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良い作物を『売れる作物』に変える農業経営のヒント #農業を考えてみた2

私は農業経営に少しだけ関わらせていただいています。畑を見て回りながら、農家の皆さんとお話をさせていただくと、さまざまな工夫や努力を積み重ねて、良い作物を育てている姿がよく伝わってきます。
しかし、どれだけ良い作物を育てても、それだけで市場で選ばれるとは限りません。農業経営では、商品の価値を正しく伝え、適切な顧客に届ける仕組みを作ることが欠かせません。

本コラムでは、「収益構造の理解」と「ターゲットの明確化」という2つのポイントに焦点を当て、良い作物を『売れる作物』に変えるための農業経営のヒントをお伝えします。




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1. 良い商品を作っても勝手に売れるわけではない

農家の皆さんは、毎日丁寧に作物や商品を育てるために努力を重ねています。畑を見せてもらうと、草ひとつ生えていないきれいな畑や、日々工夫を凝らしながら取り組む姿が目に浮かびます。「良いものを届けたい」という思いが、本当に伝わってきます。
しかし、どれだけ良い商品を作っても、その価値が消費者に伝わらなければ、市場で選ばれることはありません。

市場には、さまざまな産地や農家の皆さんの商品が並びます。プロが見れば違いが分かるものも、一般の消費者にはなかなかその違いが伝わりにくいのが現実です。だからこそ、「どんな工夫をして作られた商品なのか」「どんな魅力があるのか」を、消費者に分かりやすく伝えることがとても大切です。商品の特徴や価値がきちんと伝われば、消費者はその商品を選ぶ理由を見つけられます。

さらに、その価値を伝えるためには、販売戦略や流通の仕組みも必要です。言葉やデザイン、メディアなどを使って「伝える力」を育て、商品を届ける仕組みを作ることで、良い商品が『選ばれる商品』へと変わっていきます。

2. 良い商品の求められる品質と収益構造を理解し、誰に届けたいのかを明確にする

商品が市場で売れ続けるためには、求められる品質と収益構造をしっかりと理解し、届けたい相手を明確にすることが大切です。これらは、持続可能な農業経営を支える大切なポイントです。

品質については次回のマーケティングで詳しくお話しする予定なので、今回は収益構造を理解することと、ターゲット(誰に届けたいのか)を明確にすることについてお伝えします。


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(1) 良い商品の品質と収益構造を理解する

1kgあたりの収益構造を理解していますか?
作物を作って販売する際には、その1kgあたりの収益構造をしっかりと把握することがとても大切です。自分が販売している作物で、どれくらいの利益を得られているのかを常に把握しておくことは、さまざまな状況に対応して儲けるための明確な指標になります。

上の図は、この収益構造を分かりやすく示したものです。例えば、「平均単価(P)」から「変動費(vP)」を引いた金額が付加価値(mP)として残る仕組みになっています。この付加価値が大きいほど、経営に余裕が生まれます。肥料代や水代、栽培にかかる人件費など、どれくらいの変動費がかかっているのかを把握することで、コストを抑えたり、より効率的な経営ができるようになります。

この収益構造をしっかりと理解するためには、「いくらで何キロ売れたのか」、そして「その作物を育てるためにどれくらいのコストがかかっているのか」を、日々きちんと記録しておくことが欠かせません。


損益分岐点を把握していますか?

損益分岐点とは、売上が経費と同じになるポイントのことです。この時点では、利益も損失もゼロの状態になります。簡単に言うと、これ以上売上を上げれば利益が出る、これ以下なら損失が出るという経営の分かれ目になります。

収益を安定させるためには、この損益分岐点を知っておくことがとても大切です。損益分岐点を理解していれば、最低限どれだけ販売しなければならないか、具体的な数量がわかります。もちろん、単価が変わったり、付加価値額が増減することもありますが、このポイントを把握しておくことで、季節や顧客に合わせた販売戦略を立てやすくなります。

損益分岐点を知ることは、日々の経営の指針を持つための大切な一歩と言えるでしょう。


つい「どうしたら商品が売れるか」と考えがちですが、その前にまずやるべきことは、自分自身の状況をしっかりと分析することです。
自分の強みは何か、収益構造はどうなっているのか、これをきちんと把握していないと、商品が売れても十分な利益が残らないことがあります。

農業を続けていくためには、しっかりと利益を残すことがとても大切です。そのためにも、まずは収益構造をしっかり理解することが、最初の一歩となります。


(2) 誰に届けたいのかを明確にする

商品を効果的にアピールするためには、ターゲットを具体的に考えることが大切です。特に農作物は「食べる」ことが前提なので、誰が食べるのかどんな調理方法なのか誰が調理するのかどこで食べるのかどんな場面で食べるのか一緒に出される食事や飲み物は何かなどをイメージしてみると、届けたい相手がはっきりしてきます。

例えば、こんなターゲットが考えられます:
4人家族の家庭で、晩酌のおつまみとして楽しむ夫婦
家族の団らんの中で気軽に楽しめるような商品なら、親しみやすさや手軽さをアピールすることがポイントになります。
高級飲食店で腕を振るう料理人
プロの目にかなうような品質や、特別なこだわりが伝わると、その商品が料理の素材として選ばれやすくなります。
健康志向の若い世代
ヘルシーさや栄養価の高さ、安心して食べられる生産方法などを伝えることで、興味を引くことができます。

こうしてターゲットを明確にすることで、それぞれのニーズに合ったアプローチがしやすくなります。商品の魅力がきちんと伝わることで、結果的に販売の成功につながるのです。


3. まとめ:これができて、具体的な販売戦略の確度が上がる

収益構造をしっかり理解し、誰に届けたいのか(ターゲット)を明確にすることで、商品が消費者に選ばれる可能性は大きく高まります。
これらの準備が整っていれば、次に進む販売戦略やアプローチも、もっと効果的に進められるようになります。

収益構造を把握することで、どれくらい利益が残るのかが分かり、経営の安定につながります。そして、ターゲットを具体的に考えることで、その人たちに合わせたメッセージを届けることができます。この2つのポイントは、農業経営をしっかりと続けていくために欠かせない土台です。

次回は、この土台をもとに、マーケティング戦略や具体的な手法についてもっと詳しくお話ししていきます。ぜひ引き続きご覧ください!


経営コンサルタント
新田繁睦/ARATA Shigechika

農業経営を考えてみた
#1 農業経営を俯瞰してみた
#2 良い作物を『売れる作物』に変える農業経営のヒント
#3 農作物の魅力をしっかり伝えるための3つのアプローチ


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