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55歳と成った今、改めて考えさせられた。

『生殖細胞の老化は、受精効率、発生確率を低下させます。幹細胞の老化は新しい細胞の供給が悪くなるので、全身の機能に影響が出ます。歳をとるとケガが治りにくくなったり、感染症にかかりやすくなったり、腎臓、肝臓などの内臓の機能が低下する一因となっています。つまり幹細胞の老化が、個体の老化の主な原因の一つとなっています。受精卵が分裂し分化して器官の形成が進んでいき、体が完成すると、後はひたすら古い細胞と新しい細胞の入れ替えを繰り返します。入れ替えの周期は、組織によって異なります。一番短いのは腸管内部の表面のヒダヒダにある上皮細胞で、数日で入れ替わります。皮膚が4週間、血液が4ヵ月、一番長いのは骨の細胞で4年で全てが入れ替わります。ですので、ヒトの体の細胞は4年でほとんど新しいものと入れ替わり「別人」となってしまうわけです――というのは言い過ぎで、徐々に老化した細胞から順番に入れ替わるので、姿形が変化することはありません。加えて、体細胞でも例外的に入れ替えをしない組織もあります。それは心筋と神経細胞です。心臓を動かす心筋細胞は、生まれてから太く大きくなることはあっても数が増えることはありません。脳や脊髄を中枢とし全身に信号を送る神経細胞は幼少期が一番多く、その後は基本的に減っていくばかりです。もし脳の神経細胞が入れ替わったら、記憶が維持できなくなり、おおごとですね。心(心臓と脳)は生涯ずっと変わらないのです!心臓と脳は傷ついたらそれきりですが、他の組織は幹細胞が新しい細胞を作るので、いつも若々しく維持できます。しかし実際には、加齢に伴い機能が徐々に低下していきます。その理由の一つは幹細胞の老化です。新しい細胞を供給するとき、幹細胞は、2つに分裂して一つは幹細胞、もう一つが皮膚の細胞を作ります。皮膚の細胞はまた2つに分裂して今度は2つの皮膚の細胞を作りますが、幹細胞に戻ることはありません。幹細胞は基本的にはいつも一定量維持されています。しかし、加齢とともに幹細胞も老化します。老化した幹細胞は、分裂能力が低下して十分な細胞を供給できなくなります。一番影響が出るのは、新しい細胞を大量に必要とする血液や免疫細胞を作る造血幹細胞などです。免疫に関わる細胞の生産が低下すると、感染した細胞や異常細胞の除去ができにくくなります。~ここで厄介なのは、機能が低下した細胞がそのまま静かに停止したまま死んでくれればいいのですが、中には異常になってしまうものも現れます。一番困るのはがん化です。ヒトの体には約37兆個の細胞があり、そのうち一つでもがん細胞が生き残り、そのまま増殖を続けると、その個体が死んでしまう――つまり他の全ての細胞が死んでしまうことがあるのはご存じの通りです。このがん化は、多細胞生物の持つ最大のリスクであり、宿命と言ってもいいかもしれません。ちなみに単細胞生物では、異常になってもその細胞1つだけが死んでおしまいです。がんはゲノムの変異で起こります。ゲノムの変異は、DNA合成酵素のミスなどによって分裂のたびに蓄積していきます。そのうちに細胞増殖のコントロールに関わる遺伝子が壊れると、制御不能になってどんどん細胞が増殖し、がん化することは容易に想像できます。これは確率の問題で、変異が溜まれば溜まるほど、がん化の確率は確実に上がってきます。本書でも述べたように、ヒトの場合には55歳くらいから、がんによる死亡率が急激に上昇するのはそのためです。生物は多細胞化の進化の過程で、がん化のリスクを最小限にすべく全細胞のクオリティコントロール(品質管理)の機能を獲得しました。つまり、そういう機能を持った生物が選択されて生き残りました。その機能は2つのメカニズムに支えられています。一つが免疫機構で、もう一つが細胞老化機構です。