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フランス文学を読んで愛について考えてみた

フランス文学が好きだというと、どうやら賢げに聞こえるようで「へー凄いですね」という反応が返ってくる。

だけど私の好きなフランス文学は、将来を嘱望されている好青年がファムファタルと呼ばれるいわゆる悪女に骨抜きにされ、地獄へ突き落されるグチャグチャの恋愛小説。

もうお分かりかと思うが全くもって感心されるようなものではないし、賢げでもないわけなのだ。

そんなチョッピリ色物好きな私が、梅雨空に負けないくらいの涙を流し、感動した本がある。

その本とは「椿姫」。

「椿姫」を読み終えた時、椿姫ロスが起き、続編があればいいのにと、思ったほどだ。

「椿姫」を知らない方に簡単にアラスジをお話しておこう。

物語は19世紀フランス。この時代の女性は自由に人生を選べるわけではなく、結婚し家庭に入るしかない時代であった。

貧しい家に生まれれば、結婚相手も同じスペックの家柄というのがお決まりであったため、娼婦になる者も多かったという。

「椿姫」の主人公アルマンの想い人マルグリットも貧しい家庭に生まれた女の1人であった。

そんな彼女は美貌を武器に押しも押されぬ売れっ子の高級娼婦に昇り詰める。

高級娼婦といえば、お金持ちしか相手にしないのが一般的であるし、どんな男にも情を移してはいけないというのが、お決まりであるのだが、あろうことかお金もない、ただの好青年とホントの恋に落ちてしまう。

高級娼婦なのにお人よしと言うか、アチャーって感じなのである。

その後はお決まりのパターンで、愛の逃避行をするのだが、娼婦と大事な息子を結婚させるわけにはいかないと、父親のチャチャが入り、ふたりは泣く泣く引き裂かれる。

しかもこの別れが父親の策略だと気付かない鈍感な主人公アルマンは、お金のない生活に嫌気がさし、彼女が逃げ出したのだと勝手に勘違いして、これでもかというほど、意地悪をするのだ。

意地悪され過ぎたせいか、持病の結核をこじらし、死を待つばかりになるまで弱り切ったマルグリット。


その彼女からの手紙で別れの真相をしり大慌てでかけつけるのだが、すでに彼女は帰らぬ人となっていたという悲しい物語なのである。

私があらすじを書くとなんだか安っぽい三文小説のようで、文豪デュマ・フィスに大変申し訳なく思うけれど、まーそれは致し方ない。

あらすじだけを書くとなんだか下手な恋愛小説に見えなくもないこの「椿姫」に何故こんなに心を打たれたのだろうか。

それはきっと愛について深く考えさせられたからに違いない。といっても恋愛感情の愛というよりは、人への愛と言えるかもしれない。

私なりの解釈であるけれど、この物語には3つの愛があったように感じた。それは父から息子への愛。アルマンからマルグリットへの愛。マルグリットからアルマンへの愛。

この3つの愛の中で思い合っているはずのふたりの対称的な愛がとても興味深く心を揺さぶった。


自分の幸せを犠牲にしてまでも、アルマンの幸せを優先させたマルグリット。

一方、彼女を愛しているといいながら、嫉妬と猜疑心で自己中心的な心でしか彼女をみることができなかったアルマン。

最後には真実を知り、自分の浅はかさに心をえぐられるアルマンであるが、死んだ彼女はもう戻ってこない。

そして私はと言うと、大切な人たちはみな生きている。「椿姫」のおかげで、自分の中にもアルマンがいることに気付けたわけだから、心を入れ替えればいいわけなのだ。

いやだけど、そう簡単にはいかない。何故かって、ざっと見まわしてみたところ、ほぼの人というか全員と言ってもいいかもしれないけれど、みんなの中にアルマンの間違った愛があるからなのだ。

私だけがマルグリットのような純粋な愛に生きてしまうと、外れくじばかりを引いて生きていかないといけないのではないかと思うのだ。

話が壮大になり過ぎてしまったわけなんだけど、あまりにも自分を犠牲にしてしまう愛は結局のところ不幸を招いてしまうのではないだろうか。

「椿姫」が何世代にもわたって読みつがれているのは、高尚な愛なんて絶対にわからないであろう娼婦が誰にも持ちえない最高級の愛を貫き生き抜いたことに皆が感動し心を打たれたからである。

なので、即効マネできる愛であれば誰も感動なんかしないし心を鷲づかみにされることもないはずなのだ。

ということは、私たちが愛と言っているものは意外と自己中心的なものであり、実は相手のことより自分のことしか考えていないということなのかもしれない。

「椿姫」によって自己中心的な愛について気付いた私は、ことあるごとにアルマン的な愛ではないかと問いかけ、自分を戒めている。

そうすることで、マルグリットの愛に少しでも近づき、お互いがウィンウィンの関係になれることを日々願ってやまないのである。



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