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【ハーブ天然ものがたり】エルダー/ニワトコ


世界最強の魔法の杖


ハリー・ポッターに登場するニワトコの杖は世界最強とされ、いろいろな人の手に渡りながらハラハラドキドキの「死の秘宝」は手に汗握りました。
指輪物語の指輪のように、柿を独り占めしたくなったお猿さんのように、最強ニワトコの杖をもってしまうと支配欲に打ち勝てず、ヒエラルキーに目詰まり起こしちゃうんだなーと思いました。が!

これ以上はネタバレになっちゃいますね、いまネトフリで観れると思います。(ハリポタ)

猿蟹合戦、からのヒエラルキー所感は柿の記事に綴らせて頂きました。


魔法の杖になったセイヨウニワトコ、学名  Sambucus nigra の樹木の花は、ハーブとして流通しているエルダーフラワーで楽しまれている方も多いと思います。マスカット様の香りがする人気ハーブです。
風邪の初期症状を緩和し、花粉症、のどの痛み、関節炎、緩下剤かんげざいとしての効能も期待されています。

花が終わると濃い赤紫色に熟した実がつき、実の色が黒っぽくなります。また幹は年数とともに黒くなることから学名の種小名 nigraニグラと命名されました。
抗酸化作用、抗ウイルス作用が高くワインの原料となり、コーディアル(シロップ)やジャム、パイなどに使用されています。
ちなみに日本でのシロップ流通は、エルダーフラワー・コーディアルという名で、お花からつくったものが主流と思います。

木と葉には麝香のような独特の香りがあり、煎じ液は打ち身やねんざなどの外用湿布になり、骨折したときは枝を煎じて水飴状にしたものを患部に塗り、添え木をあてる治癒法は古くから日本でも西洋でも同じように伝承されてきました。
ニワトコの別名、接骨木せっこつぼくはここに由来があります。

日本のニワトコは西洋種よりひとまわり小ぶりで、庭床、または庭常と表記します。
日本のニワトコにも、魔法の杖に負けず劣らず多彩な魔力を感じさせる名と伝承がたくさんあります。

・庭床は、新築の家や小正月に祭壇(床)をつくるのに使っていた。

・古名ミヤツコギ(造木、宮仕う木)、平安時代(918年)の「本草和名」に「接骨木、和名美也都古木」と記載があり、ミヤコ⇒ミヤトコ⇒ニヤトコ⇒ニワトコへ変化したといわれています。「宮仕う木」は神さまを迎える時に捧げた幣帛へいはくが、昔はニワトコを削って作られた木幣だったと考えられているからだそうです。

幣帛へいはく
「帛」は布を意味し、古代では貴重だった布帛が神への捧げ物の中心だったことを示すものである。
『延喜式』の祝詞の条に記される幣帛の品目としては、布帛、衣服、武具、神酒、神饌などがある。
幣帛は捧げ物であると同時に神の依り代とも考えられていたため、串の先に紙垂を挟んだ依り代や祓具としての幣束・御幣、大麻なども「幣帛」と呼ぶ。

ウィキペディア-幣帛

・万葉集や古事記では山たづと表記され、「たづ」はツルの古名で、対生にひろがるニワトコの葉をツルの羽に見立てて、鳥のようにあなたをお迎えに参りますというきもちを詠んだ歌がのこっています。

ニワトコ

日本のニワトコ新芽は天ぷらにしていただく郷土料理もあるそうですが、私はまだ未体験です。以前どこかの道の駅で、ニワトコの実(日本種の実は赤)を瓶詰にしたピクルスだったかはちみつ漬けだったかを目にした記憶があるのですが、どのあたりを旅したときだったか…。忘れてしまいました。

ニワトコは縄文・三内丸山遺跡から最も多く出土されている植物種子でもあり、古代エジプトのパピルスにはニワトコの実とミルクを混ぜて飲むと糖尿病によいと記述が残っています。

古い時代から有用植物として人類と歩を進めてくれたニワトコですが、西洋の魔法世界で一目置かれ、世界最強の魔法の杖にまでなった背景を推察するに、グリム童話でも有名なホレおばさんのお話を外すことはできません。


ホレおばさん


グリム童話のひとつ、ホレおばさんは糸紡ぎに精をだす娘たちに親切な魔女で、怠け者の娘には罰を与える怖ろしい側面ももっています。
日本の童話では「花咲かじいさん」の建てつけに似ていると思います。

現代では童話のホレおばさんの方が有名ですが、ほんらいは自然界にも介入できる古い女神のひとりと考えられてきた信仰の対象でした。
ホレの存在を信じていた古い時代(中世魔女狩りブーム以前)には、ホレとニワトコは深く結びついているとされ、人々は容易にニワトコの木を切ったり傷つけることはしなかったといいます。

とある未亡人には2人の娘がおり、1人は怠け者の実娘、もう1人は働き者の継子だった。ある日、継子は糸巻きをうっかり井戸の中に落としてしまい、継母に「自分で取ってこい」と命令される。継子は(糸巻きをとりもどすため)井戸に身を投げる。
気を失うが目を覚ますとそこは美しい草原で、(パンと林檎を助けながら)ホレおばさんの家へたどり着く。

ホレおばさんの家で奉公することになった継子は、羽布団をふるって寝床を直すなどの仕事をはじめる。 しばらくは幸せに奉公していたものの、家に帰りたくなった継子は、ホレおばさんに家が恋しくなったことを告げる。 するとそれを聞いたホレおばさんは継子が落とした糸巻きを返し、更に真面目に奉公した褒美として、継子の身体を黄金で包ませて家に帰す。

