マガジンのカバー画像

ショートショート置き場

15
2000字〜1万字以下のショートショート置き場です。よろしくお願いいたします。
運営しているクリエイター

記事一覧

ショートショート「心の洗濯屋『純心』」

ショートショート「心の洗濯屋『純心』」

《メーデー! メーデー!》
 
 今の私を何かに例えるなら、濁流に巻きこまれて沈没しそうになっている船だ。
 世の中、沈む瀬あれば浮かぶ瀬あり。「川の流れのように、人生には良いことも悪いこともある」らしいが、自分には沈む瀬しかないのかもしれない。何故なら最近、とてもショックな出来事が立て続けに起きたのだ。正直、限界である。
 だが、しがないサラリーマンの私が「心身ともに限界だから休みます」なんて言

もっとみる
ショートショート「私たちのIF」

ショートショート「私たちのIF」

「ねぇ、ミコトちゃん。今日は何して遊ぶ? おままごと? じゃあ、僕はお父さん役をやるから、ミコトちゃんはお母さん役ね……いい? じゃあ遊ぼ!」

 もうすぐ六歳になる息子の大翔は楽しそうに、ミコトちゃんとおままごとで遊び始めた。
 しかし、この場には大翔以外には私しかいない。大翔はずっと虚空にいる見えない「ミコトちゃん」に向けて喋り続けて、遊んでいるのだ。

「『イマジナリーフレンド』じゃね?」

もっとみる
ショートショート「額縁の中の真実」

ショートショート「額縁の中の真実」

 僕は書斎に設けられた、たった一つの長方形の窓──「ピクチャーウインドウ」から見える景色を、ボーっと眺めていた。

 「ピクチャーウインドウ」とは、窓から見える外の景色を一枚の絵画と見立てることであり、基本的に開け閉めできない嵌め殺しの窓のことだ。これで景色が町中だったら、通る車や人を観察し、変化を楽しむことができただろう。
 だが、ここは田舎で間取りの関係で見えるのは、緑豊かな裏庭のみ。そのため

もっとみる
ショートショート「生まれた糸の先に」

ショートショート「生まれた糸の先に」

 その駄菓子屋の話を真也が耳にしたのは、クラスの噂好きの女子たちの会話からだった。
 なんでも駄菓子屋の店主は、「失せ物探し」の名人らしい。それを聞いた真也は、学校の帰りに件の駄菓子屋へ向かった。

 その駄菓子屋は、彼が通う小学校の近くにあり行ったことはないが、同じ学校の生徒たちが時々買い食いしているのは知っている。
 今日はまだ誰も来ておらず、真也にとっては好都合だった。恐る恐る中に入ると、奥

もっとみる
ショートショート「タルト・タタン」

ショートショート「タルト・タタン」

 部屋には、砂糖を煮詰めた蜜のような甘い香りが漂っている。
 香りのもとは、オーブンの中にあるリンゴふんだんに使った焼き菓子、「タルト・タタン」だ。

「隼人くん、待ってて。もうすぐ焼けるから!」

 可愛らしいエプロンを着た花音が、榎本に言う。こうして花音の部屋で手作りのお菓子を振舞ってもらうのが、恋仲である二人の週末の過ごし方だ。
 恋人の部屋で、可愛い恋人と一緒に美味しい手作りのお菓子を食べ

もっとみる
ショートショート「旅の出発地点」

ショートショート「旅の出発地点」

「『人生とは旅である』って言葉、可笑しくないか?」

 と、先生は独り言のように呟いた。

 ──あぁ、また始まった。

 私は声に出さず、心の中でぼやく。
 『先生』と言っても、私と彼はほぼ年は変わらず、生徒と先生の関係という訳でもない。彼は年がら年中この六畳半の部屋に引きこもっている無職──本人は高等遊民だと否定──で、自身の厭世観のせいで社会から爪弾きされた変人だ。 

 しかし、私は彼を尊

もっとみる
ショートショート「わがままな神さま」

ショートショート「わがままな神さま」

 幼心にも自分の身勝手さというものを覚えたのは、きっとあの時だろう。

 今から二十年前の小学二年生の夏休みのことだ。僕は一人、探検していた森の中で小さな池を見つけた。
 水は透き通っていて、小さな魚やカエルがすいすいと泳いでいる。靴を脱いでズボンの裾を上げ、僕は慎重に池の中に入った。水位は膝上ほどで、それほど深くはないようだ。
 一通り遊んだ後、池の見た目に少し物足りなさを感じた僕は、家からスコ

