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「働く人の気持ち」を一番に。──千成亭風土・清水達也さん

「僕は、人事って会社を一番変えられるポジションだと思うんです」

そう話してくれたのは、滋賀県彦根市を中心に「近江牛」の専門店を展開する『千成亭風土』の人事部長、清水達也さん。25%だった同社の離職率を、わずか2年足らずで7%まで下げた立役者です。

「決して特別なことをやったわけではありません」と話す清水さんですが、実際に従業員満足度も採用状況も大きく改善。現場を大切にし、改善のサイクルを回し続ける姿勢が大きな成果を生んでいます。

『しがと、じんじ。』の新連載、#ローカル人事の背中 の第1弾として、清水さんの歩いてきたキャリアと、『人事』という仕事への向き合い方をお聞きしました。

“働く人の気持ち”に寄り添う。清水さんの原点


——清水さんの言葉からは、『人事』という仕事に対しての強い想いが感じられます。千成亭風土(以下、千成亭)の前から、ずっとこの仕事をされてきたんですか?

いえ、実は純粋に『人事』として働いた期間は短いんです。もともとは大手通販会社にいて、長く物流の仕事に携わっていましたね。

そこで最終的に物流のセンター長を務めたとき、数百人いるパートさんやアルバイトさんの面談をひたすら繰り返しました。「働いてる人の気持ちを大事にしよう」と思い、現場と上層部のコミュニケーションをつくっていった当時の経験が、今につながっているのかなと思います。

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——少し意外なキャリアでした。では、そのあと転職されて人事の世界に?

そうですね。2016年にそこを希望退職して大阪の物流会社へ入り、人事責任者をさせてもらいました。

新卒採用を軌道に乗せたり、社内の就業規則を改定したり、働く方の不満を取り除くようなことを色々とやったりして、35%だった離職率(期首の社員数に対して、退職した人数)が、3年ほどで「10%」ぐらいまで下がったんです。

——すごい成果ですね……!何が一番のポイントだったと思いますか?

採用の際、会社の「良い面」だけじゃなくて、きちんと「悪い面」まで伝えるようにしたことでしょうか。退職者の多くが半年以内に辞めていた状態を見て、「面接時のイメージと入社後の現実」に大きなギャップがあるんだなと気づいたんです。

また、採用後もいきなり現場に入らせるのでなく、地方採用の職員も含めて本社に1日研修に来てもらい、「組織文化」や「大事にしていること」などをきちんと伝えるようにしました。配属後も1ヶ月、3ヶ月、半年と丁寧に面談を重ねると、1年後には離職率が半分以下まで下がりましたね。

——物流センター長時代の経験が、生かされた結果だったんですね。

あとは、物流の仕事につきまとう“3K”のイメージを変えることも意識しました。女性社員をどんどん入れて、体育会系の男性以外でも働けることを証明すると、職場が多様になり、雰囲気が良くなる。会社も元気になるんです。

そうやって、どうすれば社員が「入ってよかった」と思える会社になるかを考えていきました。『人事』こそが会社を変えられる存在だと実感したのも、このときかもしれません。

「満足度調査」と「現場への足運び」で得た信頼


——その後、2019年に千成亭さんへ転職されます。どんな経緯だったんですか?

当時の千成亭は、上田社長の熱意などはありつつも離職率が高くなっていて、採用に困っていました。大阪の物流会社の、過去の状態と重なる部分があったんです。人材会社を通じて「人事責任者として来てほしい」とオファーをもらいました。

——入られて、最初にどういったことから始められましたか?

まず初めに「従業員満足度調査」を行いました。入社後すぐにあった社員集会の場で、「アンケートを取って、結果を発表します!」と全員の前で宣言したんです。

もちろん実際に、調査の結果をすべての従業員に共有しました。経営陣にもコメントを一つひとつきちんと読んでもらって。そこから、挙がった課題を順番に改善していきました。

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【実際に社内で回覧されている「従業員満足度調査」の結果の一部】


——そういった調査は、
以前はなかったのでしょうか?

