テクノロジーが変える小売の未来
目次
・ECサイトの登場によって変化した購買行動
・ ショールミング化するリアル店舗
・ WEBルーミングとは?
・キーワードは「データ」の取得
・O2O - オンラインからオフラインへの集客
・OMO - オンラインとオフラインの融合
・D2C - 製造小売がオンラインで直接消費者に商品を届ける
・リアル店舗の役割は体験価値の提供
・リアル店舗でもデータを取得
・OMOはサプライチェーンのヒエラルキーを逆転させる
・決済の自動化
・リアル店舗での人の役割とは
・オムニチャネルを止めているショップ店員
・テクノロジーは人を幸せにするか?
ECサイトの登場によって変化した購買行動
Amazonや楽天、Shopifyなどのオンライン販売サイト(ECサイト)の普及によって、消費者の購買行動が大きく変化しています。私も本を買うときには、ほとんどAmazonで中古本を探すか、Kindle本を買うようになりました。
ECサイトから購入することが増えたため、世界のリアル店舗数99万店舗から、毎年5000件減少していると言われています。
しかし、従来のリアル店舗を使わなくなったわけではありません。リアル店舗の利用目的がECサイトの登場によって変化しているのです。
ショールミング化するリアル店舗
ショールミングとは、実際の店舗に行き商品を確認してから、ECサイトで購入することです。ECサイト上の情報だけでは購入に踏み切れず、実際に体験をしてみたい商品に当てはまります。例えば、服のようにサイズが自分の体にフィットするかわからない物や、実際に機能を試してみたい電化製品などです。
リアル店舗で、実物を体験し購入を決断できたら、ECサイトから購入します。ECサイト上の方が価格が安かったり、配達してもらうことで店舗から持ち帰るめんどくささを解消できます。
WEBルーミングとは?
一方でWEBルーミングという現象も起きています。WEBルーミングとは、WEBで商品の情報を集めて、実際の店舗で最終的な確認をして購入することです。
情報にアクセスしやすいオンラインであらかじめ商品の取捨選択をしておき、本当にそれが使えるものか、色合いやサイズ感、質感などを手にとって確認します。
ショールミングとは真逆の行動だと言えます。
キーワードは「データ」の取得
インターネット通信が発達したことによって収集が簡単になり、事業者が喉から手が出るほど欲しいのが消費者の購買データです。
どのような属性の消費者が、どのような商品を、いつどのような組み合わせで買ったか、というような購買データを、既存商品の改善や新商品の開発に活かします。
これから紹介するO2O・OMO・D2Cは、顧客の利便性の向上と顧客データの取得を組み合わせたものです。
O2O - オンラインからオフラインへの集客
情報へのアクセスが容易で集客をしやすいオンラインと、財布のヒモがゆるく購入に至りやすいリアル店舗を組み合わせて、オンラインからオフラインに集客するサービスをO2O(オンライン to オフライン)と言います。WEBルーミングの発想です。
O2Oでイメージしやすいのは、店舗のアプリです。店舗アプリでポイントを貯めたり、クーポンを使ったり、新商品の情報を知ったりします。アプリを介して、顧客にとって便利・お得な情報を提供することで、集客と購買データの取得をします。
LINEやPaypayが目指しているポジションでもあります。QRコード決済によって購買データを取得するプラットフォームを作り、店舗マップやミニアプリによって店舗に集客を行います。
OMO - オンラインとオフラインの融合
O2Oをさらに一歩進めた、オンラインとオフラインを完全に融合させるOMO(Online marges with offline)の世界が来ると言われています。すでに、中国では日本をリードして、OMOが普及しています。
これが書かれているのが、「アフターデジタル」という本です。
アフターデジタルの世界では、オンラインの使い方の発想を今までの思考からアップデートする必要があります。今まで、オンラインは活用するものでした。リアルの不便なことをオンラインによって補うという発想です。
アフターデジタルの世界では、オンラインとリアルの立ち位置が逆転します。オンラインの世界で、リアルを活用するのです。Amazonがリアル店舗を出店することをイメージすると良いでしょう。
