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さらば、ウォール街!

 「フィンテックに詳しくなるノート」の更新が1ヶ月も滞ってしまい、申し訳ありません。

 ブログの更新が滞っていた原因は、ウェルスナビの資金調達です。ウェルスナビは、10月12日に、総額15億円の資金調達(シリーズB)を発表しました。同時に、SBI証券および住信SBIネット銀行との業務提携も発表しました。

 今回の資金調達により、昨年4月の創業時からの資金調達は累計で21億円を超えました。また、下記の通り、金融系とネット系のバランスのとれた資本構成となり、金融とテクノロジーを組み合わせたイノベーションを加速させたいと考えています。

 改めて、みなさまのご支援をお願い申し上げます。

銀行のROEの低下 

 前回までの「フィンテックに詳しくなるノート」では、

・フィンテックは、「シリコンバレーがやって来る」という言葉に代表されるように、米国の金融機関にとって予期しない動きだったこと

・シリコンバレーが、GoogleやFacebookといった「規制の外側」から、UberやAirbnbに代表される「規制の境界」へと進み、フィンテックに代表される「規制の内側」に到達したこと

の2点を解説しました。

 しかし、フィンテックは金融工学やビジネス慣行、さらには規制に至るまで、高度な専門知識が要求されます。これまで規制の外側で自由にイノベーションを起こしてきたシリコンバレーにとっては、「フィンテックは面倒」というのが正直なところでしょう。

 では、シリコンバレーにとって面倒なフィンテックをわざわざ担う人材は、一体どこからやって来たのでしょうか?

 その答えを解くカギが、2016年9月6日のFTの記事”Banks: Too dull to fail?”にあります。この記事では、2008年のリーマン・ショック以降に、銀行業の利益率が大きく低下したことが指摘されています。

 実際、2006年の28%だったゴールドマン・サックスのROE(株主資本利益率。株主資本に対する純利益の比率)は2015年には9.8%に低下しました。同時期に、バークレイズのROEは21.4%から6.1%に低下しています。

 欧米の銀行業のROEが大幅に低下した原因は、リーマン・ショック後の規制の強化です。リーマン・ブラザーズの破綻をきっかけとして、金融システム全体への連鎖反応を防ぐために、金融機関の救済に多額の税金が投入されました。

 このため、銀行がリスクを取って利益が出れば銀行の経営者や行員のボーナスになるが、損失が出れば国民の負担になるのはおかしい、という声が上がりました。つまり、国民の税金を元手にギャンブルをしているのではないか、という批判です。そこで、リスクに見合った自己資本が求められ、その結果として、ROEが大幅に低下する結果となりました。

「ウォール街を占拠せよ」

 実は、2011年の時点ですでに、マッキンゼーのレポート("Day of Reckoning? New Regulation and Its Impact on Capital Markets Business”)において、グローバルな主要13行のROE(平均値)は、リーマン・ショック前の20%から7%程度まで低下すると予測されていました。

 このレポートのポイントは、ROEの低下はリーマン・ショックに伴う一時的なものではなく、新たな定常状態(New normal)であるという点です。つまり、金融危機の嵐が過ぎ去るのを待っていても、ROEは元のレベルには回復しない、という衝撃的な分析でした。

 この結果、ウォール街では大幅な人員削減やボーナス・カットが相次ぎます。この流れは現在でも続いており、2016年9月5日のFTの記事(“Falling revenues put pressure on investment banks”)によれば、ゴールドマン・サックスの人件費は1年前と比べて13%減少しているとのことです。

 さらに、税金による銀行救済に対する怒りの声が上がります。2011年9月17日には、「ウォール街を占拠せよ」という抗議集会やデモ行進がウォール街近辺ではじまり、実際に近辺の公園を占拠する事態となりました。

 銀行の収益率の半減人員削減やボーナス・カット「ウォール街を占拠せよ」に象徴されるような社会的批判を受けて、ウォール街からは、金融サービスの知識や経験を豊富に持つ人材が、多数、流出していきました。

 大陸の反対側のシリコンバレーでは、ちょうどその頃、リーマン・ショックによるウォール街への不信感から、エンジニアを中心とする起業家たちが、便利でしかもフェアな金融サービスを作り出そうとしていました。

 ウォール街からの人材流出と、シリコンバレーの金融進出。これらの流れが重なり、2010年には17億ドルだったフィンテックへの投資額は2015年には222億ドルへの10倍にも増加していきます「シリコンバレーがやって来る」とは、別の側面から見れば、ウォール街からシリコンバレーへの人材流出でもあるのです。

日本の金融機関もフィンテック人材を輩出?

 翻って日本を見てみると、フィンテック・スタートアップの多くには、経営メンバーとして、多くの金融機関出身者が参画していますが、その大半が外資系の出身者です。これは、国内の金融機関がリーマン・ショックの影響をほとんど受けなかったためだと考えられます。

 しかし、今後、日本におけるフィン テックがさらに発展していくためには、現在の何倍、何十倍もの人材が必要とされており、外資系に限らず、金融機関からスタートアップへの本格的な人材供給が不可欠です。

 実際、創業から1年半で総額21億円の資金調達と、30名弱のチーム作りを行ってきた私自身の実感としては、チーム作りの方が資金調達よりもはるかに大変です。

 そういう趣旨の発言をすると、「えっ、資金調達の方が大変なんじゃないの」と言われることが多いのですが、実はそうではありません。チームがあっての事業であり、お金だけでは何も起こらないのです。

 最近の金融行政の変化やフィンテックの流れを受けて、国内金融機関もフィンテック・スタートアップへの人材が輩出されていくのか、今後の動きに期待しています。

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