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記事一覧

#128 今日は誰にも愛されたかった|谷川 俊太郎・岡野 大嗣・木下 龍也

二人の好きな歌人とあの谷川俊太郎の作品ということで拝読。 連詩という形式は初めてで短歌と詩が交互に紡がれている。 後半は将棋のように「感想戦」が収められている。 創作の背景がよく伝わってきて、思わずニヤけてしまった。 タイトルの引っ掛かり感が魅力的。

#125 みじかい髪も長い髪も炎|平岡 直子

これまでにいくつかの歌集を取り上げてきたけれど、 短歌に興味を持った直接のきっかけである本書はまだだった。 Podcast『いんよう』でサンキュータツオさんが紹介していて惹かれたのだった。 短歌そのものより、あとがきの方が素敵(失礼)なのだけど、例によって5選を。

#119 オールアラウンドユー|木下 龍也

そっちに着目するんだみたいな歌がちらほら。 ややふっくらした本わかる。本の読み方によってふっくらしかたが異なる。 雪とのコミュニケーション。別にペヤングは食べたくならない。 食卓を支えているのは母さん。いなくなるとはっきりわかるんだよね。 うん生きてみよう。

#112 コンビニに生まれかわってしまっても|西村 曜

新鋭短歌シリーズがおもしろくてつい借りてしまう。 同世代だから共感しやすいのだろう。 帯文の「心の底から歌った〈おにぎり〉がある」というのが言い得て妙だ。 図書館の本に帯はないけど。 包みをたたむと丁寧な暮らし感がでていい。 この助手席に座っている人はきっとマルチタスクが得意。 味のするガムをそもそも噛むかどうかよく考えようと。 もうしそ。

#110 これは水です|デヴィッド・フォスター・ウォレス

かぜで欠勤中の平日昼間に一気読み。 といっても薄いのであっという間によめる。 大学卒業式のスピーチの記録。 人はなにかしら崇拝するものがある。 これは無意識で「水」だから厄介だ。 自分のデフォルトに自覚的になること。 そこから開放されて崇拝の対象を自ら選びとること。 それがリベラルアーツを学ぶ意義なんだと。 印象に残ったフレーズを、新年の意気込みにかえて。

#104 うれしい近況|岡野 大嗣

凝った装丁だがカバーを外せず全貌が確認できないのが残念。 情景が浮かんで温かい気持ちに、なる。 油断すると賞味期限は容易に切れる。 強烈な親近感。 品出しのコンテナから欲しいおにぎりをかっこよくもらう方法は全然思い浮かばないけどなんかいい。 これが一番刺さった。惰性から出る勇気を。 第4歌集とのこと。遡らねば。

#101 アーのようなカー|寺井 奈緒美

気付いたら短歌を定期的に摂取するようになった。 セルフケアの一種かも。 本作は筆者のやさしい眼差しがよい。 5選を。

#93 老人ホームで死ぬほどモテたい|上坂 あゆ美

前回の本と同時展開されていた。 タイトルの引力が強すぎて最初に手を取ったのはこちらの方だ。 日常生活の切り取り方がすてき。リアリズム。 筆者のライフイベント順に掲載されていて、物語としても読める。 声に出して笑ってしまう歌もあって爽やかな読後感だった。

#92 水上バス浅草行き|岡本 真帆

青山ブックセンターに行ったら平積みされていてよさそうだったので、借りた。 私は鍋に昆布を入れた記憶はないがていねいなくらしにあこがれている。いい。 自分で自分を肯定すること。他人に肯定してもらうこと。これは生きる条件だ。 前半の語感のよさがあくせく感を際立出せている。つらくていい(つらいい)。 以上、安全な場所からの投稿。

#39 弱いつながり|東 浩紀

批評家で哲学者の東浩紀さんの著書です。 前回、前々回と哲学者つながりですが、本書は非常に読みやすかったです。 ひとつの場所にとどまって、今ある人間関係を大切にして、コミュニティを深めて成功しようとするのが村人タイプ。 ひとつの場所にとどまらず、環境を切り替えて、広い世界を見て成功しようとするのが旅人タイプ。 村人であることを忘れずに、自分の世界を拡げるノイズとしての旅を利用するのが観光客タイプ。 本書ではこの「観光客」になることが推奨されています。 観光客として旅をするこ

#23 シャガクに訊け!|大石 大

今回は小説。 大学の学生相談室を舞台に、社会学部(シャガク)の教員と補佐の学生が、社会学の知識を使って様々な相談に応えながら展開される物語です。 目次を貼ります。 1限目 ラベリング理論 2限目 文化人類学 3限目 認知的不協和の理論 4限目 スケープゴート 5限目 準拠集団 6限目 服従 7限目 自己成就的予言 補講 ステレオタイプ ストーリー自体もおもしろく読めますが、社会学の入門書としても読めます。 大学の生協とかで勢いよく売れてほしい一冊。 おすすめ

#18 空白を満たしなさい|平野 啓一郎

平野啓一郎は、『マチネの終わりに』や『ある男』で、文章の美しさに魅せられてファンになりました。 他の小説は未読でしたが、メルマガで本書の映像化を知り、ゆっくり急いで読みました。 3年前の身に覚えのない死から復活を遂げた主人公が、家族や同僚などとの関わりから、真実を追い求める過程で自分をみつめなおす物語です。 東日本大震災直後に発表された作品ですが、様々な「あたりまえ」の「脆さ」を突きつけられるできごとが続くいま、この作品の価値が高まっているのかもしれません。 平野氏は『私

#16 酒井大岳と読む金子みすゞの詩|酒井 大岳

この番組のおかげで、10年ぶりくらいに金子みすゞの詩に再会しました。 まあ、「大漁」と「こだまでしょうか」くらいしか知りませんでしたが。 みすゞさんの想像力の深さ、まなざしの鋭さに感嘆して手にとった本書。 禅僧の酒井大岳さんが、詩を一つ一つ解説していくスタイルです。 いい話ばかりでした。 「体験」を味わって生きたいものです。

#7 正欲|朝井 リョウ

朝井さんにまたやられました。 『何者』は心の内側をえぐられるような感覚でしたが、本書は視界の外から殴られて、自分のなかの「おめでたさ」をあぶり出されてしまったような感覚です。 誰もがマジョリティとマイノリティをあわせもっており、つまるところグラデーションの違いでしかないのかもしれません。 わかりあえなさに折り合いをつけていくことが、「明日死なないこと」なのかもしれません。 そして想像力の有限性に自覚的になることが、その第一歩なのかもしれません。