今や消費者はオンラインとリアルを区別して利用していません。その時アクセスしやすい形で、オンラインもリアルも活用しています。これをオムニチャネルと言います。リアル店舗やアプリやSNSなど、複数の販売チャネルを活用して消費者の利便性を高め、売り上げの増加を狙います。
例えば、ネットで食材を注文しておき、帰宅時にリアル店舗に立ち寄って持ち帰ったり、服を宅配で購入しリアル店舗で返品ということも行われます。返品のためにパッケージを行い、宅配業者に郵送をお願いをするよりも、直接近くのお店に持ち込んだ方が楽ですよね。
D2C - 製造小売がオンラインで直接消費者に商品を届ける
ここ数年でD2Cというビジネスモデルが活発になってきました。D2Cはダイレクト to コンシューマーの略で、消費者にオンラインで直接販売する製造小売業のことです。
ユニクロやザラなどに代表されるSPA(企画から製造、小売までを一貫して行うアパレルのビジネスモデル)に近く、実店舗を持たずにECサイトで販売を行います。
この利点は、実店舗を持たないことや、卸売業者などの中間業者を取り除くことでコストを抑えられること、それから顧客のデータ・声を直接、製造、企画に活かして高速で製品の改善ができることです。
ここでもやはり鍵となるのは、顧客のデータです。
画像はFABRIC TOKYOのサイトよりお借りしました。
D2Cの先駆的な事例として、メガネブランドのWarby Parkerがあります。
リアル店舗の役割は体験価値の提供
アフターデジタルの世界では、リアルで提供する価値があることしかリアルで行いません。
リアル店舗は広告の役割もはたします。街の中で実際に目に付くことで広告効果があります。
しかし、それだけではありません。リアル店舗が提供するのが体験の価値です。素晴らしい体験は、顧客に継続して使いたい、また来たいと思わせる力があります。つまり、ロイヤルティを向上させます。
体験の価値によってロイヤルティを向上させる取り組みの例が増えています。
スターバックスの新店舗もそうです。2019年2月に東京の目黒に世界5件目としてオープンした「STARBUCKS Reserve ROASTERY TOKYO」は、のめり込むようなカフェ体験を提供しています。
店内はまるでファンタジーのようなコーヒー工場が吹き抜けに組み込まれており、1階はフードやコーヒー、2階はティー、3階はカクテルが楽しめます。平日にも関わらず、多様な国籍のお客さんが並んでいます。
今後は、どこのリアル店舗も、エンタメ性が重視されるようになるでしょう。
関連リンク
The journey of Starbuck Reserve Roastery Tokyo
リアル店舗でもデータを取得
事業者が喉から手が欲しいのがデータであるという話はすでにしました。オンラインのメリットはデータをたやすく取得できることです。
それをリアル店舗でも同じようにデータを取得する取り組みが行われています。消費者に体験価値を提供する代わりにデータを取得します。
蔦屋家電+はユニークな家電ショップです。二子玉川にオープンしたこの家電ショップは「売らない店舗」で、世の中にまだ出ていない新製品を手にとって試すことができます。接客スタッフが商品の説明をして、顧客からのフィードバックなどのデータをメーカーに直接伝えるマーケティングビジネスを行なっています。
休日には1日に2万5000人がこの店舗を訪れ、店内のカフェや書店を利用して過ごします。
関連リンク
蔦屋家電+
OMOはサプライチェーンのヒエラルキーを逆転させる
今までは、企画、製造のメーカーが上流であり、顧客に届けるショップは下流でした。顧客はもっとも末端で、メーカーが作った商品の中から選ばされていたのです。
OMOによって、決済と紐づく顧客のデータをショップが収集できるようになると、サプライチェーンのヒエラルキーが逆転します。ショップが、何を作ったら売れるかというのをよく知っている状態になるからです。
そして、顧客にもっとも近いショップが上流になり、そのデータを元にメーカーが商品を作るようになります。
決済プラットフォーム、サービス提供者、メーカーという捉え方もできます。QRコードなどの決済プラットフォームが集客とデータ収集を行い、サブスクリプションなどによる、継続的なサービス提供者がプラットフォームに組み込まれ、メーカーはサービサーのために商品を製造して提供します。
Paypayのアプリから、DiDiのタクシー配車サービスを利用し、PaypayでDiDiに支払いをし、メーカーが車をDiDiに提供するイメージです。
決済の自動化