もっとみる
ショートショート「天井の果て」

ショートショート「天井の果て」

 小学四年生である弟の翔太は、大の宇宙好きだ。彼の部屋は、宇宙に関する書籍、ロケットの玩具、天体望遠鏡……と、嗜好が存分に表されている。
 そんな翔太は今回、苦手な国語のテストで百点をとってきたご褒美として、壁紙を買ってもらった。しかし、まだ小さな弟に貼れるわけがなく、貼る作業は兄である俺がする羽目になる。

「兄ちゃん、ちゃんと貼ってね!」
「何で天井なんだよ。普通、壁だろうが」

 俺はぶつく

もっとみる
ショートショート「本の虫、募集中!」

ショートショート「本の虫、募集中!」

 その求人情報を目にしたのは、本当に偶然だった。

 チラシには、「本の虫、募集中! 仕事内容は本を読むだけ! 希望者は以下の場所に──」と、簡潔に書いてある。

 僕は自他ともに認める「本の虫」だ。

 現に今、求人情報を見ているのも、本に夢中で会議に遅刻してクビになったからだ。彼女からも「私と本、どっちが大切なの!?」と聞かれ、「本!」と即答した僕は強烈なビンタを一発もらい、フラれている。
 

もっとみる
ショートショート「人形の国でお伽話を」

ショートショート「人形の国でお伽話を」

 「いってきます」

 私は仕事道具を持って、『コッペリア』に向け出発した。

 『コッペリア』とは、人々に愛された人形が最後にたどり着く場所。人形たちの『ニライカナイ』『理想郷』『楽園』などとも呼ばれているが、動く人形を題材としたバレエ作品からとった、この名が私は好きだった。
 そして『コッペリア』では、人形たちは独りでに動き、その身が朽ちるまで暮らす。
 私の国の学者は長く人間に愛されたため、

もっとみる
ショートショート「お幸せの砂糖」

ショートショート「お幸せの砂糖」

 結婚式に出席した、帰り道。
 後輩は可愛いお嫁さんをもらって、幸せそうだった。引き出物が二人の写真入りのマグカップなあたり、ラブラブな新婚夫婦という感じだ。
 しかし、俺も嫁への愛は負けてはいない。今日もきっと、美味しい料理を作って待っているはずだ。

「おかえり!」

 ほら、俺がドアを開ける前に出迎えてくれる。 
 可愛い奴め──と、次の瞬間、俺はいきなり謎の粉をかけられた。

「……え?」

もっとみる
ショートショート「断罪の島」

ショートショート「断罪の島」

※少しグロ注意です。

 ──『赦し』とは、過去から今における『自分の在り方』を、誰かに肯定してもらうことだと、私は思うのだ。

「カンザキさん。そろそろ準備ヲ」

 島の開けた場所で長方形の木箱を並べる現地の人たち。それを見た案内人のSの片言な言葉を聞き、私は仕事道具のカメラを取り出す。

 今回、Q国に来たのは、この島──彼らにとって聖域である──にしか生息しない鳥たちを撮るためだ。次々に箱の

もっとみる
ショートショート「魚とガラスの靴」

ショートショート「魚とガラスの靴」

「玄関のリフォームですが、『リペアフィッシュ』はいかがでしょう?」
「『リペアフィッシュ』?」

 実家をリフォームしようと業者と話していたら、謎の単語が出てきたため、私は思わず聞き返してしまった。

「お客様、『ドクターフィッシュ』はご存じですか?」
「足の古い角質を食べてくれる魚ですよね」
「なら、話は早い。この『リペアフィッシュ』は『ドクターフィッシュ』のように、『物の疲れ』を食べてくれるの

もっとみる
ショートショート「以下、サイエンス雑誌より抜粋」

ショートショート「以下、サイエンス雑誌より抜粋」

 えぇ? インタビュー? 私に? いやだわ……あぁ、ちがうの。拒否したんじゃなくて、驚いてしまって。
 こんな、なーにもない宇宙で自分以外にも会うのが久しぶりなのに、インタビューだなんて。本当に私でいいの? 
 そんなに勢いよく首を縦に振らなくても……「あなたに会うために来た」? ホホホ、そんなお世辞はいいのよ。でも本当だとしたら、こんな遠くまでご苦労様ね。

 さて、何から話せばいいのか……名前

もっとみる