免疫機構は外部からの細菌やウイルスなどの侵入者のみならず、老化した細胞やがん細胞など異常細胞も攻撃し、排除する働きがあります。これらの異常細胞が放出するシグナル因子は、マクロファージやT細胞などの免疫細胞を活性化させて、自分を攻撃して食べてくれるように促し、やがてそれらによって排除されます。これは正常な生理作用であり、私たちの体の中で常に起こっている反応です。ただ免疫細胞が全ての異常細胞を綺麗に取り除いてくれるわけではなく、厄介なのはがん細胞です。がん細胞には変異によって正常な細胞のふりをして、免疫細胞を抑える働き(免疫チェックポイント)を持ち、攻撃を回避するものがいます。免疫チェックポイントとして有名なのはがん細胞の表面に存在するPD‒L1というタンパク質です。PD‒L1を持つがん細胞に免疫細胞(T細胞)がくっつくと、がん細胞と認識されず、攻撃を受けません。そのためがん細胞はどんどん増殖します。そこでこの性質を逆に利用して開発された抗がん剤が、「免疫チェックポイント阻害剤」という新しい薬です。具体的には、PD‒L1やそれと結合する免疫細胞(T細胞)のPD‒1を認識する抗体です。これらの抗体は免疫チェックポイントを阻害し、T細胞を活性化することでがん細胞を攻撃します。PD‒L1を発現しているがんには有効です。京都大学の本庶佑博士は免疫チェックポイント阻害剤を利用した「がん免疫療法」の開発によって2018年のノーベル生理学・医学賞を受賞しました。もう一つの多細胞生物の細胞の品質管理機構は、「細胞の老化」です。免疫機構は異常な細胞を探し回り、見つけて排除しますが、細胞老化は、一定回数の分裂後に老化を誘導して、無制限に細胞が分裂するのを防ぐ役割があります。つまり細胞老化には、活性酸素や変異の蓄積により異常になりそうな細胞を異常になる前にあらかじめ排除し、新しい細胞と入れ替えるという非常に重要な働きがあるのです。これによって、がん化のリスクを抑えているのです。ヒトは老化によって引き起こされる病気で死ぬようになったということをお話ししてきました。これまでの内容をまとめると、細胞が分裂を繰り返すとゲノムに変異が蓄積し、がん化のリスクが上がります。これを避けるため、免疫機構や老化の仕組みを獲得して、細胞の入れ替えが可能になりました。これで若いときのがん化はかなり抑えられますが、それでも55歳くらいが限界で、その年齢くらいからゲノムの傷の蓄積量が限界値を超え始めます。異常な細胞の発生数が急増し、それを抑える機能を超え始めるのです。そこからは病気との闘いとなります。別の言い方をすれば、進化で獲得した想定(55歳)をはるかに超えて、ヒトは長生きになってしまったのです。老化のメカニズムは全て解明されたわけではありませんが、幹細胞は、DNAに傷がつくことで老化が促され、結果として個体を死に導いているようです。ヒト早期老化症についても紹介しましたが、こうした疾患も、ヒトの多様性という意味で生き残ってきた性質と考えることも可能です。老化が死を引き起こすというのは、生き物の中でも特にヒトに特徴的ですが、「進化が生き物を作った」とすれば、老化もまた、ヒトが長い歴史の中で「生きるために獲得してきたもの」と言えるのです。』

人生100年時代なんてイキモノとして想定外の状況を作りだしてしまったのは人間社会であるのは確かだ。更に想定外のヒトビトが55歳未満よりも多数だという事が多数決で意思決定をしている民主主義の弱点を突いてしまっている。55歳と成った今、改めて考えさせられた。

生物としての寿命は55歳!長寿になりすぎたヒトを襲うリスクとは
私達が老化しなければならない深い理由
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/81902

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