リーダーのいちばん大切な仕事は「機嫌よくいること」だと思う
ぼくはマネジメントが苦手です。
マネジメントというか、人を叱るのが苦手なのです。
ぼくは名古屋にある、社員100人ほどのデザインファームを経営しています。先代の後を継いで、4年前に社長になりました。
社長……なのですが、ぼくはいつもみんなから怒られています。「茂森さん、しっかりしてくださいよ」と。先代の社長からは「おまえはもっと部下をちゃんと怒らないとダメだ」といって怒られていました。
でも、人に対して強く言えない性格はもう生まれつきのもので、どうしても変えられなかった。
そんな自分が、それでも社長をやっていくうえで、大切にしていることがあります。
「いつも機嫌よくいること」です。
いつも機嫌よく、話しかけやすい存在でいること。それが、部下に厳しくするのが苦手なぼくなりの、マネジメントのやりかたなんです。
人はつい「機嫌の悪さ」を表に出して、他人をコントロールしようとしてしまいがちです。でもそうではなく「機嫌よくいる」ことで、『北風と太陽』の太陽みたいに、人を動かすこともできるはず。
もし「マネジメントなんてしたくない、部下に厳しくしたくない」という人がいたら「こういうやり方もアリなんだな」って思ってもらえると嬉しいです。
機嫌よくいると「情報」が入ってきやすくなる
リーダーにとっていちばん大切なのは「情報」だと思います。
情報は意思決定に欠かせません。ふつうにしていたら聞けないような情報や、自分にとって重要な情報を知っているかどうかで、意思決定の質は大きく変わります。
だから、ぼくが大切にしているのは「情報が入ってきやすい状態」にすること。
会社の情報はもちろん、ぼくに対する指摘もそうです。「茂森さん、それやばいっすよ」みたいなことを言ってもらうのが大事です。そうでないと、裸の王様になってしまうから。
いつも機嫌よく、話しかけやすい人のところには、自然と情報が集まってきます。そして情報が多いほど、よりよい意思決定ができる。
だから「リーダーが機嫌よくいること」はとても大切なんです。
上司の機嫌が悪いとチームの生産性が下がる
ぼくは若い頃、ものすごく気分屋の上司の下で働いていたことがあります。
その上司に見積りなどの承認をもらいにいくと、その日の機嫌によってジャッジが変わるんです。昨日はOKだったのに、今日はダメって言ったりして。
だからみんな上司の機嫌がいいところを見計らって、承認をもらいにいくようになっていました。チームの生産性をすごく下げていた。「なんちゅう面倒くさい人だ、こんなに無駄なことはない」とずっと思っていました。
なんでこんなことが起こるんだろう。考えてみるとその上司は、みんなが自分の機嫌を気にするようになっていることに、まったく自覚がなかったんです。
話しかけづらく、情報が入ってこないから、改善もできない。これはほんとうに最悪だなと思いました。それで「ぼくは絶対にそういう上司にはならないぞ」と固く誓ったんです。
「話しかけやすさ」もひとつのスキル
……とはいえ、やっぱり人間ですから、調子が出なくて機嫌が悪くなってしまいそうなときはあります。
ただ、どんなに調子が悪くても「話しかけやすい雰囲気」を出すことはできます。
話しかけやすくいることも、スキルのひとつだとぼくは思うんです。
メンバーから「話しかけやすいな」と思ってもらうために、ぼくなりに意識していることがいくつかあるので、ちょっとご紹介します。
①部下の話は絶対に遮らない
ひとつは、部下の話を絶対に途中で遮らないこと。
会社での立場が違えば、見えるものもちがいます。たとえば社長は、会社全体の売上や、中長期の方針まで見えている。部長は部署の売上や、さらに上の人からの評価も見えている。チーム長は、メンバーひとりひとりの事情まで見えている……。
だからリーダーが部下から話を聞くと、ぶっちゃけ「そんなことわかってるよ、でもこっちにも事情があって、きみの言う通りにはできないんだよ」みたいなこともあるわけです。ぼくも、そう思うことは正直あります(笑)。