大金持ちになって帰ってきた継子に嫉妬した継母は、同じ幸せを実娘にも授けたいと考え、実娘もホレおばさんのところへ行かせることにする。 しかし、怠け者で心の曲がった娘は、パンもりんごも助けず、ホレおばさんの家へ一直線に行く。 さらにはホレおばさんの家でも怠けて寝床をきちんと直さなかったため、その罰として、死ぬまで取れないピッチ(コールタール)を全身にかけられて家に帰される。

ウィキペディア-ホレのオバサン

この物語はドイツのヘッセン地方発祥といわれ、雪はホレおばさんが寝床を治すときに布団から舞い飛ぶ羽と伝承されてきました。
雪が降るのを「ホレおばさんが寝床を直しているね」と言うんだそうです。

古い女神として信仰されてきたホレおばさんは、池や井戸を通らなければ訪ねることはできない死の世界・冥界に棲み、ときおり地上にあらわれては年齢や美醜を変化させてあらゆる女性の姿かたちで登場します。
「糸巻き」というシンボリックなアイテムしかり、ギリシャ神話でいうところのモイラ、運命の3女神のような感じもします。

ウィキペディア
ジョン・メルフイシュ・ストラドウィックの1885年の絵画
『運命の三女神:クロートー、ラケシス、アトロポス』
テート・ブリテン所蔵。

ホレの棲む世界と人が住む世界は、ニワトコの木がふたつの世界をつなぐ扉として機能している説や、夏至の前夜にニワトコの木の下に立つと妖精国の王に会える説など、現代脳では想像力が追いつかない言い伝えもあれば、ニワトコの木の下にいれば虫に刺されない、あるいは呪いや魔法をはねのけてくれるなど、人の身を気遣いまもってくれる説も口承されてきました。

西洋ではニワトコの木を「田舎の薬箱」とか「庶民の薬箱」と呼んで、農民をはじめとする沢山の人々が重用してきた古い歴史があり、こうした植物の治癒力、恵みはホレおばさんに授かったものだと考えられてきました。

たしかに根っこから幹、枝、葉、花、果実に至るまで、さまざまな効能をもつニワトコは、人と植物をつなぐ民間療法という在り方を牽引してきた大功労者といえます。
さらに日用品としても、枝は中芯が柔らかく髄を抜くことができるので、ストローのように使うことができ、火をおこすのに便利だとしてパイプツリーの異名も持っています。パイプは異界の扉そのもの、という感じもします。



オーストリア、ドイツなどではホルンダーブルューテン (Holunderblüten) と呼ばれるエルダーの花や実を使ったシロップが有名です。
ホルンダーはホレおばさんの名前が由来となっているそうです。
水や炭酸水で割って一般的に常飲されている飲みもので、クックパッドにレシピを見つけましたのでシェアさせて頂きます。


ニワトコは窒素に富んだ土質を好んで群生します。
ヨーロッパの古住居跡や遺跡にあるニワトコ群生跡地からは、フシギなことにウサギの遺骸が多く出土されると聞きました。
ウサギたちは永眠につくとき、ホレおばさんの元に還る?のでしょうか。
日本では月に棲むいきものとしてすっかり定着したウサギですが、ホレおばさんの棲むところも、月の軌道上にあるのかもしれません。

ドイツにはウォルパーティンガーという角と羽をもつウサギがいたと伝承されていますが、ホレおばさんが女神として隆盛を誇っていた時代、地球上に生息していた神使いとして空飛ぶウサギがいたのでは、と妄想はふくらみます。一羽二羽と数えるあたりなんかも…

ウサギの「う」は漢字の「兎」ですが、「さぎ」はなんなのかというと、はっきりしたことはわかっていないそうです。
もしかして昔のウサギは「兎鷺」だったのか?(も)

ウィキペディア-ウォルパーティンガー
アルブレヒト・デューラー(ルネサンス期のドイツの画家)の野ウサギの絵


ウサギといえば耳に特徴のある動物です。
耳つながりでいうとニワトコにの根元に生えるキノコ(きくらげ)は「ユダの耳茸みみたけ」と呼ばれます。日本ではキクラゲを木耳と表記します。
キリスト12使徒のひとりユダは、ニワトコの木で首を吊ったと伝承されていることから命名されたそうですが、ユダもホレおばさんの系譜に、なにかしらつながりがあったのかもしれません。

キクラゲのお話はこちらの記事にも綴らせて頂きました。


ウサギも雪も、白くてフワフワして幻想的ですが、運命の女神モイラやホレおばさん同様、表裏一体で怖ろしい顔をもっています。
ニワトコの木も甘くてやさしい香りの花と実に表裏一体で、幹が古くなると黒くひび割れた怖ろしい印象となり、手にしたものを支配欲の権化にしてしまう世界最強の魔法の杖になったりもします。

ニワトコのエネルギーは強力なのでゆりかごをつくってはならないとか、ニワトコの枝で子供を叩くと成長が止まってしまうとか、ニワトコの木で家を建てると不吉なことがおこるなど、ニワトコ伝説の凶事偏もさまざま口承されてきました。
それはハーブが種の絶滅を避けるため身の内に毒をもつのと同じく、ホレおばさんのきざはしであるニワトコには、吉凶ともに特別な祝福と呪詛をかけて、人々があっという間に木を使い果たしてしまわないよう工夫しているのではないかな、と。

やさしさと畏ろしさを併せ持つニワトコは、いつでも聞き耳を立てて地上界の様子をホレおばさんに報告し、わたしたち人類が自然界へのリスペクトを忘れてしまわないよう、月の軌道からウサギたちと一緒に見守ってくれているのかもしれません。

☆☆☆

お読みくださりありがとうございました。
こちらにもぜひ遊びにきてください。
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