【ハーブ天然ものがたり】パセリ
岩場のセロリ
パセリといえば日本では葉の縮れたモスカール種を想像します。
葉縮れパセリは品種改良によって生まれた種でカーリーパセリと呼ばれています。
とはいえ葉縮れパセリは、ほとんどの方が召し上がらず、最近ではおのこしものの自虐ネタになったりで、試行錯誤されている飲食店もちらほらお見受けします。
近所にある洋食屋さんでは立派なクレソンがどーんと添えてあり、はじめて行ったとき思わず「パセリじゃないんですね」と声が漏れてしまいました。
「ハイ、お残しになるお客様が多かったので変えたんですよ」と律儀にお答えいただきペロリ美味しくいただきました。
↑ 写真は昨年ベランダで育ちに育ったイタリアンパセリ。
食用のとは別植えして種を収穫できるよう放任後、記念にパチリ。
地中海沿岸地方原産、セリ科のイタリアンパセリは日本でおなじみのカーリーパセリより、香り風味ともにワントーンやさしくて使いやすいです。
イタリアンパセリは β-カロチン、ビタミンC、カルシウムなど、栄養価の高い香味野菜として使われてきました。
伝統レシピのブイヤベース定番ハーブでもあり日本でいうところのみつば的ポジションでしょうか。
学名の Petroselinum はギリシャ語の石(ペトロ)と、セロリ(セリノン)をかけたことばで、岩石の多い乾燥した土地に生育することから名づけられました。
古代ギリシャではもっぱら薬用ハーブとして利用し、ヒトの食用歴史は古代ローマ時代から。日本では18世紀ころの長崎から栽培がはじまります。
パセリの葉を乾燥させて煮だしたハーブ水は頭皮や皮膚をさわやかに強壮し、利尿作用、消化促進作用があり、筋肉強壮剤として、またアレルギー抑制やリウマチの緩和剤、ねんざや切傷に葉をあてる療法にも使われてきました。
パセリとヘンルーダの場所にいる
ヨーロッパでは、パセリを薔薇の近くに植えると薔薇がよく育ち、香りもよくなると伝承されています。
ギリシャでは、畑や花壇をつくるとき、はじめにその縁をパセリとヘンルーダ(ミカン科、別名ルー)の植え込みからはじめ、境界線をととのえるという伝統的な作法があるのですが、具体的な内容にとりかかるまえ、スタート地点にいることを「パセリとヘンルーダの場所にいる」と表現するそうです。
外枠を決めて内外の境界線を明確に示し、自陣を確保するのは占星学的には山羊座と、その支配星の土星象徴っぽいです。
よくいえば「実質的」に物事がスタートする、地に足がつく、地上ルールに組み込まれて居場所を得ることができた。
少し穿った見方をするなら地上的ルールに縛られる、地に落ちる、出口の見えない因果応報に組みこまれる、という感じでしょうか。
「パセリとヘンルーダの場所にいる」という表現は、これからはじめることの輪郭を描き、あとは実行、着手するだけ、ということなのか、準備できたけどいつまでも実施しないことを表すのか、諺の背後にあるニュアンスには辿りつけないのですが、なにかしらの創造行為をはじめる準備はととのった、ということだと思います。
パセリにまつわる迷信や奇妙な伝承はたくさんあります。
・種まきは聖なる金曜日にするべし
・パセリは芽を出すまえに悪魔の元へ7回か、9回、往復する
・パセリの植え替えは家人を不幸にする
・パセリを人に贈ると相手は不幸になる
・パセリを摘むときに人の名を口にすると呪いになる
・パセリを上手に育てられるのは魔女だけ
・夢にパセリが出てきたら食べるとよい前兆、眺めるだけなら悲しい恋の結末が待っている
などなど。
ベランダで育ちに育ったハーブはたいてい乾燥ハーブにして、お裾分けしたりしますが、パセリだけは差し上げたことがありません。
他国の迷信といえど、古人の口承は尊重せねばと思っています。
(怖がってもいますw)
世界中でたくさん使われているキッチンマスト・ハーブのうち、過去記事でローズマリー、セージ、タイムを紹介してきました。
スカボローフェアの曲にのせて世界中の人々が呪文のように口遊んできた「パセリ、セージ、ローズマリー&タイム」のうち、パセリは奇妙で複雑な背景をもつハーブゆえ、天然所感まじりといってもどこまで詳らかにできるもんだろうか…と試行錯誤しつつ。
アルケモロスって誰?
