合性を検討する問題と行政の行為レベルで憲法適合性を論じさせる問題の2つの出題方法があります。受験的には前者の検討の方が取っつきやすいと思うので法令の憲法適合性を検討させる問題から令和2年を選びました。

 令和2年は法令の憲法適合性判断の基本的な思考方法を確認するのに最適な問題です。憲法上の権利の制約⇒憲法適合性の判断枠組みの定立⇒個別的・具体的検討、という一般的な流れがしっかり身についているかをチェックできます。令和2年は各段階に論じるべき点がバランスよく盛り込まれていますし、ややネタバレになりますが精神的自由権の性質の評価や制約態様の評価が必要になる問題で(これはノーカウントですよね)、参考にできる判例はどれも百選レベルの超基本判例です。

 法令の憲法適合性の検討では目的手段審査を用いるのが一般的ですが、令和2年はこの審査手法の確認もすることができます。立法の目的とされている獲得法益が明確に記載されているのでそれをどう評価するか(基本権制約に充分な根拠となるか)の練習になりますし、手段は目的達成のために合理的か(目的を促進する関係か、手段として広すぎないか等)という検討の練習にお誂え向きの事情がバランスよく振られているので、事実の使い方、判例との結び付けかたを確認することができます。

法令の憲法適合性の検討方法の一般的な形を意識して論述例を作ってみました。関連判例への言及方法や事実の評価の仕方の参考になれば幸いです。

 令和2年問題を見てざっくり考えたこと、事実の評価方法や判例との結び付けの発想などは以下の記事にまとめてありますので、ご参考までにどうぞ。

行政法:平成30年

 行政法は訴訟選択・訴訟要件に関する問題と本案勝訴要件に関する問題の2つの分野からの出題が多いです。平成30年は設問が2つあり、それぞれがこの2つの分野に対応しているのでバランスよく基本の確認をすることができます。

 設問1は処分性が問われています(設問を見れば明らかに分かるので…ごめんなさい許してください)。処分性の基本的な検討方法や判例の考え方の答案への落とし込み方の確認をしやすい素直な問題なので、平成30年を使って理解度のチェックをしてみましょう。

 設問2は本案勝訴要件が問われています。行政の処分の違法性は、根拠条文の有無、処分要件該当性、効果裁量の有無及びその逸脱濫用の有無という流れで検討していけば漏れはないと思います。平成30年設問2は、この一般的な思考方法の確認をするのに適切な問題になっているのでおススメです。本案の問題のイメージが沸いていない人はまずはこの問題で思考過程を確立してください。

 処分性、本案上の主張についての判断の具体的イメージができない方は以下もどうぞ。

民事実務:平成28年

 民事実務は主張整理と事実認定という二大出題分野があります(他にも民事執行・保全や弁護士倫理)。どの問題も二大出題分野からの出題になってはいるのですが、平成28年は中でも事案の取っつきやすさがあるかなと思って選びました。

 民事実務の問題に適切に解答するためには、民事訴訟法で学ぶ請求、法律、事実、証拠という階層関係や主張立証責任の所在等の基本知識や民法で学ぶ実体法上の給付請求権やその実体法上の要件の理解が必須です。平成28年は不動産物権変動という非常に馴染み深い事例を題材に以上の基本を確認することができるので、民法民訴の理解が充分なのかのチェックとしても有益な問題だと思います。この事案で何が問われているか分からないようでは合格まで先は長いと言っていいくらいの問題なので心してかかってくださいね。

 民事執行・保全分野からの出題はパターン化されているので平成28年以外の問題の出題も確認しておいてほしいところですが、平成28年の問題が最も基本的な出題なのでこの問題で、どんな出題がなされるか確認しましょう。

 最近の事実認定の問題は、特定の事実が認められることについての主張を記載する準備書面を1頁程度で起案させるというものが多い傾向にあります。平成28年の問題は注目すべき事実をピックアップして本人の主張を構成するという基本的な検討方法を不動産物権変動という馴染み深い事案で確認できます。

刑事実務:平成30年

 刑事実務は、ガチガチの事実認定問題の他は刑法刑訴で学んだことを具体的な事案との関係で活用できるかを問うてくる出題がほとんどです。最近の問題を5問程度見れば傾向は充分につかめる出題になっています。

 その中でも平成30年を選んだのは頻出論点がバランスよく問われており、刑事実務の問題のイメージを最もつかみやすいと思ったからです。ほとんどの問題で、刑法刑訴で学ぶ知識が活かせるので、設問をしっかりよんで何が問われているのかをじっくり考え、分からなかった場合は「へ~あの知識ってこんな風に問われるのか」「この手続って具体的な事例でいうとこう現れるんだ」というように手続の具体的なイメージを膨らませましょう。

 過去問とは関係ありませんが、刑事裁判の傍聴に行くのもおススメです。地方裁判所の事件で「新件」と示されている事件を優先して傍聴しましょう。「新件」は第1回公判期日が行われるということですから、手続の最初から見ることができます。事件の種類は何でもよいと思いますが、まずは自白事件(認め事件ということもあります)がいいと思います。自白事件であれば、比較的軽微な事件限定ですが一期日で結審まで行くことが比較的多く、場合によっては同一期日中に判決まで出ます。手続の最初から最後まで見ることができるので公判手続の具体的なイメージがついていないという方はぜひ裁判傍聴に行ってみましょう。

おわりに

 最後までこの記事を読んでくださり、誠に感謝申し上げます。
 何とかネタバレを一切することなく紹介できてよかったです。
 この記事のハートマークに触れると良いことがあると聞いたことがあります。ひとつよしなに。

 以上縷々述べてきましたが、私が挙げた問題の他にも「過去問」なるものはたくさんあります。予備試験以外にも司法試験、旧司法試験の「過去問」もあります。その数の多さに気圧され、渦に飲まれそうになる感覚を抱く方もいるかもしれませんが、大丈夫です。「過去問」はいきなり襲いかかってきたりはしません。淡々と一問一問演習し、復習し、次に活かす努力をしましょう。
 ただ、「充分インプットができてからの腕試しとして残しておく」等先延ばしにする方は「過去問」なる者に寝首を搔かれるやもしれません。「過去問」はできるだけ早く着手しましょう。

 今後も過去問の論述例や頭の使い方に関する投稿を続けていくので、ぜひそちらもご覧ください。

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