外部のコンサルティング会社を通じて行ったことはあったんですが、改善まで結びつけられていなかったんです。また、結果を公表することもしていませんでした。

やっぱり会社としては、都合の悪い情報は見せたくないんですよね。その心理はすごくわかるんですが、従業員の方にしてみれば「アンケートされただけ」と不満に思ってしまう。むしろ公表して「この部分から改善しますよ」と示し、実際に改善を目にしてもらうことで、満足度は自然と上がっていきました。

——「現場の声を聞いてくれるんだ」という信頼につながるんですね。

あとは、何ヶ月かかけて全従業員と面談をしました。各店舗に出向いて、アルバイトを含めて200名ぐらいを対象に一人ひとり話を聞いていって。

面と向かって話すと、やっぱり距離が縮まります。潜在的な不満なども聞き出せるようになる。「清水ほど現場に顔を出す人事は今までいなかった」という声も聞くようになって、信頼関係ができていくのを肌で感じました。

採用に注力し、会社を変えていく


——ヒアリングを重ねたあと、実際にどんな「改善」をされていったんでしょうか?

まずは「休みが取りづらい」「帰りたいときに帰れない」といった声が挙がる店舗に対し、人をどんどん増やしました。僕が来て半年間で、アルバイトに50人は採用したんじゃないかと思います。

社員の残業が減ったり休みが取りやすくなったりするだけで、従業員満足度は大きく変わります。「今の人事に言えば、人は確実に入ってくる」という認識を全体に行き渡らせる意味でも、これは大きな効果がありました。

——とにかく、タイムリーに人を採用すると。

おかげで、急な退職も減りました。うちの場合は「年末」の繁忙期が長時間労働になりがちで、年明けにパタパタっと退職者が続く傾向があったんです。

それを何とかしたいと、短期アルバイトや派遣社員の方にも来てもらって、「これでもか」というぐらい人を増やして(笑)。すると、年始の退職が目に見えてなくなったんです。結果、25%だった退職率が1年で11%に、昨年は7%まで下がりました。

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——社員さんの採用にも、大きな変化があるとお聞きしています。

そうですね。近江牛の魅力や、千成亭という職場の良さを必死に伝えてきたこともあり、「ここで働きたい!」という強い意志を持った人たちが集まるようになったと感じます。

また、最近は新卒採用にも力を入れているんです。これまでなかなか人が集まらなかったんですが、「ならば会いに行こう」と大学に出向いて、一人でも多くの学生さんと話すようにして。

結果、次の春はすごく優秀だなと思う人たちに来てもらえることになりました。今いる社員の方にとっても、「うかうかしてられないな」と良い刺激になることを期待しています。

——こういった清水さんの取り組みに、経営側からはどんな評価がされていますか?

基本的にはすべてを信頼して任せてもらっています。僕が好きにやり過ぎて言われない面もあるとは思いますが(笑)、従業員満足度の結果にも実際の残業時間などにも、数字として実績が出ていますので。

もちろん、大きなことをやる前には必ず経営サイドと相談をしています。話をするなかで、取締役に「会社が変わってきたね」などとはっきり口にしてもらえると、本当にうれしいですね。

ローカル企業こそ、素直に「魅力」を語ろう


——想いをベースに、実践を重ねて、きちんと結果を出す。1本の芯が通ったお話で、とても参考になります。改めて、清水さんが『人事』として大切にしていることを教えてください。

やはり「現場で働いてくれている人」を一番に考え、足を運び続けることでしょうか。

僕の給料って結局、現場の方が一生懸命働いてくれるから出てるんですよ。その人たちにどれだけのサポートができるか、どれだけ働きやすい環境をつくってあげられるかこそが、人事の仕事だと思うんです。問題は常に現場にあることを、忘れてはいけないと考えています。

——ローカルで活動する人事の方に向けて、メッセージをいただくことはできますか?

「ここには何もない」という思考から、ぜひ抜け出してほしいと思います。

特に滋賀県では、大人も学生もみんな「滋賀には何もない」「琵琶湖しかない」って言うじゃないですか。僕はそんなことないと思うんです。近江牛だけじゃない、おいしい食べ物もたくさんあるし、豊かな自然だっていっぱいある。良さを見て、それを言葉にしてちゃんと「自慢」してあげてほしいんですね。

地方企業、中小企業に対しても同じことが言える気がしています。福利厚生など大企業に敵わない部分はあるでしょうが、人の魅力、製品の魅力、技術力……勝負できるポイントが、どんな会社にもあるはずなんです。

それをきちんと見つけて、「うちの会社見においでよ」「うちの会社のスタッフがどういう表情で働いてるか見てみてよ」と熱意を込めて伝えていけば、必ず人は来る。僕はそんなふうに考えながら、人事の仕事をしていますね。

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——「見ようとすれば見つけられる」。短い期間で確かな成果を出されている清水さんに言われると、とても説得力があります。貴重なお話をありがとうございました。

(取材・執筆/佐々木将史、編集/北川雄士、アイキャッチ/武田まりん


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