それでも、メンバーの話は絶対に最後まで聞くようにしています。
「そんなのわかっとるわ!」だけは、絶対に言ってはいけません。それを言ってしまったら最後、次からもう2度と話をしてもらえなくなるからです。
そうなるぐらいなら、あえて「アホ」になったほうがいい。
「あの人はほんと、全然わかってないよなあ」と思われているぐらいのほうが、みんな情報を伝えてくれます。
自分を大きく見せたいとか、尊敬されたいという気持ちはもちろんあります。威厳のある「カリスマ経営者」に憧れていたこともありました。
でも今は、変に賢ぶったり、偉ぶったりしないように気をつけています。
自分が「頼りないな」と思われることよりも、情報が入ってこないことのほうが怖いから。悪いことも含めてどんどんぼくのところに情報が入ってくるように、いつも心を開いています。
ただ、これは決してすごいわけではなくて、ぼくは本当に「アホ」なんです。みんなに助けてもらわないと、なにもできません。カリスマ経営者になんて、なろうとしてもなれなかった。
だからこういうマネジメントスタイルに行き着いたのだと思います。
②話しかけられたら、かならず手を止める
あとはちょっとしたことですが、メンバーに話しかけられたらどんなに忙しくても、かならず仕事の手を止めるようにしています。
相手が「話したい」と思ってくれたタイミングを1回逃すと、もう聞けないことってやっぱりあるからです。
もちろん気分が落ち込んでいたり、体調がよくない日もあります。でも、だからといって「話しかけにくいオーラ」は出さないようにしてます。
話しかけられたら絶対に手を止める。それはべつに、ちょっと調子が悪くてもできることなので、つねに意識しています。
③ネガティブ感情は最小に、ポジティブ感情は最大に
メンバーの相談や愚痴を聞くときは、あまり感情的にならないようにしています。
もちろん共感はするし、丁寧に話を聞きますが、一緒にあたふたしたり、怒ったりすることは基本的にありません。
たとえすごく親身になってくれたとしても「感情的すぎる人」って、実は重要な話をしづらいと思うからです。
いつも一定のテンションでいるほうが「この人なら言っても大丈夫だな。心が乱されることはなさそうだな」と思ってもらえる気がします。
ネガティブ感情はしっかり受け止めつつ、できる限り小さく抑える。逆に、いい報告に対してはオーバーリアクションで返すように心がけています。
④「決める」よりも「決めてもらう」を意識する
ただ話を聞いているだけでは、なにも前に進みません。リーダーは集めた情報をもとに、意思決定をしないといけない。
ただ、ぼくは「自分が決める」より、なるべく「メンバーに決めてもらう」ようにしたいんです。
仕事って「やらされ仕事」になると、モチベーションが下がってしまうと思います。逆に、けっこう難しい仕事でも「自分で決めたこと」なら、みんなやり切れるんです。
ちょっとやらしいのですが、だからこそぼくは「決めてもらう」のが大事だと思っています。
あえて自分の意見を言わずに、情報だけを提示する。それで「どうしたらいいと思う?」と聞いて、メンバーの答えを待つんです。
メンバーからしたら、すごく嫌だと思います(笑)。でもそうすることで、メンバーのモチベーションをいちばん引き出せる気がしています。
もちろん、返ってきた意見に賛成できないときもあります。そのときは「確かにそれもあるかも。あ、でも、こうなっちゃう可能性もない? おれもいま気づいたんだけど」みたいな感じで、それとなく言うようにしています。
⑤失敗をオープンにする
リーダーが表立って引っ張らなくても、みんなが自分からどんどん発言して、チャレンジできる。そういう組織文化をつくるには「失敗への寛容さ」が必要だと思っています。
このあいだ、会社のみんなで「ウェブ解析士」という資格の試験を受けました。
いわゆるデジタルマーケティングの基礎知識を測るもので、ウェブ業界ではけっこうよく受けられている資格です。社内で「みんなでこの資格をとろう」と企画をして、ぼくも一緒に勉強することにしたんです。
