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10月に読んだ本から

紅葉の季節になってきました。

毎週末覗くイオンモール内にある未来堂書店の店頭には、芥川賞、直木賞を受賞した作品が積み上げられている。目立つ場所にドーンと置かれているのは分厚い「テスカトリポカ」。カバー写真も目立っており、近々読みたいと思うが単行本はちと高いなあ。

先日、受賞を目指す作家達の戦いと、どの作品が受賞するかによって売場の準備をする書店の裏側がNHKで放映されていた。発表前から番組は候補の作家たちを追いかけており、各作家の心情がよく分かって面白く興味深かったが、受賞作を店頭にいかに早く、そして多く陳列するかで売上が大きく左右される書店の熾烈な争いが極めて面白かった。

10月は久々にビジネス書に多く触れた。どんどん進化するテクノロジーには驚く。ついていくのがやっとかな。小説はとりあえず2作。

「愚者の毒」宇佐美まこと 第70回日本推理作家協会賞受賞作

物語は老人ホームに暮らす1人の女性の話から始まる。表紙は男女中学生(高校生?)のイラストなので、何十年か前の過去に遠因があるのかと想像する。女性の語りが2015年、そして次の章で1985年にこの小説の主人公となる2人の女性、石川希美と香川葉子が登場する。2人は、職業安定所において、名前の取違えという安定所のミスにより知り合うことになる。そして葉子は亡くなった妹夫婦の子供、達也を連れている。そんなところから物語は始まり、徐々に登場人物が増えていく。1985年当時の話と、老人ホームに居る2015年、そしてはるか以前の1960年代の筑豊の田舎を舞台にした場面と、徐々に線でつながっていく。過去の不幸から逃亡する姿は、東野圭吾の「白夜行」を一瞬思いだす。

宇佐美まことの小説を読むのは初めてだったが、本作は読む手を休ませることなく読み切ってしまった。それほど深く読者を引き込む力量の発揮された彼の代表作であろう。特に筑豊での話は辛くもあり悲しくもあり、読んでいて切なくなった。

実は私も中学までは炭鉱の町に暮らしており、ガス突出事故も間近で見た経験を持つ。その北海道の片田舎の町のある路線には数軒のヤマがあり、各ヤマにて1度はガス爆発や突出事故が発生していた。亡くなった鉱夫もいれば、肺に病を負った鉱夫もいた。それほど事故と背中合わせにある辛い仕事である。しかし、その仕事が当時の日本の高度成長を支えていたのも事実である。

小説の最後に、途中からぽつっと消えてしまった1人の人物が再度現れる。その姿を見て少しほっとするが、しかし結末はやはり悲しい。本小説を読み、宇佐美氏の他の作品も読みたくなった。近々挑戦することにしたい。


「私の男」桜庭一樹 第138回直木賞受賞作

まだ読んでいない積読の1冊として本棚に並んでいた。同様に積読の仲間である角田光代の「対岸の彼女」とどちらにしようか迷ったが、先に本作を選んで読んだ。取り上げたテーマと内容には賛否色々な意見があろう。構成として面白いのは時間を逆行させて書いていることだ。「今」から始まり「過去」へ遡っていく。そこで読者にとって新たな事実が、次々と分かってくる。しかし読後の後味は決して良くなかった。小説の中の世界とは言え「愛」と言えるのであろうか?私にはそうは思えない。直木賞受賞当時の選考委員の評価も見たが、やはり意見はけっこう割れていた。


「ダブルハーベスト」堀田創、尾原和啓 共著


今や有名となったAI企業「シナモン」の執行役員の堀田氏と、こちらも「アフターデジタル」で有名は尾原氏によるAIを企業戦略に!をテーマにしたビジネス本である。シナモン代表の平野未来氏は岸田内閣の「新しい資本主義実現会議」の有識者15人のうちの1人である。

AIの進化とこれからのビジネスのあり方、世の変革と進む方向を示唆されたような気がする。ちょっと前までは大量のデータを覚えさせて提案させていたAIが、今や僅かなデータや画像で学習してしまい、人間に提案したり教えてくれる。使えば使うほどデータを集積し、更に精度が上がる。ヒューマン・インザ・ループ、エキスパート・インザ・ループという概念が今後の企業戦略として重要で、いかにこれを回して行くかが、これからの勝敗を分ける。コスト削減のみならず、この進化しアップデートしていく機能を戦略に落とし込んでいかに売上拡大につなげていくか。ビジネスマン必読の1冊である。

アマゾンやメルカリで本や商品を購入(メルカリは中古本)する時のレコメンド機能はさぞ売上拡大につながっているだろうと想像する。個人的にもレコメンドから似たようなジャンルの本を勧められ、ついつい買ってしまうことも何度かあった。


「ネクストカンパニー」別所宏恭著

簡単に報告書を作成できるcyzen というクラウド型のモバイルサービスを提供する企業の代表である別所氏の著作。価値観の差で商品の差別化を行い、いち早くマーケットを抑えて高く売ること。それこそが企業の生産性を上げる施策であると。長い間下請けで価格圧力に負け、低い生産性に甘んじたために存亡の危機に瀕した経験を持つ著者の言葉は重たい。下請けでは永遠に儲からず企業価値を上げられない。

後半でキーエンスとアイリスオーヤマの事例が頻繁に出てくる。私の印象に残ったのはキーエンスというベールに包まれた高収益企業の話。営業マンは取引先と面談した後、5分以内に商談記録を書く。5分以内でないと細部を忘れたり、自分の主観や「この雑談は記録しなくてもいいのでは」といった判断が入ってくる。雑談にこそ価値観の差のヒントがある。しゃべらせて情報を取ること、そしてそれを営業担当全員が閲覧できるようシステム化する。商品企画の担当者が複数でそれを見て商品開発のヒントにする。スピーディに開発した商品を、価値観の差があって先行者のいない場所にリリースする。この動きを迅速にすることで、ライバル不在の中で高値でも売れる。同社の驚異的な営業利益率の秘密である。



「ハイパワーマーケティング」ジェイ・エイブラム著

タイトルに惹かれて読んでみた。マーケティングの業界のカリスマと言われる著者の2017年に書かれた著作であるが、売ることの根源を説いているとは思う。しかし4年経った今はどうしても一昔前のものに思えてしまう。それは本作というよりも、過去何年もかかって変わってきたものが、短期間に猛烈なスピードで変わっていることを示している。10年前の東日本大震災のときにラインは無かった。あればあれほど地震直後に公衆電話の前に行列はできなかったはずである。10年経って現在はどうか。あらゆる通信手段が進化を遂げ日常にもビジネスにも無くてはならないものになった。この先、どんなスピードで進化していくのか。私が60代半ばになると5Gが普通の世界になり、その時に何が実現できているのか? 恐ろしくもあるが、しかしワクワクとした期待感はその何倍もある。


「昭和の映画絵看板 看板絵師たちのアートワーク」 貴田奈津子著

日経新聞に紹介されていた記事を見て、懐かしさがこみ上げてきて手に取ってみた。もはやこのような映画の絵看板を見ることはなくなった。製作者の技量は、極めつけの芸術であると私は思う。

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太陽がいっぱい

北海道の田舎の町に唯一あった映画館の前でよく見た絵看板を思いだす。「ロッキー」「燃えよドラゴン」の絵看板は、今でも田舎の町の風景とともに脳裏に蘇ってくる。

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