Amazon Goの事例を聞いたことがあるかもしれません。お店に入ったら、商品を手にとって外に出るだけです。お客さんが手にとったものを複数のカメラとAIによって識別し、自動で決済が行われるようになっています。これは、そのままマーケティングデータにもなります。
最近ではユニクロでも、セルフレジを導入しました。精算機のついた箱に商品を全て放り込むことで、商品についたタグをスキャンし、購入する服を一瞬でリストアップできるようになっています。精算機では、現金を入れてもいいですが、クレジットカードや交通系ICカードやID支払いを利用すれば、一瞬でキャッシュレス決済が行えます。今までのように、レジに長蛇の列を作る必要がなくとても快適です。
お客様がお店でやりたかったことは、たくさんの商品の中から自分の欲しいものを選んで手にとって持ち帰ることであって、レジに行列を作ってお金を払うというのは無駄な体験だったのです。
リアル店舗での人の役割とは
ここで、レジを無人化できるなら人件費が浮いて良いという発想ではいけません。実際、中国で顔認証で決済できる無人のコンビニはあまりうまくいっていないと言われています。また、Amazon Goの店舗では、たくさんのスタッフが働いています。
では、決済を自動化した店舗での人の役割とはなんなのでしょうか?
それは接客です。お客様が欲しいものを選択するのを、豊富な知識でサポートしたり、ニーズを聞き出して整理してあげます。また、人の暖かさという価値を提供することで、お客様のロイヤルティを高めます。心地よい体験を求めて、また店舗に来たいと思わせるのは人の力なのだと思います。
商品のバーコードをスキャンし、お金を受け取ってお釣りを返すという作業は機械的であり、本来は人がやらなくてもいいことです。人はもっと人がやることに価値があることを行うことで、サービスの体験価値を高めることができるのです。
オムニチャネルを止めているショップ店員
ここまで、インターネットが変える小売の購買行動について、O2OやオムニチャネルやOMOなど、オンラインとオフラインの融合についての流れと、データの収集、リアル店舗での体験価値の提供、キャッシュレス化について説明してきました。
しかし、オムニチャネルはうまくいっていないという話も聞こえてきます。経営層が、顧客の利便性の追求と体験価値の向上を目指して、オンラインとオフラインの融合を図っていますが、現場レベルでうまくいっていないというのです。いったいなぜでしょうか?
それは、現場のスタッフ、販売員にモチベーションがないからです。
例えば、アパレルショップではショップ店員がお客様に服をすすめ、お客様がショップ店員から購入すればショップ店員の実績になります。歩合給制度であれば、ショップ店員の実績がお給料に反映されるわけですね。
ところが、リアル店舗では服のサイズがあうか、気に入った服があるか確かめるだけに来店して、オンラインで購入をするとショップ店員の実績になりません。
よって、ショップ店員は積極的に自社のECサイトに誘導したがらないと言うワケです。
その解決策が、ショップ店員の評価のオムニチャネル化です。オンラインでもオフラインでもショップ店員の売り上げを評価してあげることによって、積極的にオンラインを活用していく仕組みづくりが可能になるのです。
テクノロジーは人を幸せにするか?
顧客中心マーケティングや、顧客中心デザインなど、人を起点にサービスを作る考え方が近年広まってきました。
それは、働き手に対しても当てはまりそうです。
AIが多くの人の仕事を奪うとなどの「AI危機論」が蔓延していますが、良いこともたくさんあるのではないかと思っています。
今までの働き方を考えてみると、人は機械の付属品として扱われてきました。本来人がやらなくてもいい作業を機械のように行う仕事によって、人の幸福度も下がってしまっていたと思います。
テクノロジーの活用が進んでいくと、人は本来の役割を取り戻していきます。結果的に、働く上での幸福度も上がっていくのではないでしょうか。
何れにせよ、この流れは止まらずますます加速していくでしょう。最大限、人を幸せにするようにテクノロジーを活用して行かなければいけません。
「情けは人のためならず」とも言いますが、全ての企業がコストを追求して人を切り捨てるようなことが起これば、消費者はお金を持てず、消費そのものが消えてしまうことになります。それは、ダイレクトに企業自身の首を締めることになってしまいますから。
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