他のメンバーはその知識が仕事にも役立ちますが、ぶっちゃけぼくは資格をとっても、ふだんの仕事では使いません。それでも、学ぶ姿勢を見せることに意味があると思って、みんなと勉強会に参加しました。
で、いざ試験を受けたら、落ちちゃったんです(笑)。
合格点に2点ぐらい足りなくて。「うわあ、やばい」と思いました。自動車学校でひとりだけ仮免試験に落ちたみたいな感じです。IT企業の社長なのに、ウェブ解析士の資格に落ちるなんて、めちゃくちゃ恥ずかしい。
でも最終的に「落ちちゃったんだよね」とメンバーみんなの前で言いました。
みんなには散々「なにしてるんですか〜!!」と言われました(笑)。でも、ぼくとしては言ってよかったなと思っているんです。
「チャレンジして失敗したよ、それでもいいんだよ」ということを、身をもって示せたことに意味があるんじゃないかと。
ぼく以外のシニアのメンバーで、もし落ちた人がいたら絶対に恥ずかしかったと思います。でも社長が落ちていると知ることで「まあ、チャレンジしてよかったな」と思ってもらえてたらうれしいです。(開き直ってすみません。汗)
「弱さ」を見せられると安心する
そんなふうに振るまっていたら「頼りない」と思われて、誰もついてこないのでは? と思う人もいるかもしれません。
ただ、人は「弱さ」を見せられると安心するものだと、ぼくは思っています。
社内でもそうですし、お客さんとの関係構築でもおなじです。
相手の悩みや本音を聞き出したいときこそ、まず自分の弱みを言うんです。「ぼく、自分のこういうところをなんとかしたいんですけど、ちょっと教えてください」と。こちらから弱さを見せると、相手も安心して心の扉を開いてくれます。
とはいえ、弱さを見せるだけで終わっては、単なる「アホなやつ」になってしまいます。
だから特にお客さんに対しては「人間的な弱さ」は見せつつ「スキルの高さ」もきちんと伝えるようにしています。
専門分野に関しては、圧倒的な知識を持っておく。お客さんやメンバーから聞かれたら、ここぞとばかりにハキハキ答えられるようにします。
そうすると「話しかけやすいし、仕事は確実にやってくれる人」というポジションをとることができます。次からなにかあったときは「あの人に声をかけてみるか」と思ってもらえるんです。
人は納得しないとがんばれない
ぼくは社長になったとき、所信表明で「社員の成長を起点に考える」という方針を掲げました。
社員一人ひとりが自立して、将来のキャリアを描きながら仕事をできるようにする。それが結果的に、仕事のクオリティにもつながると思っています。
マネジメントするうえで「モチベーションなんて関係ない、仕事なんだからつべこべ言わずにやるべきだ」というスタンスの人もいると思います。でもやっぱり、本人が「絶対にやりたい」って思わないと、成長するのは無理だと思うんです。
それは、ぼく自身もそうだったから。
ぼくは学生時代、ぜんぜん勉強をしませんでした。だからせっかく高校は進学校に行ったのに、受験勉強がすごくイヤで。結局、受験には失敗してしまいました。
初めてしっかり勉強しようと思えたのは、大人になって、キャリアについていろいろと自覚したときでした。
仕事でも同じだと思います。リーダーが厳しく言わなくても、ハートに着火さえできれば、みんな勝手にやるんです。
ぼくは、みんなのこの先の人生の可能性を、なるべく広くつくってあげるのが、マネジメントをする人の責任だと思っています。
だからやっぱり、一人ひとりが人生について考えて、ちゃんと納得したうえで「仕事をがんばろう」と思ってほしい。ぼくががんばって無理やりやらせるんじゃなく、相手が自力でがんばる。自分でやれるようにしかけていく。
そういうスタイルで、いい会社をつくっていきたいなと思っています。
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