「パセリの紹介をするとき避けて通れぬ死の紋章」と、アロマニア友人内で話題になるアルケモロス。
ギリシャ神話は系譜と名前が複雑なので、登場人物をしぼり込んで整理してみます。主要人物は3人です。
1.女だけの島リムノスを治めた女王ヒュプシピュレ
2.ネメアの王
3.ネメアの王の息子(赤ん坊)オペルテス
神話の概要
1.リムノス島を治めていた女王ヒュプシピュレが、島の女たちによって女王の座から降ろされ、奴隷として売りさばかれます。
2.ネメアの王がヒュプシピュレを買って、自分の息子オペルテスの乳母にします。
3.ヒュプシピュレはパセリの生えているところにオペルテスを寝かせ、ちょっと目を離したすきにオペルテスは大蛇に食い殺されます。
その血からパセリが生えたというバージョンもあります。
4.予言者がオペルテスを「アルケモロス(非運を始めた者)」と呼ぶようになります。
パセリといえば「勇者アルケモロスの血より生じた」と形容されますが、それはネメア王の息子(赤子)オペルテスの死を悼みつけられた名で、アルケモロスは神道でいうところの「おくりな」のような感じです。
「悲運を始めた者」という意味では、パセリの学名と同じペトロさんもキリスト12使徒のリーダー格でありながら、わが身可愛さに、磔刑になったイエス・キリストを「そんな人知らない」と、うそぶいて逃れた苦しさに悔悟し、布教の旅を続けた果てに、晩年は逆さ十字にかけられて殉職されました。
一見するとパセリは凶事的背景をもつハーブなので、魔女でなければ扱えない、というような風説も口承され、流布されてきたのだろうと思います。
パセリは神話世界では悲運をはじめるものの象徴。
現世では、味よし、香りよし、効能もすばらしい、世界でもっとも消費されるハーブのひとつとなりました。
土元素界に突入
アルケモロスは大蛇(筒)にとりこまれ地上世界と神界のパイプになったのだと考えてみます。
人身御供、人柱、というと現代ではネガティブなイメージがまとわりついて語弊があるかもしれませんが「道なきところに道をつくる先駆者」という意味で考えています。
地上と天界に道ができると、その後同じ霊性グループに所属するたくさんの人々に道が開かれます。
アルケモロスの死を悼んで始まったとされるネメア祭(戦士のための競技会)は、BC6世紀ころに存在したことが確認されているので「悲運をはじめる者」が地上世界に登場したのは古典期のBC8~7世紀くらいかなと。
そして古代エジプト王朝はBC332年に、マケドニアに征服されプトレマイオス朝エジプトの成立とともに終焉を迎えます。
そこからギリシア系の支配するヘレニズム時代に移行していくので、悲運をはじめる者が本格的に量産されるようになったのはエジプト文明からギリシャ文明への移行期だろうと考えています。
悲運は分化することで、別離、分離、縁切り、決別など、それまでくっついていたものの乖離現象です。
それもまた、見方を変えると自らのエネルギーを分岐して、創造物を生み出す行為といえます。
悲運のはじまりとは神々の創造行為が深部へ進むこと、つまり自らのエネルギーを分化しながら地上世界に降下する時代がはじまるよ、という意味ではないかと考えています。
天界意識、恒星意識
↓
神話に登場するキャラクター的な神々
↓
天使や妖精、精霊
↓
王族や神官など、出自を知る者たち
↓
出自を忘れた人間
星々の世界から火元素界、風元素界、水元素界、土元素界へと降りてゆく段で、みずからの出自を忘れてしまうほど小さく小さく分化され、もどり道がわからなくなってしまうことを含めて「悲運のはじまり」と呼んだのではないのかな、と。
アルケモロスを飲みこんだ大蛇は、土元素・固形化・物質化の最奥にある
岩場や砂利までパイプを通しちゃって、アルケモロスのスピリタス(血)によって Petroselinum (岩場のセロリ)を生み出したのかもしれません。
アルケモロスを不注意で死なせてしまったヒュプシピュレは、半神ディオニュソスの孫にあたります。
そしてヒュプシピュレという名は、高き門という意味で神界から岩・砂利のフェイズまで、長くつないだパイプのことを意味しているようにも思います。
大蛇と巫女的ヒュプシピュレの共同作戦は、はたして上手く運んだわけです。
ギリシャ時代以前には、ネメアには王族を守る象徴としてネメアの獅子がいましたが、ギリシャ神話でヘラクレスに打ち倒されて星座になった(星界に戻ってしまった)ばかりで不在でした。
王族を守る獅子を退けたのち、オペルテス(アルケモロス)は成るべくして大蛇と一体になり、ネメア地帯のヤコブの梯子になったのではないかな、と。
前述したパセリとの組み合わせで境界線を示すヘンルーダは、猫が嫌がる香りをもつハーブという通説があります。
パセリに宿ったアルケモロスのエッセンスに、ネコ科動物が近づけないよう、厳重に予防線はってるんだろうか(と、想像はふくらみます)。
☆☆☆
お読みくださりありがとうございました。
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